第3章:ヴィクター・ウォラック – 後編
序章
デッドは依然としてヴィクターの屋敷への侵入を試みていた。動体検知器、監視カメラ、そして警備兵を無力化し、次に待ち受けるのは何か――。
現在。
デッドはついに屋敷への侵入に成功した。足音を殺し、獲物を探す獣のように廊下を進む。ジャマーによって館内のカメラはすべて機能を停止し、証拠は一切残らない。
やがてヴィクターの寝室の前に到着。デッドはダイヤモンドビットのドリルを取り出し、扉に細い管が通るほどの穴を開けた。
※ダイヤモンドビットは最も硬い壁でも穿孔可能な特殊工具である。
バッグからスプレー缶を取り出す。中にはアボカドの香りを持つガス。細い管を通して室内へ流し込む。ヴィクターはアボカドに対する重度のアレルギーを持っており、すぐに呼吸困難を起こした。だが倒れる直前、彼はベッド脇の金庫の下に隠されたボタンを押す。それは警備兵を呼び寄せる非常アラームだった。
屋内の警備兵は、デッドが仕込んだ睡眠薬により眠っており反応しない。しかし屋外では、警備兵の装甲に内蔵された警報システムが作動し、全員が屋敷へ突入してくる。デッドは扉を蹴破り、標的が確実に死んだことを確認するため中に踏み込んだ。
ルールその2:現場を離れる前に必ず標的の死亡を確認する。
手袋越しに脈を測る――死亡確認。デッドは即座に出口へ向かうが、すでに屋敷は包囲されていた。
「投降しろ! お前は完全に包囲されている!」
警備兵の一人が叫ぶ。
デッドは冷静かつ自信に満ちた表情で屋敷から姿を現す。
「仲間はどこだ! 今すぐ出せ!」
別の兵が怒鳴るが、デッドは何も答えない。
「殺せ。仲間は後で探せばいい」
第三の兵が吐き捨てる。
隊長が前に出る。
「最後に何か言い残すことはあるか、ガキ?」
デッドの袖から小さな金属球が転がり落ちる。次の瞬間、それは爆発し、濃い煙が一面を覆う。混乱に乗じ、デッドは西側の大門へ向かって疾走する。レーザーの照射をかわしながら、煙玉を投げ続ける。その動作を五分ほど繰り返した。
隊長の副官がふと立ち止まり、考え込む。
(なぜこんな回りくどいことを…? 逃げるだけなら一直線に走ればいい。煙玉など投げれば居場所がすぐにわかるはず…まるで我々をどこかへ誘導しているようだ…まさか…)
思考に気を取られ、他の兵から遅れを取る。そして――真実に気づく。
「キャプテン! これは――」
言葉を言い終える前に、副官の装甲が真っ二つに裂ける。視界の端に、白いスーツの男が映った。男はそのまま疾走し、警備兵たちを一人ずつ切り倒していく。
隊長はデッドに追いつき、銃を構える。しかし空を横切る影に気づき、見上げた瞬間――腕が切断される。悲鳴を上げながらも残った腕でレーザー砲をチャージするが、狙いを定める前に首が飛んだ。
影の正体は――ジョーカーだった。
デッドが初めて口を開く。
「遅いな」 (冷たい声)
「悪いな、道が混んでてさ」 (茶化すように)「しかしお前が俺に頼むとはな、あの扱い方で…」 (皮肉交じりに)
「なぜ来た」
「お前が俺に助けを求めるなんて、どれだけ苦しかったか想像できる。さぞ苦しんだろう…ヒヒヒ」
「お前は本当に狂ってる。それが理由で俺は話さない」
「まあいいさ。どうせ誰にも話さないんだろ?」
「話す必要がない。俺は任務を遂行するだけだ」
「相変わらず冷たいな」
――回想。
襲撃の前日。デッドは作戦成功のため外部の協力が必要だと判断した。熟考の末、最適な人物はジョーカーだと結論づける。窓にぶつかった伝書鳩を使い、居場所と計画の概要、そして必要な装備の在処を記したメッセージを送った。
――現在。
デッドとジョーカーは生存者がいないことを確認し、その場を後にする。
本部に戻ったデッドは報告を行い、局長はその大胆な計画を称賛した。
「お前は新たな段階に達した」
だが、その「段階」が何を意味するのか、デッド自身にも分からなかった。
続く――