EP:14
ララの件が片付き、中断していた食事を再開する。
レオンは眷族に声をかけ、それから小さな悪魔達が部屋を出て行った。
変わらずにレオンは側でじっと私を見ていた。
私が「殺す事を禁止」した理由は、ただルルを殺さないでほしかったから。
それ以外に理由は無い。
もっと言えば、目の前で誰かが死ぬのは見たくなかった。
私の要望は、目の前の小さな命を救えただけで、目的を達成している。
だから、だから引き下がった。
本当はもっと、求めたかった。
でも、不用意な発言は控えるべきだ。
レオンの考えている事は、人間の想像を超えている。
常識・価値観・その全てが通用しない。
私は、どこまで求めていいのか。
"幸せにする"が、どこまでを指すのか。
例えばこの主従紋を解除してもらえるか。
例えばこの屋敷から出る事は許可してもらえるか。
そのすべてが私の"幸せ"の為であれば、叶うのか。
分からない。
そんなことを求めて、私の処遇がどう変わるか。
先に私に危害を加えない事、を求めてみるか?
その後なら、私が何を求めてもなんとかなる……か?
……駄目だ、軽率すぎる。
レオンには常識なんて通用しない。
気に食わない事があれば、私の存在を作り直す手段を持っている。
何かの拍子に洗脳される事もあるだろう。
求める事は、言葉は、慎重でなければならない。
……。
私が、私じゃなくなったら……私は、それを嫌がるだろうか。
……いや、そのときはもう、私じゃないのだから。
どうでもいいのかもしれない。
あぁ、どうして。
生きるって決めたのに。
希望が、見えない。
絶望が、付きまとって離さない。
少し、時間が必要なのかもしれない。
今は、この食事に感謝して、生きている事を幸運に思おう。
先の事を、直ぐに決める必要は無い。
どうせレオンに寿命なんてないのだから。
少しくらいゆっくりしてもいいだろう――。
静かに食事をする私を見て、レオンが声をかけてきた。
「……もしかして、俺邪魔?」
「いいえ? 確かに見られているのは不思議ですが、邪魔ではありませんよ」
「……そっか。ならいいか」
「差し支えなければ、何故私を見るのか聞いても良いですか?」
「あぁ、俺たちはね、食事に価値を感じないんだ」
「……価値?」
「そう。俺たちは生きる為だけに食事をする。でも人間はそうでは無いだろう?」
「そう……ですか?人間も生きる為に食べてますよ」
「それはそうだけど、食事が"美味しい"と感じるのだろう?」
「……?そうですね?」
「それが、羨ましい。だから見ている」
(……何を言ってるんだ、この人は)
「哲学ですか?」
「とにかく、見ていたいと思うんだ」
そう言うレオンの表情は変わらない。
何言ってるか、何を思っているのか良く分からない。
会話をしているのに、出来ていない。
人間と話すのが久しぶりと言っていたし、そもそも得意ではないのだろう、と納得した。
美味しい食事に満足して、「御馳走様でした」と祈った。
「レオン、私少し疲れたので、このまま休ませて頂きたいのですが」
「うん、アリシアがそう言うなら今日はもう失礼するよ」
「用事がある時はどうすればいいですか?」
「名前を呼ぶだけでいい」
「……ベルとか」
「不要だよ。必要な者の名前を呼ぶだけでいい」
「小さな声でも?」
「声量は関係ない。求めに反応するようになっている」
「それはなんとまぁ……便利ですね?」
「そう?」
「試してもいいですか?」
「構わないよ」
少しだけわくわくして、小さな悪魔を小声で呼んでみた。
「ララさん……!」
私のつぶやきは側にいたレオンにしか聞こえなかっただろう。
それから間もなく、ドアをノックする音が聞こえた。
返事をすれば、ドアが開かれ、ララが立っていた。
「お客様、どうされましたか?」
ララの髪色はピンク色で、少しだけくせっけのあるカールがとても愛らしい。
「お呼び立てしてすみません。できれば湯浴みがしたくて」
「かしこまりました。すぐにご用意致します」
小さくお辞儀を頂いてから、すぐに対応に向かってくれた。
「とても便利ですね」
「君が気に入ってくれたならよかったよ」
「どんな仕組みですか?」
「この屋敷に仕組みだよ。他にもあるけど、まぁ便利だね」
「凄いですね」
「そうだね。そろそろ行くよ、俺の事も呼んでね」
「はい」
それからレオンは部屋を出て行った。
誰もいなくなって、部屋が静かになった。
あぁ……。
疲れた。