僕だけが知る道4
ー登場人物紹介ー
◆桜田風晴・・・田舎の農業高校2年。
◆桜田風子・・・風晴の母親。民宿を営む。
◆桜田晴臣・・・風晴の父親。市議会議員。
◆桜田孝臣・・・晴臣の弟。ミステリー同好会顧問。地学教師。
◆桜田和臣・・・晴臣の弟。桜田建設社長。
◆大道正火斗・・・ミステリー同好会部長。高校3年。実家は大企業の財閥グループ。
◆大道水樹・・・ミステリー同好会メンバー。正火斗の妹。高校2年。
◆安西秀一・・・ミステリー同好会副部長。高校2年。父親は大道グループ傘下企業役員。
◆桂木慎・・・ミステリー同好会メンバー。高校2年。
◆神宮寺清雅・・・ミステリー同好会メンバー。高校1年。
◆椎名美鈴・・・ミステリー同好会メンバー。高校1年。
◆宝来総司・・・正火斗、水樹の実父。元陽邪馬市市長。桜田晴臣が行方不明になる同日に転落死。
◆西岡幸子・・・桜田家の隣人。
◆井原雪枝・・・風子に屋敷を貸すオーナー。
◆大河弓子・・・夏休みの間の民宿の手伝い人。
◆大山キエ・・・黒竜池によく行く老婆。
◆真淵耕平・・・灰畑駐在所勤務。巡査部長。
◆真淵実咲・・・耕平の妻。
◆真淵聖・・・耕平と実咲の長男。農業高校2年。
◆真淵和弥・・・耕平と実咲の次男。
◆北橋勝介・・・フリージャーナリスト。
◆安藤星那・・・朝毎新報・新聞記者。
◆羽柴真吾・・・関光組組員。6年前から消息不明。
◆松下達男・・・関光組組員。羽柴の舎弟。
◆緑川まどか・・・羽柴真吾の女。6年前から消息不明。
風晴の父親と見られる白骨体があがり、予想通りに頭蓋骨には銃痕があった。これで彼が生命保険を受け取れることはほぼ決定したようなものだ。僕は安堵していた。
だがそこに、翌日怪文書が届く。
文面は
"お前の母親は嘘をついている"
だった。
今になって見れば、それは風晴の出生のことだった。だが、あの時の僕は警戒して恐れた。
真実を知る誰かが、風晴に " 桜田晴臣の恋人や自殺 "のことを報せようとしているかもしれないと思ったのだ。
それであの朝、早急に風晴に話をしなければいけないと思った。今後 彼が何かを誰かに吹き込まれても、桜田晴臣と宝来総司についての筋の通った話を一つ僕から聞いておけば、彼はそれを信じて自身を守れるはずだから。
風晴とあの彼の祖父の家に行き、僕は作り話をした。
ぎりぎりまで事実には近づけたが、2人を、、少なくとも桜田晴臣は確実に殺されているかのように話した。
大倉度産業と関光組や市議会ついては、本当に晴臣も総司も癒着には全く関わっていなかった。
総司に至っては、周囲から大倉度産業を勧められても、、彼は、どこ吹く風だったのだ。全く聞き入れなかった。
彼はその頃市長業務と25年越しの恋人に夢中で、背後には宝来グループがついていたので、誰の言うことを聞く必要も無かったのだ。
それでもメールから、彼らが関光組と自ら接触したことを僕は知っていた。
総司と晴臣は、関光組に個人での金銭を渡したし、羽柴真吾から銃を買い、知り合った。
晴臣は自分を殺す犯人役を探していたので、反社会的集団は打ってつけだったのだ。当然、橋渡しは秘書の今井薫子だったのだろう。
話しをリアルにするために、関光組やら何やらを誇張してしまった。でも、風晴は真摯に真面目に全てをとらえて考えてくれた。
相手のことを考えてついている嘘とは言え、胸が痛かった。
そんな後ろめたさもあったからか、僕は彼にボロボロと本心も話してしまった。
母のこと、水樹のこと、大道英之のこと。それは全くの予定外だった。誰かに打ち明けたことなどなかったのに。
公園には、一組の親子が遊びに来ていた。ロングスカートの母親と帽子を被った男の子。少し遅れて、父親と小さな女の子もブランコに合流した。楽しそうな家族の時間だった。
正火斗は顔をそらして、視線を足元に落とした。
桜田晴臣の自殺は、事実はおそらく こうだったのだろう。
北橋勝介の車の中で話したことの半分は当たっている。
晴臣は松下達男と一緒に車中にいたのだ。黒竜池の傍の山道わきの。
そして、松下達男に自ら撃たれた。
家族に保険金を渡したいから殺人に見せかけたいと、今井と羽柴には伝えてあり、お金を渡して協力を頼んであった。羽柴から命令を受けた松下が実行役だ。
そう、彼は死後速やかに家族に生命保険が渡るように、遺体はすぐに発見されることを望んでいた。
それは、当時今井薫子として自殺した直後の緑川まどか もだったのだろう。彼女も、すぐに桜田風晴が5億5千万円を受け取ることを心から望んでおり、そうなればすぐに緑川まどかとして出て行くか、風晴の殺害を計画するはずだった。
晴臣の計画では、黒竜池のほとりで銃殺されて横たわる自分が、捜索で数日のうちに発見されるはずだった。
松下達男は、羽柴に命じられた汚れ役。
羽柴や緑川まどかが、大丈夫だからと言って殺害役を押し付けたのだろう。
晴臣が死んでから、緑川まどかは合流した。松下達男の仕事を確認して、黒竜池まで遺体を運ばせるために。
しかし本当に人を撃って すっかり怖気付いていた松下は、捕まるのが嫌で 土壇場で晴臣の遺体を 到着した黒竜池に落とす。発覚を免れようとした。
緑川まどかは当然怒り狂った。
そして、松下達男を撃つことになり、やはり黒竜池へと流した。
これが もっとも 真相に近い。
親子の楽しそうな声がしてきて、正火斗はベンチを立った。ペットボトルは手に持ったまま歩き出す。
駅はもうすぐだった。