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到達までの攻防戦


※現在登場人物紹介は取り払い、こちらを特別表示中です。




A県夜洛市 輪命回病院



     西棟側            東棟側


7階          屋上


6階 産婦人科・乳腺外科         小児科


5階 呼吸器循環器内科・外科      心臓外科


4階 消化器内科・外科       脳外科・神経内科 


3階 リハビリテーションルーム     整形外科 


2階 手術室 ICU HCU 透析室 


1階   外来患者受け付け   インフォメーション

   コンビニエンスストア      救急センター







一階では、桂木が早速自分の役割を果たしに、安西と水樹とは別行動に移っていた。


安西と水樹は、それぞれのスマートフォンにきた館内地図を見て打ち合わせをしている。


『1階が広いわよね。2階は行っても探せる所は限られているかも。3階は出入りしやすそう。』


安西もうなずいた。


『2階は あえて抜かそう。他を探して、どうしても見つからなければ最終的にこのフロアになる。』


彼は続けた。


『僕は3階から行くから、水樹は一階を頼む。広いから丁寧にね。3階が終わったらLINEするから、水樹が一階が終わった時には、確認して4階に行くか5階に行くか判断してほしい。』


『了解。行くフロアを決めた時には、私もLINEする。』


水樹はそう言ってから、歩きだした。


『水樹。』


安西は離れて行く水樹の手首をつかんだ。

彼女が驚いたのが、つかんだ手首から安西に伝わった。

振り返った顔にも戸惑いは浮かんでいる。

それでも、離せなかった。驚いていても、彼女は綺麗だ。


『何かあれば、すぐ外に出て。それが正火斗の願いだ。絶対に。』


自分の願いでもある。心から願ってきた。いつも、いつも、、、


その言葉を聞いて、水樹は微笑んだ。女神そのもののように。


『兄さんは止めるわ。私は分かる。』


緩めた手から、その細い手首は()り抜けてゆく。

彼女は瞳を細めて、最後に言った。


『秀一も気をつけて。』


遠ざかっていく美しい人。



分かってしまった気がした。


何故いつも

あの人に名前を呼ばれるたびに

ひどく恐ろしくて、苦しくて、切なくて そして

こんなにも 幸せ なのか。



届きはしない。


分かっているから、傍にも寄れなかった。

だから、近づくことを避けてきた。



安西は、一階中央にあるエレベーターホールの方にまで来ていた。待機中の一機に乗り ボタンを押す時、指は3を押すことをためらった。

ためらい、そして、彼は 6を押した。


6階 産婦人科・乳腺外科


上昇するエレベーターの中で安西は瞳を閉じた。

間違いなく、1番可能性が高いはずだ。、、爆弾があるのならば。






A県夜洛(やらく)市内にある警察本部に、正火斗達は到着した。

安藤、正火斗、神宮寺、椎名は車を降りたが、北橋は助手席でためらった。


『市内の混み具合から、意味がないかもしれないのは分かってる。でも、輪命回(りんめいかい)病院に向かわせてくれないか?』


彼はそう言った。9年追い続けた相手が、いるかもしれないのだ。

安藤は


『いいわよ。こっちは任せて。でも、これで私のランドクルーザーは馬鹿にできなくなるわよ、あなた。』


と、車のキーを投げた。

北橋はキャッチして


『脚を向けて寝ないようになるかもね。』


と、返した。安藤星那はそれに少しだけ微笑んだ。

正火斗は


『気持ちは分かりますが北橋さん、彼の周囲はあらゆる意味で危険なはずです。気をつけて下さい。』


と告げる。

その言葉には北橋は真顔でうなずいて、それから運転席へと移り、ランドクルーザーを混み合う一般道に走らせていった。


『行きますよ。時間がない。』


正火斗はすぐに きびすを返して警察本部の自動ドアに向かう。

一階の総合案内窓口から声がかかったが、正火斗は


『電話で、黒竜(こくりゅう)池事件と流良(ながら)川花火大会についての報告をことわりました関係者です。上がります。』


と、素知らぬ顔で通り過ぎ、エレベーターに乗り込んだ。

実際は電話をした事実があるだけで許可は何もない。

車中で、すでに北橋に警察本部施設案内図を出してもらって頭に入れてある。迷わず最上階の5階を押した。


彼は上がり切ることを願っていたが、残念なことに3階でエレベーターは止まってしまった。中年の男性2人が話しながら乗り込んでくる。彼らは4を押したが、振り返って、安藤に質問してきた。


『君達は5階へ行くのか?全員が?』


『ええ。私は記者で、他は事件の関係者です。至急、報告したいことがありまして出向きました。先程電話で連絡済みです。』


安藤は やり過ごそうとしたが、相手も警察だ。食い下がってきた。


『上の階は会議中で入られないはずなんだ。君、身分証出して。』


安藤は黙って名刺を出そうとポケットに手を入れた。

その時、彼らの押した4階にエレベーターは到着して扉が開く。瞬間、正火斗は男2人を片手ずつで思い切り押し出した。


ドンッ と

尻餅をつく音が廊下に響く。

椎名が縮こまって身体を伸ばし、エレベーターの 閉 ボタンを連打していた。


『おい!待て!』『こいつら、、、っ』


声の間に扉は閉まった。

上昇する間に安藤は言った。


『4階から5階までなら階段ですぐだわ。』


『作りが、階段が(はじ)の構造なんです。出れば、こっちが会議室のドアに近い。会議中はむしろ運があります。幹部がそろってる。』


正火斗が言った途端にエレベーターの扉がまた開いた。

5階だ。

彼は瞬時に飛び出していた。


『あいつだ!捕まえろ!!』


反対側から、下から上がってきた男達がわらわらと出てきた。安藤は立ち塞がった。わずかでも、時間稼ぎができれば!


横に、神宮寺も立った。足が震えても。

彼は、椎名に


『行って!』


と声をかけた。

椎名はタブレットを抱きしめて、正火斗の後を追った。


なだれ込む男達に、安藤や神宮寺は すぐさま押され倒された。安藤はそれでも男の脚にしがみつく。


正火斗が廊下の突き当たりまで到着し、会議室のドアに手をかけた。

ドアノブは回らない!!!鍵がかかっている!クソッ!!


警察達はあっと言う間に近くまで来ていて、正火斗からやや後方だった椎名に追いつく。

捕まりそうだった椎名は、すぐ近くのドアを夢中で開けた!

開いた!

椎名は開いたドアから転がるようにそこに飛び込んだ。


『何なんだ?一体。君は誰だね?』


椎名はその言葉にハッキリと言った。


凰翔院(おうしょういん)学園1年D組 椎名美鈴です!流良川花火大会脅迫メールの犯人についてと、輪命回病院の爆発物疑惑についてをご報告に参りました!!』


『なんだって?』


そこには、7名の警察上層部の姿と、A県警察本部長江元政信(こうもとまさのぶ)がいた。

会議室の、後ろ側のドアだった。


正火斗は、力が抜けて倒れ込みそうになった。


部長である彼は優秀な後輩を、心底誇りに思った。







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