共に向かう者
ー登場人物紹介ー
◆桜田風晴・・・田舎の農業高校2年。
◆桜田風子・・・風晴の母親。民宿を営む。
◆桜田晴臣・・・風晴の父親。市議会議員。
◆桜田孝臣・・・晴臣の弟。ミステリー同好会顧問。地学教師。
◆桜田和臣・・・晴臣の弟。桜田建設社長。
◆大道正火斗・・・ミステリー同好会部長。高校3年。実家は大企業の財閥グループ。
◆大道水樹・・・ミステリー同好会メンバー。正火斗の妹。高校2年。
◆安西秀一・・・ミステリー同好会副部長。高校2年。父親は大道グループ傘下企業役員。
◆桂木慎・・・ミステリー同好会メンバー。高校2年。
◆神宮寺清雅・・・ミステリー同好会メンバー。高校1年。
◆椎名美鈴・・・ミステリー同好会メンバー。高校1年。
◆宝来総司・・・正火斗、水樹の実父。元陽邪馬市市長。桜田晴臣が行方不明になる同日に転落死。
◆西岡幸子・・・桜田家の隣人。
◆井原雪枝・・・風子に屋敷を貸すオーナー。
◆大河弓子・・・夏休みの間の民宿の手伝い人。
◆大山キエ・・・黒竜池によく行く老婆。
◆真淵耕平・・・灰畑駐在所勤務。巡査部長。
◆真淵実咲・・・耕平の妻。
◆真淵聖・・・耕平と実咲の長男。農業高校2年。
◆真淵和弥・・・耕平と実咲の次男。
◆北橋勝介・・・フリージャーナリスト。
◆安藤星那・・・朝毎新報・新聞記者。
◆羽柴真吾・・・関光組組員。6年前から消息不明。
◆松下達男・・・関光組組員。羽柴の舎弟。
◆緑川まどか・・・羽柴真吾の女。6年前から消息不明。
風晴が民宿に戻った夕食は和やかな雰囲気で進み、そして、帰りの日時の話にもなった。
私立である凰翔院学園の夏休みは、土日も相まって8月末日まであった。だが、流石に末日までここにいると言うわけにはいかない。
今のところ、ミステリー同好会メンバーの帰宅予定日は8月28日となっている。
夕食後、正火斗と風晴はスマートフォンのメッセージ機能で連絡を取り合った。
正火斗はLINEをほとんど使っていないらしかった。情報流出の危険性が理由だった。それを聞いて、風晴は彼が大財閥の御曹司、IT企業社長、他にも数社の筆頭株主、、、と言う事実を思い知らされた気がした。
改めて思う。なんで友達になんてなれたんだろう。不思議と、物凄く繋がりは感じた。だけれど、、、この夏が終われば、二度と会わないかもしれないとも予想している。あまりにも世界が違って、関われない存在だからだ。
元々そうだったんだ。
今年の、、、この夏は、まるで夢みたいだ。
風晴はぼんやりと、父親の遺体を引き上げたことや、聖と親しくなったこと、北橋とS県に行ったこと、孝臣の死や 輪命回病院での一連を思い出していた。
『風晴!』
呼ばれてビクリと、我に返った。見ると正火斗がこちらに来る。風晴は、一階の広間のソファにいたところだった。
『時間、9時って決めたのに来ないから、探しにきた。』
彼に言われて壁の時計に目をやると 9時10分だった。
『悪い。ボーッとしてたかも、、』
風晴は謝った。
正火斗は微笑んで
『体調が悪いんじゃないならいいさ。それか、気が乗らないなら無理することない。やめていいんだ、風晴。』
と言った。最後の言葉を言う時には、笑みは消えていた。
真剣だった。
風晴はハッキリと返した。
『やりたいんだ、オレ。みんながいるうちに、解決して終わらせたい。こんな馬鹿げた状態を。、、、それに』
正火斗を見て続ける。
『お前がいてくれたら、勝てると思う。だから今のうちやってしまいたい。お前がいてくれるうちに。』
自分の隣りに彼のような人間がいてくれる時間はもう、そうないと思った。勝算が高いうちに、挑みたい。
正火斗は風晴を見て、
『分かった。そこまで言うならもう止めない。』
と言って
『北橋さんの部屋に行こう。打ち合わせだ。』
と、風晴を促して歩き出した。
風晴も踏み出して、共に歩いた。
3日後ーー
桜田風子は民宿で、27日の献立を考えていた。28日に帰る予定にしているミステリー同好会メンバーに、何か特別な物を食べさせてやりたかった。
夏だから鍋物は避けて来たけれど、食事をあえて和室の方で取ることにして、郷土料理の米餅鍋はどうだろう、と考える。若い人は当然喜ばないだろうから、すき焼き鍋も献立に入れる。夜が和食に決まってきたので、昼は洋食にしようと思った。
カレンダーを見ながらブツブツ言っていると、
『風子さん、ちょっと良いですか』
と呼ばれた。
見ると眼鏡の生真面目そうな男の子が立っている。もう、当然名前は覚えてる。一緒に生活しているのだ。
『あら安西くん、どうかした?』
安西秀一は
『いえ。風晴に頼まれたんです。これを、風子さんに渡してくれって。』
と言って、四つ折りの一枚の白い紙を差し出した。
風子は なんだろうと思いながらも受け取る。
『じゃあ、失礼します。』
と彼は立ち去った。
風子はなんだか不思議な気持ちで、紙を広げた。そこには、確かに息子の字がある。
" 母さん、ごめんなさい。
実は内緒にしていたけれども、6年前に池から上がっ
ていた父さんの携帯電話を、大道正火斗くんに渡して
いました。水没して壊れてしまっていた携帯電話のデ
ータの復旧を彼の会社でしてもらいました。
内容については、民宿ではなくてよそで話したいと
思いました。父さんの大切な思い出の場所に来て下さ
い。
風晴 "
風子は驚愕した。
なんてことを、、、、なんてことだろう
手紙を握ったまま、慌てて一階の自分の寝室に飛び込んだ。箪笥の1番上の引き出しを開けて、奥を探った。
確かに、あの人の、携帯電話が 無い
すぐさまスマートフォンで息子にかける。だが、繋がらず、電源が切れているか電波の届かないところにいると言う自動音声が流れた。
風子は玄関に向かった。
今日は大河弓子も井原雪枝も来ていない。
北橋勝介も安藤星那も仕事のようで、車を置いて行ってない。だが、近所に頼み込んででも、すぐさま向かうつもりだった。
全てが駄目になってしまう、、、、!
裸足だったが、シューズに足を突っ込んで、彼女は外に飛び出した。