死闘 9
大きな怪我してる様子は無かったけど、念の為ね。
用心するに越した事はない。
にしても、美味そうに飲むのな。
ゴクゴクと。
ポーションなんて大して美味い物でも無いのだけれど、喉でも渇いてたのか?
ま、随分と激しく動いてたしな。
それに、人間の体って栄養が不足してたりするとそれを補おうと特定の物が無性に食べたくなったりするって言うし。
水分抜きにしても。
体の修復をサポートする物質も入っているのだ。
案外、戦闘後のポーションの味ってそう悪くないのかもしれない。
俺ってチート持ってるからさ。
転生して以来、まともな怪我の経験もなく当然ポーションが必要な状況になったことも無いんだよね。
……さて。
このまま獣っ娘眺めて現実逃避していても仕方ない、か。
どうしたものかね。
こいつ。
今まで狩った小動物達はキャッチアンドリリースでやって来てたのだが。
今回は仕留めちゃった訳で、そうはいかない。
巨大猪の腹に手を置く。
でっかいなぁ。
獣っ娘と二人で街まで運ぶのは、ちょっと現実的じゃない。
普通サイズの猪ならどうにでもなったのだけど。
これは、な……
いや、別に俺の身体能力なら一人で運べない事も無いし何ならアイテムボックスにしまえば負担なく運べるのだが。
そんな事したら明らかに目立つし、色々と不自然すぎる気がする。
温泉街にはこれからもちょくちょく遊びに来る予定なのだ。
変な騒ぎを起こしたくは無い。
ふと、視界に流れ出る血が見えた。
巨大猪の大きさもあってか獣っ娘が切った首筋からは今も血が滴っている。
何にしても、これちゃんとしめた方がいいか。
グチュ
一旦しまったナイフを取り出し首筋にあてる。
下の方、確か喉元のあたりだったっけ?
獣っ娘の一撃で既にしまってる様にも見えたけど。
ま、一応ね。
ちゃんとしめとかないと、せっかくの大物の価値がガタ落ちしちゃうから。
肉の感触が気持ち悪い。
まだ生暖かいし、ぬめぬめとした血液が手にまとわりつく。
それに、巨大猪が死んでも細胞は生きてるらしい。
断面がピクピクと動き指に引っ付いてくる。
綺麗事とかそういう話ではなく、単純に作業していて気分のいいものじゃない。
……お、これが神経かな?
体がデカいせいか結構手応えがあった。
オッケこれで最低限はいいかな。
本当は内臓も早いこと抜いた方が良いんだけど、数百kgはありそうだからなぁ。
うん、無理。
それにしても、ちょっと作業しただけで手がべとべとだ。
運ぼうなんてすればここからさらに。
これがあるから討伐系のクエストはやる気になれない。
この猪、ここに置いてっちゃダメかな?
ダメだよね。
獣っ娘には売ったお金分けるって言っちゃったし。
何より、初めて戦った相手なのだ。
その記念の意味も合わせて、放置なんてする訳にもいかない。
それに、殺した以上は有効活用してやらないとな。
人を呼んでくるしか無い、か。
これだけでかい肉の塊なら出張買取もしてくれそうだし。
多少手数料は取られるかもしれないが。
まぁ、そこをケチっても仕方がない。
人を呼ぶなら、それなりの証拠は必要だろう。
こちらを無駄に疑ってくる意味もないと思うけど。
サイズがサイズだ。
それなりの人数に動いてもらう必要があるからね。
説明の材料はあった方がいい。
牙と、耳ぐらいあれば分かりやすいか?
本職の人間ならそこから持ち主の大きさをおおよそ察してくれるはず。
……ただ、これ以上汚れたくないな。
面倒というか、こうあまり気が進まない。
獣っ娘に任せるか。
「硬い……」
嫌な顔ひとつせず代わってくれた獣っ娘だが、耳を切り取ろうとナイフをそわせた所で眉をひそめる。
それも結構良いナイフなんだけどね。
おそらく、先の戦闘で奴の首筋を撫で切ったのをイメージしていたのだろう。
ミスリルとは違うわな。
巨大猪の皮はやはり相当な硬さ、慣れてない彼女では難しいらしい。
俺の手元に視線を感じる。
別のナイフを取り出すのも不自然だろうと、しめる為に取り出したのはさっきまで獣っ娘が使っていたナイフだ。
「貸すだけだからな」
「はい!」
俺の言葉にひそめていた眉はどこへやら。
一瞬で笑顔に。
ったく、調子の良いやつめ。
「やっぱり、このナイフ凄いです!」
「そりゃミスリルだからな」
さっきまであんなに苦戦していた巨大猪の皮。
それを、嘘のように易々と切り裂いていく獣っ娘。
切れ味に感動したのかテンションが高い。
いくら褒めてもやらないからな。
「……え、」
?
テンション高く動かしていた手が急に止まった。
どうした?
「ご主人様。今、なんて言いました?」
「ん?」
「このナイフが……」
「あぁ、ミスリル製のナイフだからね。そこらの物に比べれば性能良いのは当然」
俺の言葉に処理落ちしたかのように固まる獣っ娘。
手どころか、全身が停止していて。
視線も目が合ってるんだか合ってないんだか、どこか遠くを見ている様な気がする。
「ミスリル?」
「そう、ミスリル」
絞り出すように、その四文字を発した。
「……奴隷の私なんかが触って良いんですか?」
「いや、貸して欲しそうにこのナイフ見つめてきたのはそっちじゃん」
「でも……」
恐れ多いとでも言う様に、急にナイフを恭しく扱い出した獣っ娘。
今更だと思う。
さっきまで戦闘に使ってた訳だし。
「そっか、そりゃ買えないわけですね」
しみじみとそんな言葉が漏れた。
そういや、説明もせずに貸したからな。
良いナイフだと察してはいそうだったが、ここまでの高級品だとは思わなかったのだろう。
「ちょっと離れるな」
「? はい」
恐る恐るといった様子で、ナイフを傷つけないよう丁寧に作業を進める獣っ娘。
この感じだともうしばらく時間がかかるな。
特に問題もなさそうだったのでこの場を任せ少し離れることにした。
野暮用があるのだ。
さっき、魔眼に引っかかって遠距離から仕留めた巨大猪。
これをアイテムボックスに収納する。
この場に2匹いるのはよろしくない。
特に、真っ二つなんていう明らかに格上からの攻撃で殺されれてる個体が落ちてるのは。
間違いなく騒ぎになる。
俺もそうだが、獣っ娘はここで暮らしていく訳だしね。
獣っ娘が仕留めた個体を見せるのもどうなんだって話だが、明らかにこいつより格上だったし。
でも、死んだら威圧感も何もないからね。
おそらく、後で殺した個体も獣っ娘が仕留めた個体も同じ様な扱いだ。
オークと同格か少し格上ぐらい。
冒険者で言えば、CランクかDランクあたり。
温泉街じゃ多少目立つかもしれないが、別に困るほどの名声でもない。




