タイムレース1
※現在登場人物紹介は取り払い、こちらを特別表示中です。
A県夜洛市 輪命回病院
西棟側 東棟側
7階 屋上
6階 産婦人科・乳腺外科 小児科
5階 呼吸器循環器内科・外科 心臓外科
4階 消化器内科・外科 脳外科・神経内科
3階 リハビリテーションルーム 整形外科
2階 手術室 ICU HCU 透析室
1階 外来患者受け付け インフォメーション
コンビニエンスストア 救急センター
輪命回病院6階産婦人科・乳腺外科病棟で、風晴と安西は、ようやく保管・補充室と宿直室を見つけた。保管・補充室に始めに入ろうとしたが、そのドアは鍵がかかっていた。
『ダメか。』
風晴は落胆の声をもらす。安西が、
『宿直室は?』
と、すぐ隣りの作りになっている部屋のドアを指さした。
そのまま指差した手でドアノブを回すと、
ガチャリ と
開いた。風晴と安西は、無言で顔を見合わせてから、そこに入った。
部屋の半分がロッカーや荷物置き場のようになっていて、もう半分は、仕切りがあり少し高くなった室内に畳が敷かれている。今は誰も使う時間ではないのだろう。クーラーが止まっていて、ひどく暑かった。
窓からの西陽で まだ充分に明るかったので、2人は電気はつけずに室内に入った。
風晴は、奥の畳の部屋を覗きに行く。安西は、ロッカーや配管の見える方へと足を進めた。
風晴が畳に上がるためにシューズを脱ぐ所作に入った時、後ろから、その声は上がった。
『あった。』
喜びでもなく、絶望でもなく、どちらかと言えば 言った本人も、信じられないような気持ちのこもった響き。
風晴は振り返った。安西は たたずんで、ただ凝視している。
それを。
風晴は安西の視線の先に進んだ。途中で脚を止める。
近づけなかった。
それは、壁に貼り付けられていて、シルバーの四角い形状をしており、あちこちからカラフルなコードを垣間見せていた。見ただけで、風晴もこれなんだと分かった。
そこにはデジタルタイマーが付けられており、表示が次々と減っていたから。
24:58:07
それが、風晴と安西の見た数値だった。
でも、一瞬で変わる。減っていく。残り時間が。
『ふざけるのもいい加減にしろ!!全員逮捕するぞ!!』
警察本部会議室には、江元本部長の怒号が響いた。周囲の警察官の中には 肩をビクつかせた者もいたが、正火斗は動じなかった。
神宮寺の、桂木からの病院内人数読み上げは終わっていた。正火斗は口を開いた。
『2011年の夜洛市交通事故で死んだのは、" 緑川まどか" ではなく今井薫子の方だ。2人は元々よく似ていた。加えて、事故で頭から顔上部への治療をした際に、なんらかの手を加えた可能性があります。
今井薫子の家族と緑川まどかには怨恨がある。今井薫子側は気づいていなくても、事故そのものも事故では無い可能性が高いと僕は思う。
でも今重要なのはそこではない。
大切なのは、今井薫子として生きていた緑川まどかは、黒竜池で地蔵を利用して自殺を偽装し、さらに、生き延びているということ。
彼女は関光組員の羽柴真吾を操っていて、羽柴は武器密輸に携わっていた村田駿二の弟分です。関光組が海外軍事物資企業と関わっていたことは、そちらも周知のことのはず。だが,あなた方はその3つの武器をみつけられなかった。』
江元は、その額に血管を浮かび上がらせた。
『黙れ。』
正火斗は従わない。
『流良川花火大会会場に、爆弾は一つ。他にはない。遊ばれているのはそっちです。警察への目くらましの罠だ。花火大会会場を爆破しても彼らにメリットは何もない。』
『黙れ!』
彼は続けた。
『輪命回病院の記録を、彼らは消したいんだ。ずっと狙っていたんでしょう。でも、なかなかうまくいかなかった。
新型流感がおさまって、花火大会が戻ってきた。武器もそろった。条件が、整ったんだ。』
そろったものはまだ他にあったのだろう。真淵実咲、桜田風子、桜田風晴、、、だが、これは口にはしなかった。
江元本部長は、ついには立ち上がった。
正火斗と同じ目線の高さになり、最高責任者は命じた。
『こいつらを逮捕しろ!!!!』
その瞬間
ブーブーブー と正火斗のスマートフォンが鳴った。
安藤は画面を見て、
『爆弾の写真きました!!病院にいる子達から!』
と、叫んだ。
あたりが異様なざわめきになる。
正火斗が
『見せて!』
と言いながら、自分のスマートフォンに飛びついた。
その画面の爆弾のタイマー表示は
23:49:38
と写っている。
正火斗は奥歯を噛んだ。
『貸して!本物か照合する!』
上層部の1人が安藤に言っている。安藤から渡された画面を見て、
『に、、23時間?』
と言った。
タブレットにも受信したのだろう。椎名が
『23分ですよ!残り20分少しで、爆発するってことです!!』
と怒鳴った。もう年齢も社会的地位も関係なくなってきた。
ようやく事態の深刻さに気づきだした警官達が慌てだす。上層部も顔を見合わせている。
さっきまで、顔を赤くしていた江元本部長も蒼白になった。
『爆弾処理班!消防!救急!至急 輪命回病院に向かわせろ!』
正火斗と違うところに、ようやく彼の声は向けられた。
それでも、正火斗はその指揮を任せることは出来なかった。警察に任せても駄目だ。そもそも、もう間に合わないのだ。大型総合病院、職員258名、入院患者数、399名、一般人182名、これを、全員避難させることは神業だ。
それでも、やる。
自分達は 挑む。
正火斗は、警察本部長江元政信のいるテーブルに行き、その両腕をついた。