第6話。山岳マップその4~情に棹差し逃れられぬ運命、朝焼けの半島攻略準備。
夜も明けきらぬ早朝、
ヘッジは、一人、元ダンジョンの中を思案しながら歩く。
ヘッジの当面の目標は、自身のレベル上げであった。
ヘッジのレベルが上がれば、ヘッジ自身の魔力が増え、
ヘッジの魔法『コンバート』「MPを対象者に分け与える」
により、ダンジョンコア珠恵に回せる魔力が増えるのだ。
つまり、珠恵が魔物を生み出す、また、使役するのに使う魔力が増える。
今は戦力として大魔狼1匹しか居ないヘッジ軍を、
ヘッジが、珠恵に魔力を補給すれば、
1日に、いくらか多く魔物を生産し、増強出来る様になるのである。
その為には、魔物を狩る。
それは、同時に珠恵への物資補給、
魔物の素材と魔物のコアとなる魔石の補給ともなる。
魔の森を徘徊する魔物を狩れば、
ヘッジ自身の戦力アップと、
ヘッジ軍が増強される速度が上がるのだ。
そうやって、ヘッジ軍を増強するのが第1目標。
第2目標が、拠点の確保。
ダンジョンコア部屋、龍脈、珠恵MPの回復元の確保であった。
それには、戦力を整え、ダンジョンを攻略しなければならない。
ダンジョン攻略、拠点の確保が出来れば、
同時に、ダンジョンコア『珠恵』のレベルアップの為の、
ダンジョンコア入手も行える。
拠点を確保し、軍を増強し、さらにレベルの高いダンジョンを攻略し、
珠恵のレベルを上げ、各属性を獲得してより質の高い魔物を生み出し、
軍の増強、さらに高レベルダンジョン・・・。
その為には、最初の一歩、
第1目標、ヘッジのレベル上げであった。
ヘッジは、夜も明けぬ早朝、
山猫系獣人、老軽戦士キマーリ、
羊系獣人、おっとり中年僧侶ミヤーザ、
牛系獣人、爆乳美少女重戦士ルーシーの居る元ダンジョンを、
幼女キーちゃんを捨て、一人ひっそりと抜け出そうとしていた。
元ダンジョンの中の通路を、
忍び足で外に向かって歩くヘッジに、
脇の部屋の中から、おっとりとした声が掛かる。
「あら、ヘッジちゃん?
早いのねぇ?」
くっ。
ババァだけじゃなく、おばちゃんにも、バレたか。
・・・まぁ、良い。
ヘッジは、ミヤーザに声を掛ける。
「世話になったな。
キーちゃんのこ」
おっとりミヤーザは、ヘッジの言葉を遮って言った。
「朝御飯は、もう少し待って頂戴ねぇ?
トイレは、畑の方にあるから」
っちw
調子の狂うおばちゃんだw
まだ、しゃべってる最中だったか・・・。
つーか、ありゃぁ、聞いちゃいねーな。
・・・まぁ、良い。
世話になった・・・キーちゃんを宜しく、だ。
ヘッジは、脇部屋の中のミヤーザに、
軽く手を挙げ、目礼を送り、黙って外に向かった。
ヘッジが、まだ暗い外に出ると、
爆乳美少女、重戦士ルーシーは、
革の大盾を片手に、剣術の稽古をしていた。
汗ばんだルーシーは、ヘッジに気付き、
ボインボインと駆け寄って声を掛ける。
「お早う御座いますヘッジ様!
今日より、ヘッジ様の従者として頑張ります!!」
・・・。
3人共にバレてちゃ、すっと消えるも糞もねぇなw
つーか、俺は一匹狼。
一人でやるって言ってるのに、誰も俺の話を聞いちゃいねぇ。
話が通じるのは、ババァくれぇのもんなんじゃねーか?
ルーシーは、ヘッジの手を取り、目を見詰めて言う。
「ヘッジ様?
ヘッジ様は、どのようなお力を、ノルン様より授かったのですか?」
うぁ!
近ぇ・・・。
すげぇ、好い匂いしやがるなぁ・・・。
このどちゃ糞エロい、ホルスタインめ。
困りながらもデレデレとするヘッジは、pt招待を出しながら言った。
「俺は、ただの魔獣使いじゃねーんだよ。
ダンジョンコアを使役してるのさ。
珠恵さん?」
ヘッジのptに入ったルーシーの頭の中にも、
ヘッジの使役するダンジョンコア、珠恵の声が響いた。
「ptメンバー、ルーシー、確認。
コウモリの回収完了。
ツバメ、展開しました。
引き続き、マップ上に索敵情報を表示します」
ルーシーは驚き、ヘッジの手を取り、目を輝かせて褒め称える。
「ダンジョンコアを使役?!
まるで魔族の魔将軍の様です!!
凄いです!
ヘッジ様!!!」
ヘッジは、デレデレとしながらも、頭を掻き言った。
「いや、転生したてで、色々足りないんだ。
珠恵さんも、俺もレベル1。
まだまだこれからさ・・・。
まぁ、裏技を一つ思いついちゃいるが」
ルーシーは、ヘッジの手を取り、目を見詰め、笑顔で言う。
「ヘッジ様には、私共、従者もおります!
なんなりと、お申し付け下さい!!
何か用意するものは御座いますか?!」
ヘッジは、ルーシーの圧に押され、デレデレと思わず答えてしまった。
「あー?・・・金属。
金属素材が、まったく無いのが・・・」
ヘッジは、はっと我に返り、思う。
そうじゃねぇ・・・。
話の通じねぇ、
つき立て餅みてぇな、真っ白な、柔らかそうなおねぇちゃん・・・。
ああぁぅ、そうじゃねぇッ!!
俺は、誰の世話にもならねぇ。
俺は、一匹狼、誰も近寄らせないハリネズミ!
俺は、誰にも邪魔されずに、好きなように一人でやって行くんだ!!
黙り込むヘッジを他所に、
ルーシーは、頷き、考えながらつぶやく。
「金属で御座いますね?
剣、鍋釜は・・・おばぁちゃんの銅盾なら!
おばぁちゃん?
おばぁちゃん?!」
ルーシーは、洞窟から出てきた、
眠るキーちゃんを抱くキマーリに声を掛ける。
「ヘッジ様は、金属素材を御所望ですって!
おばぁちゃんの銅盾、無くても良いわよね?!」
キマーリは、ルーシーの唐突な話に、困惑して答える。
「金属素材?
何の話じゃ?」
ルーシーは、誇らしげに言う。
「ヘッジ様は、ダンジョンコアを使役なさってます!
素材は、コアの珠恵さんが、魔物を作る素材よ!」
また、ヘッジは、咄嗟に突っ込んでしまった。
「いや、魔物じゃくて、矢先・・・」
くそう・・・やっちまってる。
調子の狂うこの感じ、俺の思うほうに話が進まねぇ。
この張り切りバインバインおねぇちゃんと、
あのおっとりおばちゃん。
一人にしてくれっつってんのに、
絶対、俺について来るつもりだ・・・。
ルーシーが、勝手にキマーリをptに入れて、嬉しそうに言う。
「ヘッジ様は、ダンジョンコアを使役して、
魔将軍の様に戦われるそうよ?!」
珠恵の事務的な声が、ptメンバーの頭の中に流れる。
「ptメンバー、キマーリ、確認しました」
キマーリは、pt内通話で言う。
「・・・ほう、小僧。
ノルン様の使いとしての力か?
ただの獣魔使いでは、なかったのじゃな?
マップ表示?・・・。
して、矢先?
矢尻が要るのか?」
ヘッジは、舌打ちをし、
ptを解散して、口に出してキマーリに向かって言った。
「っち・・・いらねぇよ!
俺は誰の世話にもならん!!
・・・いや。
・・・世話になったな。
じゃ、キーちゃんのこ」
ヘッジの言葉を遮り、洞窟から出てきたミヤーザが、全員に言う。
「朝御飯の準備が、出来ましたよー?」
キマーリは、言葉を遮られたヘッジを、鼻で笑い言う。
「フンw
小僧w
話は、朝飯を食いながらじゃw」
ルーシーは、ヘッジの後から言う。
「ヘッジ様?
お食事と致しましょう?」
キマーリに抱かれているキーちゃんが、目を覚まし、
寝ぼけた声で言った。
「へッジちゃん?
朝御飯ー?」
キマーリは、優しい声でキーちゃんに答える。
「そうじゃw
みんなで、朝御飯じゃw」
冷たい朝の空気を暖める様に、
オレンジの光が世界を照らし始める中、
ヘッジは、下を向き、小さく首を振りながら、
単独行動をあきらめ、洞窟の方へ向かって歩き出した。
・・・いましばらく、世話になる、か。
キーちゃんを託す資金を、稼ぎ出すまで・・・。
彼らは、早い朝食を摂り、
ヘッジ、キーちゃん、キマーリ、ミヤーザ、ルーシーで、
5人ptを組み、魔の森深くに向かう。
ヘッジには、この半島の事があらかた判っていた。
人里を探す為、トンビによる広範囲マップ製作を行ったからである。
ヘッジは、自身のレベルアップの為、
魔物を求めて、避けて通ってきたダンジョンへと向かう。
それは、キマーリ達の隠れ家、元ダンジョンの第一拠点より、
歩きで一時間ほどの所であった。
ヘッジに『所属変更』を行った、
大魔狼に乗るキーちゃんが、楽しげに言う。
「ヘッジちゃん?!
悪い魔物が居るね!!」
ヘッジが、幼女キーちゃんに、にこやかに答える。
「うん、ツバメの索敵に引っ掛かったね?
犬顔の小鬼、コボルト3匹、ダンジョン周りの警備だな。
斥候の小隊って所か」
爆乳ホルスタイン、ルーシーが、ヘッジを褒め称える。
「ヘッジ様!?
索敵とマップ凄いです!
ここまで、魔物と遭遇する事無く、安全に来れました!!」
おっとりおばちゃん、ミヤーザも言う。
「ヘッジちゃんは、こうやってキーちゃんを守って来たのねぇ?
えらいわぁ。
おばちゃん、ヘッジちゃんが優しくて嬉しい」
枯れ枝の様なキマーリは、
視界に表示されたマップを見ながら、ガラガラ声で問う。
「この先の薄くなってるマークが、ダンジョンじゃな?」
ヘッジは、答える。
「ああ、場所知ってたのかw
マップ上で薄く表示されてるのは、探知から時間が経ったからだ。
さて、俺のやり方を見せてやるぜ?ババァ」
ヘッジは、10匹の弓ゴブリンを、珠恵の領地10m内に展開し、
大魔狼からキーちゃんを抱き上げ、
大魔狼を察知した魔物の群れに向かって走らせた。
キマーリが、納得したように、小さく頷きながら言う。
「コアガード級の大魔狼を使って、
ダンジョン外の魔物を狩って来た訳か」
ヘッジは、ニヤリとして言う。
「まぁ、昨日までは、そうだったが、
違うんだよ、ババァw
俺がやりたかったのは、コレさ?」
大魔狼は、3匹のコボルトにわざと見つかり、
戦闘をせず、コボルトを引き連れて、ヘッジ達の元に掛け戻り始めた。
ヘッジは、指示を出す。
「珠恵さん?
キルゾーンはあそこだ」
ダンジョンコア珠恵は、マップ上に表示を出し、答えた。
「了解しました。
弓ゴブリン2pt、準備完了」
弓ゴブリン10匹は、虚空より現れた場所をほぼ動かず、
半弓を引き絞り、何も居ない50m先のキルゾーンに向かって、
狙いを定めていた。
大魔狼は、3匹のコボルトを引きつれ、
キルゾーンを通り、ヘッジ達の前を横切って走り抜ける。
遅れて、それを追う犬顔の小鬼、コボルト3匹も・・・。
ヒュヒュ!
ヒュヒュヒュ!!
ヘッジ達の前で、弓鳴りが連続して鳴った。
大魔狼を追って来た、3匹のコボルトは、キルゾーンに入ると、
ゴブリンの放った10発の矢の同時攻撃を、横から不意に喰らう。
バスバス!!
ドス!
バス!
ドッ!!
バスバス!!
ドドッ!
キルゾーン一帯に飛んで来る矢に襲われたコボルト3匹は、地に転がった。
ヒュヒュヒュ!
ヒュヒュ・・・。
矢を発射する弓鳴りは続き、
キルゾーンへの追撃が行われる。
パス!ドス!ドッ!!
ドドッ!ドッ!ドス!
キルゾーンで転がり、矢を受けて傷つき、
動きの鈍くなった3匹のコボルトは、
次々と撃ち込まれる何発もの矢を受け続け、動かなくなった。
珠恵の事務的な声が、ヘッジ達の頭に響く。
「戦闘終了。
弓ゴブリン2部隊、回収します」
キルゾーンに入った3匹のコボルトを矢達磨とした、
10匹の弓ゴブリンは虚空へと消える。
駆け抜けて居た大魔狼は、ヘッジの元へ戻って来た。
キーちゃんを抱いたヘッジは、振り向き、
得意げにとうとうとキマーリに言う。
「単に隠れて先制でも良かったが、
こう言う事を、俺はやりてーんだよ。
強い魔物を出しっぱなしじゃ、珠恵さんの魔力の無駄遣いだ。
戦闘の時だけ、パッと出して、さっと戦闘を片付けて、すっとしまう。
これなら、相手より強い魔物を多く使っても、
珠恵さんの魔力消費を抑えて、数倍の戦闘数がこなせる。
俺の大魔狼の方も同じ、戦闘をさせなければ、そう使役魔力は掛からない。
魔将軍がどう戦うか知らんが、
俺のやり方は、冒険者や騎士団なんかとは違うんだ」
ルーシーは、バインバインと飛び跳ね、ヘッジを褒め称える。
「す、凄いです!!
ヘッジ様なら、必ずノルド国を取り戻して下さるわ!!」
ミヤーザも、おっとりと言い、感謝の祈りを捧げる。
「凄いわねぇ、レベル1で、こんな事が出来るなんて。
おばちゃん、ヘッジちゃんとキーちゃんが来てくれて嬉しいわぁ!
ノルン様、有難う御座います」
キマーリは、軽く頷きながらも、悪態をつく。
「フンw
珠恵は、ツバメ、弓ゴブ10匹で限界の3pt。
4部隊目、囮の大魔狼は、小僧が直接使役かw
しかしの?
今日、弓ゴブが5匹多く作れた上、
今、大魔狼を使役する魔力がお前にあるのも、
ワシの魔力を、お前にコンバートしたからじゃぞ?w」
ヘッジは、悔しそうに言い返す。
「へっ!
弓ゴブ5匹と、大魔狼を珠恵さんが使役でも、同じ事が出来たさ。
それに、ババァが居なくても、
明日にゃぁ、弓ゴブ10匹になってたんだよ!」
キマーリは、小馬鹿にする様に続ける。
「矢先に何もなしの矢を撃つ、弓ゴブが10匹にな?
フンw
一人で出来る?
聞いて呆れるわww」
ヘッジは、なおも悔しそうに言い返した。
「矢尻の素材にしたボロ銅盾なんぞ、10倍にして返してやるぜ!
大体がなぁ、レベル1の獣魔使いの俺が、
ダンジョンラスボス級、レベル15の大魔狼を使役してるだけでも、
珠恵さんの凄さが判るってもんだろうが?」
キマーリは、鼻で笑い言う。
「珠恵は、ノルン様の加護、ノルン様の与えたお力。
素晴らしいのは、当然じゃw
しかし、ノルン様の使いともあろうお方が、ケチ臭いのうぅw
100倍の間違いじゃろ?」
キマーリに煽られ、ヘッジはヒートアップしていく。
そんな口喧嘩の中、ヘッジに抱かれたキーちゃんが、2人に言った。
「ヘッジちゃんも、おばぁちゃんも、
ケンカは、ダメなんだよー?」
ヘッジもキマーリも、幼子に注意され、
バツの悪そうな顔をして、黙り込む。
ミヤーザとルーシーは、キーちゃんの注意で、
2人の口喧嘩がおさまったのを見て、
ホッとして、キーちゃんに微笑みかけた。
ヘッジ軍は、図らずも・・・、
いや、運命の女神ノルンの導きにより、
珠恵の魔力回復の為の拠点と、
前衛を張る重剣士ルーシー、
回復役の僧侶ミヤーザ、
そして、ヘッジに魔力をコンバートしてくれる、
ベテラン軽戦士キマーリと言う戦力を手に入れて居た。
僅かではあるが、戦力を手にしたヘッジは、
幼女キーちゃん、
3人の従者、キマーリ、ミヤーザ、ルーシーと5人ptを組み、
自身のレベルアップを目指し、
魔物を求めて、ダンジョン入り口に向かって歩き出すのだった。
予約投稿ミスったw
明日の朝にしたつもりが、今日の朝に設定してしまった・・・。
その場合、リアルタイム投稿になるのんねw
まぁ、良いけどさ。
と、言う訳で、次回投稿は、金曜日、8月1日となりマウス。
さらっと、斜め読みでも、読んで貰って有り難いっす。
ちょろっとでも、面白いかな?良いトコあるかな?と思っちゃったら、
いいねやら、感想やら、ブックマークやら、レビューやら、
星やら、頂きたいっす。
具体的には、下の方の☆☆☆☆☆っす。
詰まらなければ☆ひとつ、面白ければ☆5つと言うルールっす。
それが、この話への応援となります。
反応無いと、便所の落書きだもの、反応無いの悲しいっす。