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ギルドの片隅で飲んだくれてるおっさん冒険者〜蛇足編〜  作者: 哀上
蛇足④

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死闘 2

「ご主人様、起きてくださいよー」

「起きてるって」

「さっきからそう言って、ちっとも動かないじゃないですか」


 寝っ転がったまま、獣っ娘に体を揺すられる。


 俺がずっとベッド上から動かないので実力行使に出たらしい。

 早く起きろと、段々揺れ幅も大きくなってきた。


 これ、そのうちベッドから落ちそうだな。

 そう思いつつも。

 なかなか体を持ち上げようって気にならない。

 我ながら駄目な大人である。


 一応、返事は返してみたが。

 完全に詭弁である。

 しかも、それが獣っ娘にもバレバレだ。


 別に、寝足りないという事は無い。

 大して眠い訳でもないのだけれど、微かな眠気と寝起き時のベッドから離れたくないという誘惑はどうにも抗い難く。

 その上だ。

 朝日も心地いいと来た。

 雪解けして春が顔を出し始めたこの気候もいただけない。


 いずれ起きなきゃいけないと言うのも理解してはいるのだが。

 出来るだけ先延ばしにしたい。

 この惰眠を貪る時間を、贅沢に味わいつくしたい。


 前世から、この先延ばし癖には散々悩まされた記憶がある。

 結局死んでも治らなかったな。


 なんて思いつつ。

 あぁ、この揺れもなんか一定のリズムで揺らされるとちょっと。

 ゆりかご代わりに、少しうとうとしてきて。


 ……


 いやいや、ここで二度寝はマズい。

 普段の旅先ならいざ知らず、今回は獣っ娘に会いに来たのだ。

 それを放っておいてすやすやとなんて選択肢。

 無いな、うん。


 と言うか獣っ娘、俺のこと起こそうと悪戦苦闘してくれてるのはいいが。

 大丈夫なのか?


 女将さんはもう仕事行ったって話だ。

 いつまでも起きないで、獣っ娘の負荷増やしてる俺が言えた事じゃないけど。

 お仕事はいいのだろうか?


 流石に、これで獣っ娘が怒られたりするのは本意ではない。


「早くー、起きてくださーい」

「なぁ」

「?」

「女将さん仕事行ったんだろ、まだ俺の部屋に居て大丈夫なの?」

「私、今日はご主人様の専属なので!」


 お節介な気もしたが、念のためと思って口に出すと。

 嬉しそうにそんな答えが返ってきた。


 なるほど、専属か。

 そうなったのね。

 朝のうちに、そんな業務命令が下ったらしい。


 それで俺の事を起こそうと躍起になっていたのか。


 突然、しかも普段来ない時期に来たってのに。

 昨日は休憩時間の融通を利かせてくれて、今日はこんな配慮までしてくれるとか。

 ほんと感謝しないとな。


 まぁ、俺のためってよりは獣っ娘の事を想ってだろうけど。

 改めて随分と愛されてるご様子。


「そっか、専属か」

「はい!」


 まともに受け答えし始めた事に満足したのか。

 それとも、いつまで経ってもベッドから動こうとしない俺についに諦めたのか。

 揺れが止まった。


 不思議なもので。

 そうなると、さっきまでの眠気がどこへやら。


 いや、だからと言って急にシャキっと起きもしないのだけど。

 ただ獣っ娘をぼーっと眺める。

 ゆったりとした時が部屋の中を流れていく。


 暇なのだろう。

 部屋のあちこちをみて回って、掃除を始めたらしい。


 専属ねぇ……


 その意味は分かってはいるんだけどね。

 女将さんは別にメイド仕事をさせるためにそんな事を言ったわけでは無いだろう。

 かまってやれって事だ。

 ただ、どうも体が動いてくれない。


 肉体的なお話ではない。

 気力の問題。

 一度動き出してしまえば、こんなのどうってこと無いのだが。


 俺はそういう人間なのだ。

 何をするでもなく、彼女の事を何となしに眺めたまま。


 ちょこちょこ動いて。

 丁寧に、隅々までお掃除か。

 ふと、俺の荷物の側に服が畳んで置いてあるのが目に入った。

 昨夜脱ぎ散らかした物だ。

 真面目な奴め。


 そう感心しつつも。

 ちらちらと、あちこちから視線を惹くモノが見え隠れしている。

 胸元はゆるいし。

 丈も、尻尾が服を押し上げてる格好。


 ……マズいな。

 素晴らしい光景なことに違いはないが。

 目の毒だ。


 普段だったら歓迎こそすれ、これを拒否するなどあり得ないのだけど。


 冷静になって考えてみる。

 今ここで獣っ娘を襲ったらどうなるだろうか?

 断られない気はする。

 でも、後で女将さんに何を言われるか。


 久々に会いにきて、朝っぱらからずっとそういう事とか。

 体目当てかな?

 いや、獣っ娘を買った所からしてまごうことなくそうなんだけど。


 非常に外聞がよろしくない。


「あー。お掃除の前に、一旦着替えよっか」

「? 分かりました」


 とりあえず、その格好は無しだ。

 何をするにしても。


 着替えは持っていたらしい。

 なら何故俺の服を着てたんだって話だが。

 聞く間も無く。

 すぐ着替え始めたので目を逸らす。


 窓の外に視線を向け、切り取られた青い空をただ眺める。


 振り返りたいという強烈な誘惑。

 しかし、だ。

 せっかく拾った命を無意味に破棄する趣味はない。

 すでに手遅れで、刑の執行を待ってるだけって説もそれなりに濃厚ではあるが。

 希望を捨てて如何するのかって話だ。


 なるべく別の事を考えよう。

 そうだな、今日の予定とかどうだ?


 部屋でダラダラしててもな。

 俺は良いけど、獣っ娘は退屈だろう。

 偶に来たんだ。

 せっかくなら遊んでやらねば。


 昨日はそのまま寝ちゃったからな。

 まず朝風呂にでも入って……

 いや、ここの風呂は混浴だったか。


 危ない、今の努力がパーになる所だった。


 1人部屋に置いていくのもな。

 それは違う気がする。

 これ以上、女将さんの不評を買うような事は避けたい。


 どうせ外出るんだし。

 その時に水浴びでもすればいっか。

 まだ春だけど。

 この辺りの川は温水プールみたいな物だ。


「何かやりたいことあるか?」

「やりたいこと?」

「そう、せっかく一日自由に動けるわけだし」

「……えっと。狩、やりたいです」


 窓の外を眺めたまま。

 お着替え中の獣っ子に問うと、少し遠慮がちに答えが返って来た。

 ハマったらしい。


「んじゃ、行くか」

「いいの!?」

「俺がいない時は禁止だからな」

「はーい!」


 危ないからね。


 ま、元々それは理解しているのだろう。

 これまでも我慢してたっぽいし。

 遠慮がちに口に出したのも、そんな事情もあってのことかな。


 あまり危険な事はして欲しく無いのだけど。

 本能が求めるのなら仕方がない。

 昨夜の俺も、本能に負けた結果女将さん相手にとんでもないお願いした訳だし。

 一緒にするなって?

 うるさい、だいたい一緒だろ。


 ま、冗談はさて置き。


 変に我慢させるより危険度が下がるような形で発散させてやらないとな。

 幸い、俺と一緒なら大した問題はない訳だし。


 いや、しかし元気だよな。

 本当に。

 昨日も散々走り回ってたってのにさ。


 見てて結構面白かったし。

 気力もないのだ。

 俺としても、案外都合がいい提案なのかもしれない。


 後は、昨日は時間なかったけど。

 森に入るついでに天然入浴剤も取りに行こうかな。

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