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ギルドの片隅で飲んだくれてるおっさん冒険者〜蛇足編〜  作者: 哀上
蛇足③

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親子 19

 風呂から上がり、部屋へ戻ってきた。


 当然ではあるが誰もいない。

 獣っ娘も女将さんも、いろいろとお仕事中なのだろう。

 俺1人だ。


 今回、一緒にいる事が多かったからか。

 やけに室内が広く感じる。


 少し寂しい気がしないでもない。


 ……でもまぁ、こういう時間も結構好きだけどね。

 人と一緒にいるのは。

 それまた楽しい時間ではあるものの。

 1人の時間。

 こっちも、なかなか捨て難い価値を感じていたり。


 ほら、ここ最近の俺って。

 なんだかんだ人との関わりが増えてきてる気がするし?


 別にそれが嫌って訳ではないのだけれど。

 精神の健全を維持する為にも。

 この手の時間、実は大切だったりするのだ。


 俺って、根が独り身のおっさんだからさ。


「……ん?」


 ふと、机の上に置かれている瓶が目に入った。

 こんなの元々あったっけ?


 風呂に行く前、この部屋を出て行く時は無かった気がする。

 少なくとも俺が置いて行った覚えはない。

 と言うことは女将さんか獣っ娘の仕業だろうか。


 それ以外だったら怖いし。

 なんて、軽くあたりをつけつつ手に取ってみると。

 あぁ、なるほど。

 これミルク入ってるやつね。


 多分、女将さんが準備してくれたっぽいな。

 気が効く人だ。


 俺は普段から風呂上がりにはミルクを飲むことにしている。

 一種のルーティーン。

 それを把握してくれていて、毎回入浴してる間に用意してくれているのだ。


 いつもは更衣室に置いてくれているのだけど……

 俺が、適当に服を放り込んでおいたかごの側にご丁寧に用意されている。

 流石にね。

 今日は風呂を利用してるお客さんも多かったから。

 部屋の方に置いといたって事なのだろう。


 この宿の風呂ってそもそも混浴だし。

 そうでなくとも、女将さんやら女性スタッフが入ってきた所で不快感を覚える人間なんてほぼ居ない様に思えるが。


 まぁ、これも気遣いってやつなのかね?


 今の時期は客が俺だけという訳でもないのだし。

 個人的な感覚で言うの違うか。

 それに、だ。

 ほぼ居ないとしても、俺1人のために少数の人の意思を無視して良い理由にはならないもんな。


 常連で、かなり特別扱いしてもらってる自覚はあるが。

 それはそれ。

 女将さんからすれば、他の客も大切なお客様である事に変わりはない。


「ぷはー、うまい!」


 瓶の蓋を開け。

 腰に手を当ててミルクを一気に飲み干す。


 最高だ。


 この飲み方、ちょっと勿体無い様な気もするけど。

 ビールと一緒。

 喉越し含めだからね。


 にしても、やっぱり風呂上がりのミルクはいい。

 汗をかいて喉が渇いたところに、一気に流し込むこの感覚が特に素晴らしい。

 異世界にもあって良かった。

 ミルクなしじゃ、温泉の満足度も半減である。


 牛乳があれば尚良かったのだが。

 それは流石に、贅沢を言い過ぎというものか。


 この世界で牧場作ろうなんて無理ゲーだし。

 仮に作れたとしても、満足に乳がとれるようなサイズの魔物でとなればさらに高難度。

 ちょっと現実的ではないよな。


 このミルクだって、牛どころかそもそも魔物産の物でもない訳だし。


 いや、多分だけど。

 でも十中八九そうだとは思う。


 じゃあ何かって?


 ……


 時に粉ミルクとは偉大な発明だとは思わないか?

 前世じゃ、母乳の出が悪い場合や使用してる薬の影響で母乳を与えられない際など。

 様々な理由で使われていた。


 後者はともかく、前者はこの世界でも当然起こりうる問題で。

 なんなら前世でも発明前はそうだった。

 その時代。

 なんでも母乳の出ない母親向けに、乳を売ってくれるような人がいたらしい。


 需要があるところに商売が生まれるのは自然な流れであり。

 となれば、この世界にも……ね?


 それが誰なのかと聞かれれば。

 さぁ?

 俺は余計な事は考えないようにしているのだ。


 何が真実だったとしても。

 多分、調べようとした時点で女将さんに睨まれる未来しか見えないし。

 ミルクはミルクであり、それ以上でもそれ以下でも無い。

 分からなくていい。

 それで上手いこと回っているのだから。


 さて、と。


 長風呂したとはいえ、夕食までもうしばらく時間がある。

 また外へ出て来てもいいんだけど。

 風呂入ったし、ちょっと気分的に違うかな。


 窓の外。

 ふと、その景色に視線を向ける。


 街並みも森の中も、毎年訪れている温泉街ではあるが普段来ているこの街とはまるで別物だった。

 当然、ここの宿から見える景色もそう。

 街に着いて数時間経ち、まだ散策にこそ行けていないものの獣っ娘に付き添う形でそれなりには見てきたのだが。

 これまでの年数の積み重ねがあるせいかまだ新鮮だ。


 アイテムボックスから適当に酒を取り出す。


 窓際に腰掛け、コルクを抜いた。

 風呂上がり。

 景色を眺めながらの一杯。


 入浴しながらのお酒、あれもいいものだけど。

 こちらもなかなか捨て難い。


 ただ、更衣室でだらけず真っ直ぐ戻ってきて良かった。

 この二択の甲乙は兎も角。

 少なくとも、あそこでぼーっとしてるよりはこちらの方が満足度が高いように思う。


 入浴したばかりでまだ熱を持った体。

 春の風を感じつつ。

 窓の外、少し傾いた日に照らされる見慣れた街の見慣れない表情を肴に。

 ちびちびと酒をたのしむ。

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