貸したものを返してもらいに
ー登場人物紹介ー
◆桜田風晴・・・田舎の農業高校2年。
◆桜田晴臣・・・風晴の父親。市議会議員。6年前から行方不明。
◆桜田孝臣・・・晴臣の弟。ミステリー同好会顧問。地学教師。
◆大道正火斗・・・ミステリー同好会部長。高校3年。実家は大企業の財閥グループ。
◆大道水樹・・・ミステリー同好会メンバー。正火斗の妹。高校2年。
◆安西秀一・・・ミステリー同好会副部長。高校2年。父親は大道グループ傘下企業役員。
◆桂木慎・・・ミステリー同好会メンバー。高校2年。
◆神宮寺清雅・・・ミステリー同好会メンバー。高校1年。
◆椎名美鈴・・・ミステリー同好会メンバー。高校1年。
◆宝来総司・・・正火斗、水樹の実父。元陽邪馬市市長。桜田晴臣が行方不明になる同日に転落死。
◆真淵耕平・・・灰畑駐在所勤務。巡査部長。
◆真淵聖・・・耕平の長男。農業高校2年。
◆北橋勝介・・・フリージャーナリスト。
スマートフォンの着信は 正火斗のものだった。
彼は着信画面を見て
「桜田先生だ」
と言って出た。
「はい。……ええ、いますよ。…………スピーカーにしますから」
正火斗は画面のスピーカー機能を押して、みんなにも聞こえるようにした。
桜田孝臣の声が室内に響く。
『風晴、』
呼ばれて風晴は、思わず数歩スマートフォンに近づいた。
『最初に私達が引き上げた遺体が歯科医の治療記録で、桜田晴臣と一致したそうだ。DNA鑑定はまだかかるが、9割型見込みがある、と。やったな。私達が見つけたんだ。兄貴はきっと喜んでくれてるぞ』
その言葉にグッと来てしまって、風晴は何も言えなくなってしまった。
「桜田先生、毎日ご苦労様です。一つ早急なお願いがあるんですが」
正火斗がスマートフォンに話しかけた。
『なんだ? 嫌な感じだな』
孝臣は何かを感じ取ったようだ。
「今日も遺体が上がったのなら、捜索はまだ2、3日行われますよね? 今日……夕方頃僕らが黒竜池に行ったら、規制線の中に入れてもらえませんか?」
「「!!!」」
声にはしなかったが、室内にいた誰もが驚いていた。聖ですらも瞳を丸くしたのが分かった。
「行くのは僕に水樹、真淵聖に風晴、それから北橋さんです。風晴と北橋さんは関係者ですし、他も第一発見者です。事件に関するかもしれないものを見たいといったら、通すべきじゃないかと僕は思うんですよ」
風晴は分かった。
(正火斗はお地蔵さんを実際に見に行きたいんだ)
『正火斗…………』
孝臣は戸惑ったような声を出した。
「僕らが警察を説得してもいいんですが、騒ぐと結局顧問の責任と言われるでしょう。なら、そちらにいる桜田先生が話しを通しておいてくれませんか?」
『北橋さんや風晴はともかく、お前らまでは無理だろう。今厳重警備体制なんだ』
それが孝臣の答えだった。
正火斗は退かずに、ニッコリ笑って続けた。
「先生、僕に"貸し"が一つありますよね?」
『何のことだ?』
と孝臣。
「僕のスマートフォンの番号を北橋勝介に教えたのは桜田先生でしょう?」
『ゔっ……』
と、何ともつかない声が聞こえた。
正火斗は北橋に目を向けながら言った。
「あなた方は、昨日3遺体が発見された時に顔を合わせた。2人共"兄を失った弟"だ。何か通じるものがあって、北橋さんが僕と長年連絡を取ろうとしていると知ったあなたは、僕の番号を彼に教えたんだ」
北橋は正火斗に、"参った"という感じで肩をすくめて見せた。
「さっきも僕が北橋さんの名前を出しても、先生は聞き返しもしなかった。先生は知っていたんだ。僕が北橋勝介といるだろう、と」
孝臣に口を挟まさせず、正火斗は続けた。
「部長として顧問に教えてあった番号を外部に漏らされるなんて裏切りですよ、サクラセンセ。僕は教え子として傷つきました。悲しいです──先生が僕にこんなことを……」
「確かに駄目だよな」
「リアルにアウトでしょ」
風晴と水樹も意見した。
『ぅう 分かった! 分かった! 警察には私が言う! 言っておけば良いんだろう! 規制線の中に入れろと、大切な教え子を!!!』
「ありがとうございます、桜田先生」
そう言って正火斗は通話を切った。
静かになった空間で──北橋は笑っていた。それから高校生達に
「桜田孝臣さんを責めないでやってくれ」
と一言いった。
その言葉にはもう笑いは含まれてはいなかった。
「あの人とは少し前にも会ったことがあるんだ。羽柴や緑川まどかの手掛かりを失ってからは、オレは手当たり次第だったから。
黒竜池の行方不明者親族として会いに行って、あの時どうにもならない状況をお互い吐露し合ったりした。
ちなみにその頃オレはもう君に──大道正火斗に目を付けていて、"コンタクトを取りたいと思ってる"と言ったが、その時は孝臣さんは"難しいと思う"と言うアドバイスをくれただけだったよ」
正火斗は軽くうなずいた。"分かっている"と言う感じだ。
「君が東京を出ていて、池からは遺体が上がり出して……この事件が動くと感じたんだろう。だからオレにワンチャンスをくれた」
「なら、チャンスを活かしましょう。桜田先生には夕方頃黒竜池に着くと言ってしまいました。A県に──灰畑町に戻らないと。どうしても地蔵をこの目で確認したい」
正火斗の言葉で全員が動き出した。
A県に戻る車中の中で、運転席の北橋は嬉しそうだった。
「いいね、やっぱりオレの見立て通りだ。君が参入したらこの事件は動きだしたろ。君が鍵だとは思っていた。やっぱり凄いね、大道正火斗は」
助手席の正火斗は身を引いたようだった。
「やめてくれませんか? その変な信仰心っぽいの。それに手柄は僕じゃない──彼だ」
正火斗は後部座席の聖を指差した。
聖はきょとんとした顔をした。
「そうよね! 聖凄い! お地蔵さんの違いを見つけたもの!」
水樹は大絶賛だ。
「うん。真淵スゴい」
風晴も同意した。
すると 聖は身を乗り出して
「桜田くん……僕が来て……良かった?」
と聞いた。
風晴は水樹の視線に殺意も感じた。感じたが、ここは話しの流れ的にも命懸けでも本心でも──こう答えるしかなかった。
「良かった。真淵が来てくれてて良かった」
聖はこの上なくニッコニコになった。多分今何言ってもあまり耳に入らないんじゃ無いかと言うくらいニコニコ、ニコニコしていた。
水樹は2人の様子を見て
「あんた達、絶対仲良いわよね!? 別に! いいけど!!」
と全くいい感じではなく言った。
すると、まだ笑顔のままの聖が水樹に
「さっき水だけだったから……甘いの、飲みたい。……あれば」
と聞いたので、水樹はもう全ての不快を忘れた。
「あるあるあるある!! 聖が前にミルクティーのペットボトル選んでたから持ってきてるの! ああ、でももう冷たくないかも。だめ? いい? いいかなぁ?」
聖はコクンとうなずいた。
水樹はペットボトルのキャップをわざわざ開けて渡そうとした。
風晴は、"水樹は聖の餌付けには無事に成功したんだな"と心の中でその努力をねぎらった。
車内は一時明るい雰囲気になったが、その空気は正火斗の一言でまた変えられてしまう。彼は北橋に言った。
「北橋さん、あなたに話しておきたいことがあります」
北橋は高速を運転中だったが、視線を一度だけ正火斗に送った。
それを受けて正火斗は続けた。
「宝来総司のことです」
次回は、かなり正火斗の推理節文章になりますよ。私的にはそう言う回好きですね。
字ばかりで伝わりづらいかと心配でもありますが、なんとかよろしくお願い致します。




