第9話。山岳マップその7~聖なる外道、糞共への怒りとヘッジの自由意志。
ヘッジは、水系レベル2ダンジョンを潰し、自分の拠点を手に入れたその日、
元々キマーリ達の隠れ住む、拠点からさらに先、
山岳地帯の森から、3kmほどの所にある草原に足を伸ばしていた。
そこには、
ノルド国の魔族支配から逃れた獣人、300人ほどが住む、
小さな難民キャンプがあるのである。
ヘッジは、食料を主とした、物資補給の為、
また、キマーリは、トッケンに隠れ住む、
ノルンの加護を受ける神職者達のまとめ役『アドラー』に、
ノルンの使いが遣わされたと連絡を取る為に、
難民キャンプに向かったのだった。
夕刻前、ヘッジ達は、難民キャンプ近くに到着した。
難民キャンプは、
ヘッジの目には、貧乏な農村と言う感じのところである。
簡単な木の柵で、居住区は囲まれ、
その周りが畑となっていた。
その居住区の中には、
木造のボロ屋、小屋、倉庫、テントが見える。
キマーリは、難民キャンプの周り、
畑の外側の草陰に隠れて、居住区にサインを送り、
一人の犬系の青年を呼び出した。
キマーリが、呼び出した青年に、手紙を渡しながら小声で言う。
「すまんのブルーノ。
アドラーに、連絡を取ってくれぬか?」
ブルーノと呼ばれた青年が、周りを気にしながら、
ヘッジと大魔狼に乗るキーちゃんに気付き答えた。
「何かあったっすか?
キマーリ様・・・そちらの方は?」
ミヤーザが、おっとりと答える。
「ヘッジちゃんは、ノルン様の御使い。
異世界より来た、獣魔使い、我等を助けて下さる方よ」
ルーシーは、誇らしげに続けた。
「ヘッジ様は、今日の朝、初めてダンジョンに潜入して、
レベル2のダンジョンを、お一人で制覇なさったの。
私達3人を従え、魔の森で力を蓄えて、ノルド国を再興して下さるのよ?」
ノルンの使いヘッジの事を聞き、驚くブルーノに、
キーちゃんは、大魔狼に乗ったままご機嫌に言う。
「ヘッジちゃんは、悪い魔物をやっつけるのー」
ヘッジは、話が面倒になってもアレなので、用件だけを伝える。
「山に篭って、ダンジョンを潰して、力を蓄えるつもりなんす。
それで、食料調達に・・・」
キマーリは、ヘッジの言葉を遮り、キャンプの方を見て言った。
「・・・キャンプに、ジャニ騎士団が来ておるのか?」
ブルーノは、小さく頷き、苦々しい顔で答える。
「キマーリ様、タイミングが悪かったっすね。
ニャカーイ隊3部隊15人っす。
ヤツ等・・・今日、ここに泊まる気なんすよ。
物資の受け渡しは、ヤツ等が居なくなってから、
明日が、安全っす」
キマーリ、ミヤーザ、ルーシーは、女神ノルンの加護を受け、
魔物に対抗する為の力を授けられている。
いわゆる、冒険者としての職を、能力を、
神の加護により得ているのだ。
しかし、女神ノルンの国、獣人国ノルドは、
魔族と人間国トッケンの策略により、滅ぼされた。
女神ノルンの力は、大幅に封じられてしまい、
ノルド教系の神職者、ノルンの加護を受ける者の多くは、
魔物に対抗する為の力を失った。
しかも、ここ神聖国トッケンでは、ノルド教は邪教とされ、
力を失わなかった数少ないノルンの加護を受ける者は、
トッケン国の騎士団に捕らわれてしまうのだ。
力を持たぬただの信徒、ただの難民であれば、捕らわれる事も無いが、
加護を受け力を持つ者は、邪教の徒として処刑されてしまう・・・。
だから、キマーリ達は、トッケン国の騎士団に見つからぬ様、
ここのノルド系難民を近隣の魔物から守る為、
魔の森に隠れ住んで居るのだ。
この平原は、
3~4レベルのダンジョンがいくつもある、
魔物の出るトッケン国の危険地帯。
その為、トッケン国民は住まぬ放棄地と言える。
その中でも、この獣人キャンプは、超危険地帯、魔の森の近く。
ここに住まう獣人達は、国を失い、海を渡り、
危険地帯に農地を求め、
トッケン国の2等国民、ノルド系被差別獣人、
・・・難民として、どうにかここで暮らして居るのだ。
大まかな事情を把握した、ヘッジが言う。
「じゃ、その、トッケン国のジャニ騎士団?
ニャカーイとか言うヤツ等が出て行くまで、
俺達は、離れて待機、か?」
キマーリは、ブルーノと同じく、苦々しい顔をして答える。
「そうなるの・・・。
糞共が・・・」
ブルーノは、打ち合わせを済ますと、
居住区の方に向かって、畑の間の道を歩き出した。
それを見送るルーシーが、寂しげにヘッジに言う。
「ヘッジ様、申し訳ありません。
私達は、明日まで、もう少し離れて隠れましょう?」
ヘッジは、気鬱な表情で答える。
「ルーシーが、謝るこっちゃねーよ・・・。
トッケン教の加護を受けるジャニ騎士団。
・・・糞共、か」
キマーリもミヤーザも重苦しい表情で、
獣人キャンプの外れから、魔の森方向に歩き出した。
日も暮れた森の中、夕食をとりながら、
ヘッジは、3人から細かな事情説明を受ける。
ここは、人間国、トッケン教が治める神聖トッケン国。
その最南端、ジャニ領主の治める、ジャニ領。
このジャニ平原は、元々魔物がいくらか出る平原であったが、
30年前、ノルド国が魔族領となった事により、流れてくる瘴気邪気が濃くなり、
ジャニ騎士団の手に負えないダンジョンが生まれた。
結果、トッケン国の力の及ばぬ地、
人が安全に住めぬ地、半魔物領、
いわゆる放棄地となったのであった。
そこに、ノルドの難民、獣人達が、農地を求め多く移り住んだ。
キマーリは、苦々しげに語る。
我等は、亡国の民。
人間国、神聖トッケンに、身を寄せる立場。
邪教とされたノルン様の加護を受ける我等は、
隠れ住まねばならぬのだ、と。
獣人達が、この国で生きるには、
異教徒、2等国民、被差別民として、
人間からの、トッケン教からの迫害を、
耐えねばならぬのだ、と。
また、トッケン国が魔族と手を組み、ノルド国を滅ぼした理由も、
そこにあるのでは無いかと推測される、と。
トッケン国の支配層は、
トッケン教の神の加護を独占し、既得権化している。
その力を持って、トッケン国を支配し、
力を持たぬ国民から富を吸い上げる、貴族と化しているのだ。
トッケン国支配層は、それだけに飽き足らず、
奴隷労働力、被差別民を、欲していたのだろう。
だから、
ノルド国を滅ぼし、ノルン教を邪教とし、
神の加護を受ける者を捕らえ、
力を削ぎ、獣人を支配し、搾取するのだ、と。
ヘッジは、3人より、細かい説明を受け、信じられぬ思いを抱く。
人類共通の敵、魔族、魔物の居るこの世界で、
トッケンの支配層は、神の加護を独占?
貴族化?
奴隷労働力を得る為、魔族と手を組み、隣国の獣人国を滅ぼす?
フランス革命以前の世の中だ、
基本的人権てな思想さえ、ありゃしない世界とは予想してたが、
奴隷、金儲けの為に、隣国を・・・正気の沙汰とは思えん。
キマーリは、苦々しい表情でヘッジに言った。
「神の祝福を受ける国は、瘴気邪気が自ずと薄くなるのじゃ。
そうなれば、魔族、魔物は力を発揮し切れぬ。
人類世界は、神に守られ、安定しておると言えるじゃろう・・・。
しかし、の・・・長き安定は、腐敗を招く。
小僧・・・腐り切った果ての、忌まわしき現実を見るのじゃ」
ヘッジは、キマーリと2人、
ジャニ騎士団の現実を見る為、
獣人キャンプに潜入する事とした。
ミヤーザとルーシーは、偵察だけ、何もせず帰ると言うキマーリに、
何度も心配そうな顔で、必ず偵察だけで帰るようにと念を押し、2人を送り出す。
ヘッジ、キマーリの、
獣人キャンプへの潜入は、簡単なものだった。
珠恵がコウモリを使役し、
暗闇であろうと、半径150m程度の近距離であれば、
ヘッジは、ほぼ完全な情報を得て居るのだから。
夜の闇にまぎれ、ヘッジとキマーリは、誰にも見つかる事無く、
ジャニ騎士団、ニャカーイ隊15人の駐屯する、
難民キャンプで一番大きな、木造倉庫に張り付いた。
ヘッジは、倉庫の窓から、明りのついた中の様子を窺がう・・・。
ニャカーイと思われる、若作りをした50を超える初老の騎士が、
土下座をした獣人の村長相手に、がなっていた。
「フッフッ。
糞不味い飯だけで、済む訳ねーべ?」
土下座をした獣人の村長が、異を唱えた。
「しかし、これ以上の物を納めるのは、我等にはもう・・・」
若作り老人ニャカーイは、
受け口から前髪に細かく息を送りながら、
村長に向かって居丈高に言う。
「フッフッ。
異教徒の獣人風情が、何を思って、俺達に口答えしてるんだべ?
俺達が魔物から守ってやってるから、ここで暮らしていけるんだべ?
税が払えない事ねーべ?」
村長は、土下座をしたまま、返した。
「税は、去年の秋に納めております」
ニャカーイは、ニヤニヤしながら言う。
「フッフッ。
足りてねーべ?
・・・金目のもんがねーなら、
さっさと、さっきの女、呼んでくりゃ良いべ?」
土下座をした村長は、更に頭を低くして言った。
「そればかりは、ご容赦を・・・」
ニャカーイは、ニヤニヤしながら、
ハゲつつある前髪に息を送り、周りの手下共を見て言う。
「フッフッ。
どうよ?
ジャニ様なら、どう言うべ?」
十数人の若作り中年騎士団員達が、ヘラヘラと声を合わせて言った。
「ニャカーイ君?
YOU、やっちゃいなYO」
ニャカーイは、土下座する村長の頭を踏みつけ、更に手下に指示を出す。
「YOU達、さっきの女、捜して連れて来るべ?
フッフッ」
頭を踏まれた村長は、その足にすがりつき、ご勘弁をと訴え続けた。
ニャカーイから指示を受けた、若作り中年騎士団員数人は、
ヘラヘラと笑いながら、倉庫を出て行こうしている。
ヘッジは、義憤に駆られ、
怒りに満ちた目で、ニャカーイを睨み付けながらpt内通話でつぶやく。
「けったくそ悪ぃな。
ババァ・・・ヤルぞ?」
キマーリは、歯軋りをしながらも、
怒りに震える手でヘッジの手首を掴み、ヘッジの暴発を阻止した。
「小僧、耐えるのじゃ!
ニャカーイは、トッケンの加護を受ける2次職に付く騎士。
ワシを超える力を持つ。
周りのヤツ等も同様じゃ」
ヘッジは、髪の毛を逆立て、キマーリの静止も聞かず、珠恵に指示を出す。
「珠恵さん・・・全力だ・・・」
キマーリは、ヘッジを抑える為、続ける。
「イカン!!
堪えるのじゃ!
ここで戦いとなれば、村人に被害も出る。
もし勝てても、ヤツ等をここで殺せば、
この獣人キャンプの者に、罪が及ぶのじゃ!!」
ヘッジは、奥歯を割れんほどに噛み締めながら、制止するキマーリに言う。
「ふざけんな・・・。
ほっとけってか?
見て見ぬ振りしろってか?
ふざけんなよ?
ババァ」
キマーリは、今にもブチ切れそうなヘッジを、
窓から引き剥がし、目を見て言った。
「ワシ等のなすべき事は、国を取り戻す事じゃ・・・。
ノルド国を取り戻すのが、我等の悲願なのじゃ!!」
キマーリは、続ける。
「大局を見よっ!!
それが判らんか?!
この平和ボケの小僧めが!!」
ヘッジは、怒りに身を焼かれながら、キマーリに言い返す。
「うるせぇ、何が使命だ?!
この場は、ほっとけってのか?!
俺は、俺の好きに生きる!!」
爆発寸前のヘッジの胸ぐらを両手で掴み、
間髪入れずキマーリは問い詰めた。
「どう生きるのじゃ?」
ヘッジは、怒りに震えながら返す。
「どうって?!
力を持って、心のままに、好きに」
キマーリは、ヘッジの言葉を遮って問う。
「小僧!!
お前の求める物はなんじゃっ?!
戦力か?金か?
権力、地位、名誉、女か?!
お前は、ノルン様の加護を得て、魔王にでもなるのか?!
それとも、そこの糞共と同類となるのか?!!
お前は、何を成す為に、ここに送り込まれたのじゃっ?!!!」
ヘッジは、キマーリに一喝され、
土下座する村長をいたぶるジャニ騎士団の糞共を、
怒りの目で見つめながら、神の言葉を思い出す。
『心のままに好きに生きよ』か。
ああ・・・そうかい・・・。
そう言う事なら、好きにやらせて貰うぜ?
糞共相手に、好きに戦争・・・。
やらせて貰おうじゃねぇかっ!!!
・・・一人でな?
俺の好きに、俺の都合で、俺の良いように、俺の思うがままに、
一人で戦争、させて貰うぜぇ!!!!
キマーリは、怒りに震えるヘッジに向かって、静かに語りかけた。
「今は、トッケンの騎士団15人相手は、危うい。
ノルン様の加護は大幅に封じられ、我等は一次職にさえなかなか就けぬ。
しかし、小僧・・・お前は別じゃ。
お前は、ノルン様の使い・・・お前は特別・・・お前に限界は無い。
力を付けるのじゃ。
そして、ノルド国を取り戻すのじゃ・・・。
それが、ノルン様から加護を受け、お前が力を持った意味なのじゃ」
ヘッジは、キマーリの制止を受け、
目を瞑り、腹の底から吹き上がる怒りをこらえて居た。
・・・糞共。
ジャニ騎士団、ニャカーイ・・・。
気に食わねぇどころの話じゃねぇ・・・。
弱いものイジメどころの話じゃねぇ・・・。
俺が、平和ボケをしていたのか?
基本的人権なんぞありゃしない世に、転生したってのに、
ここまでの事は、想定してなかった。
獣人国を滅ぼし、獣人を奴隷扱い・・・。
ノルンの加護を受ける能力者を、捕らえて処刑?
神の加護を独占し、貴族化だと?
人類の敵、魔物、魔族と、変わりゃしねぇ。
いや、もっと悪質なんじゃねぇか?
・・・生かしちゃおかねぇ。
てめぇらも、魔物、魔族に対抗する力、神の加護を受けてるんだろ?
その力を独占して、エバり腐ってやがるだと?
力を持たぬ人々を、虐げてるだと?!
調子に乗るのも大概にしろよ・・・糞共が!!!
てめぇら。
まさか、魔物に殺されても、文句はねぇだろうな?
その覚悟を持って、神の加護を、
特権を享受してやがるんだろうな?!
さらっと、斜め読みでも、読んで貰って有り難いっす。
ちょろっとでも、面白いかな?良いトコあるかな?と思っちゃったら、
いいねやら、感想やら、ブックマークやら、レビューやら、
星やら、頂きたいっす。
具体的には、下の方の☆☆☆☆☆っす。
詰まらなければ☆ひとつ、面白ければ☆5つと言うルールっす。
それが、この話への応援となります。
反応無いと、便所の落書きだもの、反応無いの悲しいっす。