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第2章:ヴィクター・ウォラック(前編)

初任務を成功させたデッドは、跡形もなく姿を消した。

現場には何の証拠も残らず、警察は未だに言葉を失っている。

本部に戻ったデッドは、空き時間を使って射撃技術のさらなる向上に励んでいた。

その時、彼の前に現れたのは、一人の謎めいた青年。

背丈はほぼ同じ。細身の体に、血で描かれた大きな赤い笑みのマスクをつけていた。


青年は静かに歩み寄り、右手を差し出す。

「やあ、初めまして。ジョーカーだ。」

その声は落ち着いていて穏やかだった。

「君はデッドだろう?間違いないな。」


デッドは無言で頷く。

ジョーカーは、彼の初任務成功を称えた。新人が初任務を成功させることは極めて稀だという。

「一体どこで銃の使い方を学んだんだ?」と聞くが、デッドは無表情のまま射撃を続ける。


ジョーカーは次々と質問を投げかけるが、デッドの口から一言も出てこない。

ついには「…まさか君、口がきけないのか?」と冗談交じりに問う。


その瞬間、デッドは射撃をやめ、ジョーカーを三秒間だけ冷たく見つめ…そのまま立ち去った。

ジョーカーは呆気に取られ、ぽつりと呟く。

「変わったやつだな…」


一年が過ぎた。

その間、デッドは組織で最も優秀な暗殺者へと成長した。

任務は千件以上──失敗は一度もない。成功率100%。

標的が誰であろうと、任務の内容がどれほど困難であろうと、必ず達成する。


新人たちは彼に憧れ、その背中を追いかけたが、多くの者は同時に彼に不気味さも感じていた。

この一年、彼は一言も喋らなかったのだ。口がきけないわけでもないのに。

冷たい眼差しも相まって、組織内では新たなあだ名がついた。


── 「死神デッド・ザ・リーパー」。


いつものように、空き時間は射撃場で過ごす。

弾倉を空にしても、全弾が一つの穴に集まるほどの腕前だった。


数時間後、局長から呼び出しがかかる。

局長室に入ると、局長はテレビでニュースを見ていた。

画面に映っているのは、世界最高のロボット工学者──ヴィクター・ウォラック。

彼は超高性能な最新技術を搭載したパワードアーマーを開発したことで有名だった。


局長は机の引き出しから一つのファイルを取り出し、デッドに手渡す。

その中には、今回の標的としてウォラックの名が記されていた。

デッドはいつものように一言も発せず、部屋を後にする。


滞在先のホテルに到着し、ファイルを開く。

ウォラックの自宅はホテルから車で30分ほど。

敷地面積500平方メートルの邸宅には、多数のボディーガードが最新鋭のアーマーを着て警備にあたっていた。

正門は厳重な守り。敷地に侵入するには必ずそこを通らなければならない。


さらにファイルにはこう記されていた。

──ウォラックの開発したアーマーは、戦車やミサイル、爆薬すら防ぐ。

事実上、不可能に近い任務だ。


デッドは屋敷の近くに潜伏し、3ヶ月間観察を続けた。

やがて重要な情報を掴む。


ウォラックはパーティー好きで、2日に一度は宴を開く。


女性好きで、外出や帰宅の度に連れの女性が変わる。


アボカドアレルギーを持つ。


この最後の情報は、デッドが浮浪者を装って敷地外のゴミ捨て場を漁った際に判明した。

どれだけ探してもアボカドやそれを含む食品は見つからなかったのだ。


デッドは複数の作戦を考案するが、いずれも成功の可能性は低い。

彼にとって自分の生死はどうでもいい。重要なのは、標的を仕留めることだけだ。


二日二晩、思考を巡らせた末、三日目の朝、行動を決意する。

襲撃前夜、机の上で作戦図を確認していると、窓に「バンッ」と鈍い音が響いた。

鳥が激突したのだ。


翌日。

部屋をきれいに整え、唯一の作戦図を棚に残して出発する。

──もし失敗しても、再び挑戦できるように。


夜。

デッドは白い三つ揃いのスーツを身にまとい、ゴミ捨て場付近で待機する。

狙うのは、監視の薄い北側。

ナイトビジョンを使用する警備兵には、白いスーツは背景と同化して見えない。


警備兵を次々と無音で抜け、屋敷の北側の壁に到達。

バックパックからダイヤモンドブレード付きのコンパクト電動ノコギリを取り出す。

防弾ガラスに穴を開け、カメラで室内を偵察する。


部屋の隅に監視カメラ二台、天井中央に動体センサー。

デッドは液体窒素を散布し、室温を一定に保ってセンサーを無効化。

さらにジャマーでカメラを停止させる。


一ヶ月前、デッドは屋敷内警備のガードたちが毎晩22時頃にピザを注文していることを突き止めていた。

彼はその食事に8時間効く強力な睡眠薬を混入。

22時から翌朝5時まで、屋敷内部は無防備となる。


──つづく。



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