EP:11
「さて、では君をどう幸せにしようか」
「……難しい問題ですね」
「君は求めるだけでいいんだよ?望めばいい。そしたら俺が叶えてあげるのに」
「随分な言いようですね」
「本当に、君が幸せになるなら俺は何でもするよ?」
「愛の告白みたいですね。……ドキッとします」
「……もっと聞きたいなら、何度でも言うよ。君が幸せになるのなら」
「いえ、結構です。……嘘ですので」
「はぁ……。こんな強情な人間に出会ったのは初めてだよ」
「……命令すればいいと思います」
「それはもう試した。命令は、どうも味が落ちる」
「……そうですか。人体実験の賜物ですね」
「夢とか希望とか、なんでもいいんだけど、本当に何もないの?」
「……」
「なんでも叶えるよ?」
「……あっ……」
「何か思いついた?」
「……いえ……」
自分に言い聞かせる。
”希望"など、ないのだと。
“幸せ”など、願って叶えていいような人生を送ってこなかったのだと。
泣きじゃくる男の子の、助けてという声。
あの、小さな手を取れなかった自分が、幸せを願うなど、おこがましい。
自分を蔑んだ。
諦めた人生、諦めた命。
何も期待していないし、何も求めていない。
「君がさっき言っていた事はどう?家族と会いたいと言っていたよね?」
「……そうですね、会いたいです」
「なら会わせてあげるよ」
「やめてください」
「どうして?」
「……では、その方法をお聞かせください」
「簡単だよ、ここに連れてくればいいでしょ?」
「絶対にやめてください」
「どうして?」
「私が幸せになりません」
「……なら、連れて行けばいい?」
「それも駄目です」
「なんで?」
「私が幸せになりません」
「……なら、複製人間を作ろうか?」
「それも駄目です」
「何故?」
「私が幸せになりません」
「君が家族と会えたら幸せだと言ったんじゃないか!」
「はい。……ですが、家族と会うことを望んでいないのです」
「人間は難しい。何を言っているのか理解できない」
「はい。だから、私を幸せにするのは諦めてください」
それは、懇願にも似た、事実だった。
なのに。
なぜ、私は今、ここで、息をしているのだろう。
なぜ、この憎くてたまらない、相容れぬ醜悪な悪魔と、会話しているのだろう。
本当に、何も期待していない。
このまま人生が終わってもいいと思っているのに。
なにもかもがどうでもいいと、そう思っているのに。
心の奥底に、小さな消えない光がある。
本当に諦めきった人生なら、会話などせず、人形のようにただ静かに過ごしていればいい。
たとえ眷属が目の前で殺されようと、私の扱いがどうであろうと、殺されていないだけの生活を受け入れればいい。
頭では、きちんと理解しているのに。
なのに。
私はまだ、期待しているのか。
相容れる事が無いと分かっているのに。
幸せを求めてほしいと言う、悪魔の囁きに、光を見てしまっているのか。
「困ったね……」
悪魔は考える様な素振りをして、それから冷たい一言を放った。
「君を作り直すしかないかな?」
「それは……どういう意味?」
「文字通りだよ。君の構築をし直す。ただ、リスクを考えるとしたくないなぁ」
「……なぜ、その結論になったの?」
「君を幸せにしたいからだよ」
(理由になってない……)
「……では、なぜ、私に拘るのでしょうか」
「そんなの決まってる。君が"特別"だからだよ」
「特別ですか?」
「そう特別だ」
「何が……」
「うーん、そうだね、なんて言えばいいんだろう。人間でいうところの奇跡、かな?」
「私が、奇跡ですか?」
「うん。君の様な人間を、俺の人生で一度も見たことがないよ」
「それはなんというか、光栄です?」
「まぁ、それに気が付ける者は少ない。君に出会えたことは幸運だった」
「そうですか……」
「だから、俺は君をどんな手を使っても幸せにしたい」
「味の為に?」
「そう、味の為に」
「あまりに執着が過ぎませんか?食事程度にそこまでしなくても」
「そんなことない。君を手に入れたら誰だってするさ」
「……答えになってない……」
「まぁ、ともかく、君は特別だ。だから君が幸せになれる様に、俺は君の構築をやり直してもいい」
「……あぁ、もう、意味わからない!」
思わず出たそれは、限界を超えた、叫びになった。
私の怒りを込めた声と態度に、悪魔はびっくりしていた。




