死闘 10
「お待たせ」
「あ、ご主人様。お帰りなさい」
戻ってくると、獣っ娘は任せた仕事をすでに終わらせた様子。
先の戦闘で薙ぎ倒された木に腰掛け、巨大猪の死体をぼんやりと眺めている。
自分の何倍もある相手だ。
仕留めた直後こそ、終わり方に多少の不満もあったようだが。
それも解消され。
改めて、自らが成し遂げた事とその達成感にでも浸っていたのだろう。
「これ、ありがとうございました」
そう言うなり、真っ先にナイフを返却してきた。
さっきまである程度無理してでも買い取って自分の物にしたいぐらいの感じだったのに。
酷い手のひら返しである。
ま、高級品だと知っちゃったからね。
あまり長いこと持っていたくなかったらしい。
その気持ちは分かる。
さて、死体への最低限の処理は済ませた。
動脈切ったのとしめただけだが、二人で何百キロもありそうな内臓抜くのは重労働が過ぎるからな。
これで十分。
人を引っ張ってくるための材料になりそうな部位の回収も完了。
「んじゃ、街に戻るか」
「はい!」
良い返事だ。
流石の獣っ娘も、ここからもうひと狩りいく気はないらしい。
人を呼びにいかないとだからな。
さっさと行こう。
気温はまだ低いが、冬に比べれば鮮度もかなり落ちやすくなってるはず。
あまりダラダラして、買取を断られでもしたら事だ。
いや、多少傷んでも皮とか牙はまだ売れるだろうが……
どうせ売るなら、ね。
余す事なく出来るだけ高値で買い取ってもらいたいのが人間ってものだろ?
……でも、その前に。
このままはちょっと良くないよな。
二人の格好。
獣っ娘は返り血浴びて全身血まみれだし、俺も最後にしめたので腕がベトベトだ。
放置したら病気になりかねない上、街に入るのも手間取る可能性。
マダニがいるかは知らないが、似たような寄生虫はいてもおかしくないしね。
水浴びぐらいはしてかないと。
幸い、帰路のすぐそばを川が流れているのだ。
少しの回り道で済む。
森を抜け、しばし歩く。
耳を澄ますと水の流れる音が聞こえてきた。
ほとりに着いたか。
ふと、隣に視線を向けると川を見つめたまま頬を染める獣っ娘。
何を思い出しているのやら、どうも彼女の中ですっかりそういうイメージで固定されてるらしい。
風評被害も甚だしい。
俺のせい?
いや、別にわざとやった訳じゃないし……
あれはどう考えても事故だ。
「顔赤くして、どうした?」
からかい半分で声をかける。
げしっ。
足首の辺りに遠慮ない蹴りが飛んできた。
恥ずかしがってるとこ悪いが、せめて大雑把に血を流すぐらいはしないとな。
仮に街に入れたとしても、このまま宿に行ったら女将さんに怒られる気しかしないし。
川での水浴びは確定事項である。
複雑そうな表情で水面を見つめる獣っ娘。
横に立って。
背中を押そうと企んでた所、逆に俺のことを押してきた。
あぶなっ。
お前、結構力入れて押したな?
でも甘い。
ひょいと獣っ娘を抱え上げ、そのまま放り投げた。
「……ご主人様、ひどいです!」
「いや、自業自得だろ」
川に落ちた彼女から抗議の声が上がる。
とはいえ、先に仕掛けたのはそっちなのだから。
やり返されても文句は言えない。
まぁ、何もせずとも俺に押されて結局落ちてた気もするが。
ってか、俺も汚れてるのは変わらないのだ。
不満気な獣っ娘を横目に。
ひょいと川の中へ。
水際で小競り合いしてたのは何だって話だけど、そういうもんだ。
どうでもいいことで争うの、実は結構好きだったりする。
勝っても負けても後腐れもないからね。
春になり暖かくなってきたとはいえ、まだ川に入るには肌寒い季節。
だが、ここの水は温水である。
問題はない。
ばしゃ。
腕についた血を洗い流していると、横から水が飛んできた。
……やる気か?
「このっ!」
「ご主人様、大人気ないです」
「だまらっしゃい」




