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前を向く理由

ー登場人物紹介ー


桜田風晴さくらだかぜはる・・・田舎の農業高校2年。

桜田風子さくらだふうこ・・・風晴の母親。民宿を営む。

桜田晴臣さくらだはるおみ・・・風晴の父親。市議会議員だったが、6年前から行方不明。

桜田孝臣さくらだたかおみ・・・晴臣の実弟。ミステリー同好会顧問。地学教師。



大道正火斗だいどうまさひと・・・ミステリー同好会部長。高校3年。実家は大企業の財閥グループ。

大道水樹だいどうみずき・・・ミステリー同好会メンバー。正火斗の妹。高校2年。

安西秀一あんざいしゅういち・・・ミステリー同好会副部長。高校2年。父親は大道グループ傘下企業役員。

桂木慎かつらぎしん・・・ミステリー同好会メンバー。高校2年。

神宮寺清雅じんぐうじきよまさ・・・ミステリー同好会メンバー。高校1年。

椎名美鈴しいなみすず・・・ミステリー同好会メンバー。高校1年。


西岡幸子にしおかさちこ・・・桜田家の隣人。


井原雪枝いはらゆきえ・・・風子に屋敷を貸す民宿オーナー。


真淵耕平まぶちこうへい・・・灰畑駐在所勤務。巡査部長。

真淵実咲まぶちみさき・・・耕平の妻。

真淵聖まぶちひじり・・・耕平と実咲の長男。農業高校2年。

真淵和弥まぶちかずや・・・耕平と実咲の次男。



正火斗の問いに風晴は考え込んだ。

返事は決まっていた。

だが、彼にどう伝えることが自分の気持ちにより近いのかが難しかった。自分は、事件を追う覚悟はー


『覚悟は、、、、』


正火斗は待っている。風晴の答えを。


『ない。多分、覚悟なんてできてない。』


風晴は正直に答えた。


『だけど知りたいと思う。知れるところまで。』


朝日は完全に出た。空は水色になり、真っ白い雲が勢いよく伸びている。まだ早い時間だが、すでに今日も猛暑になることを予告しているかのようだ。


『なんかのドラマみたいに犯人を当てるとか、逃走犯を取り押さえるとか、、、そんなことは考えてない。って言うか、考えられない。逮捕されるべき人間がいるなら警察に任せる。』


そこでうつむき、頭をかきながら言った。


『怖いしさ。情けねぇけど。』


正火斗は彼を見つめる目を細めた。


『だけど、知れるところまででいい。知りたいって思うんだ。

何があったのか。どうしてそうなったのか。その時、父さんが、、、どう考えたんだろうって。

全てが分かるなんて思ってない。生きてたって、お互いが分かれる部分て、、、限られてるだろ?

でも知ろうとしなかったら、そこで終わりだ。

父さんは、、、もう死んでるから、こっちから知ろうとしてやらなきゃ 伝えにくることだってできない。

だから、オレは知る努力を今はしたい。』


正火斗はわずかに微笑んで、


『分かった。できる限り力になろう』


と言った。

風晴はどっと力が抜ける気がした。大きく息を吐き出す。


 

『正直、ま正火斗が(誤字ではありません。言い慣れてない)話してくれて助かった。

オレ、あの頃何が起こっていたかなんて全然分かっていなかった。今は少しは、分かれた気がする。』


正火斗は微笑んだ。


『小学生だったんだ、仕方ないさ。議会だの癒着だの調べだしたのは、僕だって高校になってからだ。』


『だとしても、すごい。頭いいんだな、ホントに。』


風晴は心の底からそう言った。


『そうじゃない。大道グループの子会社と、大倉度産業に繋がりがあった。だから情報が仕入れ易かったんだ。』


『あー、、、家って、大道グループって何やってるとこなんだ?』


『IT、電子機器事業、輸入家具雑貨、ホテル産業、土地開発事業とか、そんな感じかな。』


世界がちがう。風晴は眼前の畑を見ながら改めて思った。

 

(雨ざらしの縁側に座らせておいていい人間なんだろうか?)


真剣に自問自答する。だってー


『そういうの、いつか 正火斗が全部継ぐんだろう?』


その問いへの答えは、当然すぐ得られるものだと思っていた。だが、返ってきたのは沈黙だった。


それから、正火斗は顔を上げて空を見上げた。


『僕は義父の全てを(つぶ)すつもりなんだ。』


美しいとさえ言える笑顔で、彼はそう言った。








『ジャジャーーーーーーーン‼️』


水樹の大声に、寝起きの安西は辟易(へきえき)した。


『おはよう、水樹。なんなの?朝っぱらからその元気は』


2人は部屋を出た先の廊下で会った。

水樹は安西の眼前にスマートフォンを かざした。


『ご覧なさいな!真淵聖の連絡先手に入れたんだから!!

1日で友達よ!1日で!私の手腕を認めなさいよ!』


安西は眼鏡をかけ直して、スマートフォンのLINE画面を見た。確かに"真淵聖"の登録名のトークページだ。

昨日、お礼を言いに来た聖から、水樹は聞くことに成功していた。


彼は腕を組んだ。


『分かった。確かに凄いと思う。真淵くんは接するのに難しい相手だ。連絡先交換できてるのは、賞賛に(あたい)する。』


水樹は腰に手をあてて フフンと言う感じだ。だが、安西の言葉には続きがあった。


『だけど水樹の送った よろしく文に、返信どころか既読もないのはどうだろう?()()になれたとは言わないんじゃないかな。』


『昨日は誕生日会で盛り上がったんでしょうよ。あんなに頑張ったんだもの。スマホなんか、どこかに置き忘れてるのかも。既読スルーよりもマシよ。』


ガチャリ


と、安西が言葉を返そうとした時、階下の1番端の部屋の扉が開く音がした。2人はそちらに振り返った。


『くぁあ、、、』


と、あくびをしながら、ひげのある体格のいい中年男性が、スウェット姿で現れた。


((昨夜、風子さんが言っていたマスコミの人間だ))


安西も水樹も一瞬で分かった。

安西は、水樹が まとう その空気を変えるのを感じた。


『おはようございます。昨夜到着された方ですか?』


積極的にも、水樹の方から話しかける。


『ああ、おはよう。ここって何にもないんだね。コンビニも遠いからさ、驚いたよ。学生さん?』


水樹はニッコリと笑った。


『はい。東京の凰翔院(おうしょういん)学園です。』


相手も当然東京からだろう。


『凰翔院?名門エリートさん達がまた随分(ずいぶん)と田舎にきたもんだ。リゾートとか行かないの?お金あるでしょ、親御さん方』


『サークルの研究会で先生と来ているんです。お兄さんはどうして この何もないところに?』


"お兄さん"と呼ぶあたりが水樹らしい。安西は思った。

それに、彼女はすでに分かっていることを あえて聞いている。


『オレ?オレはジャーナリスト。フリーの、記者で北橋っていうの。オカルト系もやっててさ、ここの池のネタを拾いにきた。夏だし、怪談って結構ウケるんだよね。日本人はそういうの好きなんだよ、昔っから。』


ウンウンと水樹はさも興味あり気に聞き入る。


『にしても、君キレイだねぇ。スタイルも良いし、こんな田舎じゃ浮いてるくらいだよ。後で一枚撮らせてよ。カメラはあるんだ。芸能人も撮ってる一眼レフのヤツ。』


引っかかった。


『ありがとうございます。でも兄も来ていて、兄に聞かないと怒られてしまいます。兄は私を溺愛してて、T大の法学部も目指しているので、無断だと訴えかねません。』


(正火斗、だいぶ誇張(こちょう)されたぞ。いや、そうでもないかな。)安西は心の中で語りかけた。


『そりゃ怖いな。分かった、お兄さんの許可を待つよ。』


北橋と名乗った男は一階に降りようと廊下を歩いてきた。水樹とすれ違い様に、


『お小遣いはあげるよ。まあ、君達には はした金だろうが。』と


ニヤリと笑って過ぎて行った。

安西は見事なまでに無視された。

だが、彼は特に気にしてない。これも、良くある光景だった。


『典型的な"ジャーナリスト"って感じだね。』


見送ってから安西は口を開いた。


『エサはまいたわ。引き上げるのは後。もっと情報を得て肥えてからじゃないとね。』


『水樹、いつもみたいな学生相手じゃなくて大物だ。引き上げる時はみんなが手を貸す。1人でやったら、、、、君の方が引きずられる可能性がある。』


安西は警告した。()()


水樹は彼に振り返らずに言った。


『大丈夫。いざとなったら私は()()()から。』










()()()()()()()()、、、、、?) 


正火斗の返答の意味が、風晴は分からなかった。

正火斗はそれを察したのだろう。少し言葉を加える。


『真剣に狙ってる。だから、大学も法学部にするか経済学部にするか迷ってる。心理学も、、、いいかもしれない。』


『どうして?、、、その、若い父さんが嫌いなのか?』


正火斗はわずかに首をかしげた。


『そこはとっくに もう()()()()と思う。殺人を犯してあいつのために牢獄に入るような真似はしない。そんな価値もない人間だから。

だが社会的抹殺はする。いつか。ーーー必ず。』


風晴は正火斗の中に炎を見た気がした。

灼熱の 燃え上がる 圧倒されるほどの怒りの炎。



『大道英之は水樹を壊した。』



その全てとは裏腹に、彼の口調は静かだった。

切ないほどに。






読んで頂きありがとうございます。

そろそろ登場人物紹介追加ですね。

引き続きよろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
なんだか、最終的に死人が、(すでに死んでいる人以外に)ひとりやふたりじゃ利かないような気がしてきたぞ?
伏線が多いエピソードですね。 傍点のところ、色々と推察してみます〜。 (`・ω・´)ゞ
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