表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/14

EP:01


打たれた薬の影響か、視界は靄がかかったように霞み、焦点が定まらない。


考える力も失われ、思考は断片的にしか働かない。


全身が軋むように痛い。


内臓も外傷も損傷が酷く、吐き気と倦怠感に襲われ、辛うじて意識を保っている状態だ。


(……なぜ、生きているのだろう)


自分でも理解できないほど、満身創痍だった。



床のコンクリートの冷たさが、容赦なく体温を奪っていく。


(せめて、魔法が使えたら……)


力なく落とした視線の先には、自らの腕。


そして、そこに装着された収魔石で作られた手枷。


この石のせいで、体内の魔力は制御不能となり、常に流出し続けている。


そして、魔力の制御ができなければ、魔法は使えない。


この手枷を外さぬ限り、私は“ただの人間”だ。



檻の外から、くぐもった話し声が聞こえてくる。


おそらく、奴隷商と私を買った悪魔のものだろう。



ほどなくして、牢の錠前が開く音が響く。


首に繋がれた鎖が乱暴に引かれるが、私は動かなかった。



「バチンッ!」


乾いた音と共に、鞭が皮膚を打つ。


傷口が裂け、痛みに声が漏れる。



「うっ……」


それでも、私は動かない。


――いや、動けないのだ。


痺れを切らしたのか、奴隷商が醜悪な声で命じた。



「出てこい」


肩に刻まれた主従の刻印が淡く光り、その命令を強制する。


私はふらつきながら身体を起こし、震える足取りで檻の外へと進む。


無理やり身体を動かしたせいで、蓄積された痛みが全身を走る。



「あ……うっ……」


顔を上げれば、目の前に悪魔がいた。


私たちが最も忌み嫌う存在。


世界から排除しなければならない、害獣。



霞む思考の中で、それでも憎しみだけは鮮烈に湧き上がる。


(私は……この男に……)


奴隷商が何か短く呪文を唱えると、再び主従の刻印が光を放つ。


熱が、全身を駆け巡った。


――ドクン、と。


巨大な鼓動と共に、痛みが爆発する。



「う……はぁ……ぁあ……!」


膝をつく。息ができない。全身が燃え上がるようだった。



「はぁ……はぁ……」


そして、私は理解する。


私は今――


この悪魔の、所有物になってしまった。


(どうして……どうして、こんなことに……)


「カシャン」と、鎖が引かれる音が響く。


思考は再び霧に沈み、ただ従うことしかできない。


鎖の微かな振動すら、全身に痛みを走らせる。


震える足で、たどたどしく悪魔の後を追う。


意識の隅で、朧げな理性が最後の抵抗を試みる。


私は、自分の舌を噛み切ろうとした。


だがその瞬間、再び刻印が発光し、身体が凍りついた。



「うっ……!」


強烈な電撃が走り、私はその場に崩れ落ちる。



「……おい」


低く、苛立ちを孕んだ声が降ってくる。


悪魔は大きく溜息をつき、それから迷いなく私の身体を抱き上げた。


まるで、壊れ物を扱うように。


そして、突如として背中から真っ黒な翼を広げると、夜の空へと飛翔した。


悪魔の腕の中で、私はただ思った。


(……死にたい)


その思考を最後に、意識は闇へと沈んだ。




月を背に、夜の帳を引き裂くように飛ぶその姿は、


かつて世界を恐怖に陥れた“災厄の影”と、あまりにもよく似ていた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ