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ギルドの片隅で飲んだくれてるおっさん冒険者〜蛇足編〜  作者: 哀上
蛇足④

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死闘 7

 獣っ娘の動きを見た巨大猪が力任せに地面へと埋まった蹄を引き抜く。

 地面が盛大に掘り返される。

 土と小石が宙を舞い、まるで何かエフェクトのよう。


 彼女に、立て直す時間を与える気はないと。

 空中にいて身動きの取れない内にとどめを刺すつもりらしい。


 ……そうさせる訳にはいかないな。


 手を出すつもりはなかったが、別に何かの訓練や試練でもないのだ。

 ちょっとした遊びの延長。

 怪我すると分かっていて黙って見過ごす気はない。


 一対一の勝負としては決着がついた。

 獣っ娘本人としては、多分1人で勝ちたかったのだろうけど。

 読み負けた以上仕方がない。

 それは諦めてもらう事にしよう。


 さて、と。

 助けるのはいいとして、助けようと思えば如何様にでも出来る訳だが。

 どうしたものかね。


 ま、あれでいっか。

 あいにくな事に今日の俺はあんまり動きたくないのだ。


 いつもだろって?

 うっさい。

 今日は特別気力が低いだけだ、多分……


 獣っ娘との魔力的なライン。

 奴隷契約を結んだ際に生まれた物だ。


 普通、何か別のことに使えるほど強い繋がりでも無いのだが。

 俺の魔法はチート製だからね。

 このラインを目印に、魔力を伸ばしてやれば。

 座標やらなんやら細かいとこすっ飛ばして、瞬間的に細いラインを補強出来る。


 さすれば、容易に彼女との物理的な繋がりまで構築が可能。


「……へ?」


 一瞬のうちにそれを引っ張る。

 獣っ娘の体が不自然な軌道で横にずれ、次の瞬間巨大猪の突き上げが宙を切った。


 風を裂く音が森に響く。


 巨大猪が低く唸る。

 仕留めたと思ったところに、予想外の動きでの回避。

 苛立ちを露わにし、前足で地面を踏みつける。


 一方の獣っ娘も。

 どうやら、何が起きたのか分かって無い様子。


 両者共に隙だらけだ。

 互いに距離も詰まって、間合いの内側だってのに。

 ま、しゃーない。


 立て直しが早かったのは巨大猪。

 今度こそと、再び狙いを獣っ娘に定め突進の構えをとる。


 一度手を出した以上、ここから仕切り直しと言うのも違うだろう。

 獣っ娘が不利になるたびに助けてたらね。

 結局、一対一の勝負でもなんでもなくなっちゃうし。


 近くに落ちていた小石を拾って投擲。

 だが、興味が移る様子はない。

 この巨体だと小石ぐらいじゃ気にもならないか。

 ましてや戦闘中だし、そりゃそうだよな。


 懐に手を突っ込みアイテムボックスを起動。

 適当なナイフを取り出し、魔力を使ってそれを射出した。


 命中。


 銀光が閃き、見事ナイフが巨大猪の腹に突き刺さった。


 まぁ、大した刃渡じゃない。

 ダメージとしてはそうでもないはず。

 だが……

 狙い通りタゲがこっちに移った。


 来るか?

 そのつもりなら相手してやる。


 が、いいのか?


 獣っ娘。

 まだまだ戦える状態ですぐ側に居るんだぞ。


「ーーーー!!」


 声にならない声。

 巨大猪の咆哮が周囲にこだまする。


 完全な意識外からの攻撃。


 ミスリルのナイフが首筋を撫で、一点で刃を止め深くまで突き刺した。

 先の攻防の際に出来た傷を利用したのだろう。

 奥、ナイフの柄の部分まで皮の内側に押し込まれている。


 動脈を切ったのか、血が勢いよく吹き出す。

 獣っ娘が返り血で赤く染まった。


 今度はしっかりととどめを刺せた様子。

 流石!

 刃渡りが足りない中、見事急所への攻撃を通して見せた。


 ジャイアントキリングってやつかね。


 獣っ娘は肩で息をしつつ、達成感に包まれている様子。

 でも、少し不服そう。


 俺が手を出したせいか。

 武器を借りぐるらいならともかくとして。

 1人でやりたかったと見える。


「いや、お前……。俺が手出さなかったら多分死んでたよ?」


 俺の言葉に肩を落とす獣っ娘。

 どうやら、助けられたことに関して文句を言う気は無いらしい。


 なるほど。

 単に、自分が負けたと思ってるのだろう。

 殺しこそしたが勝負には敗れた。


 だから素直に喜べない。


 それに……

 巨大猪との勝負、最後が呆気ない終わりだったからってもの大きそうだな。

 隙をつく形で一撃で終わってしまった。


 うーんそうだな。

 ……あ、


「狩ってのは、群れでやるもんだ。特に自分よりデカい獲物を狩るなら尚更」


 獣人が本来どうやって狩を行ってるのかは知らないが。

 人間の冒険者は、普通パーティーを組む。


 ドラゴンやらオーガやらを狩る英雄。

 彼らだって、パーティーを組んで適切な戦略を立ててその災害に挑むのだ。

 単騎で突っ込む奴はそういない。


 肉食獣も群れで協力して獲物を狩る種は多いしな。


 あっけなく見えたかもしれない。

 でも、それは作戦がうまくハマっただけ。

 2人で勝った。

 それでいいんじゃね?


「……そういう物、ですかね」


 多少は納得したらしい。

 獣っ娘は満足げな笑みを浮かべた。


 なら、良かった。


 ま、俺はパーティーなんて組んだ事ないし。

 猫科ってライオン抜けば、どちらかと言うと群れを作らない奴ばかりな気もするけど。

 本人が納得してくれたのだからそれでいいのだ。

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