親子 16
獣っ娘を背負ったまま、森を抜け宿へと戻って来た。
当然徒歩である。
転移魔法でも使えば一瞬ではあるのだが……
流石にね。
チート能力を知られたくないのは前提として、部屋に飛んで誰かと座標被ったりしたら大惨事である。
「おーい、ついたぞ」
「……ご主人様?」
獣っ娘に声をかけると。
背中から、寝ぼけたような返事が返って来た。
道中、やけに静かだと思っていたのだが。
どうやら俺の背中に完全に身を任せて寝落ちしていたらしい。
なるほど。
これも、信頼されてる証ってことかね。
個人的には嬉しい限り。
まぁ、正直奴隷としてはあるまじき行動だと思うけど。
ご主人様に背負わせるどころか、そのまま寝落ちしちゃうって。
それだけ全力で楽しんでくれたって事なのだろう。
本人にもその自覚はあるらしく。
俺に背負われるって時点でしゅんとしていたのが。
もう一回り。
更に小さくなっていた。
「あんま気にすんなって」
「わふっ」
たれた耳の上から、ちょっと乱暴目になでてやる。
俺が怒ってない事は伝わったのだろう。
それだけで、尻尾がゆらゆらと揺れ少しは調子を取り戻したらしい。
……
さて、ある程度余裕をもって戻って来たからね。
休憩が終わるまで多少の時間はある。
無駄な足掻きな気もするけど。
獣っ娘の体力が回復する事を願って、時間ギリギリまで寝かせておいた方がいいよな。
そう思い、頭をなでつつそっと倒してみたのだが。
俺の腰に抱きついたまま、すりすりと頬擦りをして来て一向に寝る様子がない。
さっきまで気持ちよさそうに寝ていた癖に……
寝具が用意されてるわけでもないから、確かに多少寝ずらいかもしれないけど。
少なくとも、俺の背中よりはマシなはず。
そんな思いも虚しく、変わらずじゃれついてくる獣っ娘。
まぁ、流石に疲れがあるのか立ち上がったり走り回ったりとする様子はないが。
……こりゃダメだな。
失敗である。
試しに手を差し出してみると、俺の手をハムハムと甘噛みされた。
人間、一回起きちゃうと眠くても中々寝付けない事ってあるしな。
獣っ娘の気持ちも分からなくはない。
こんこん
そんなこんなで、もはや寝かしつける事は諦め。
しばらく獣っ娘と2人戯れていると。
ドアがノックされた。
「はーい」
開けると、予想通りそこには女将さんの姿が。
わざわざ呼びに来てくれたらしい。
視線の先には、戯れていた俺が急に立ち上がったせいで1人転がっている獣っ娘。
改めてみると服が少し汚れている。
森で狩なんてしていたのだからそれは当然だけど。
女将さんにジト目を向けられる。
別に宿の制服を汚した訳ではない。
獣っ娘の私服。
ただ、普段元気いっぱいな彼女が転がってる状況と合わせて。
なんとなく察していそうではある。
こいつが勝手に……、ってのは流石に無責任が過ぎるか。
少なくともさっきの間は俺が監督者なのだ。
そもそも宿に預けてるだけで獣っ娘の本来の保護者も俺だしね。
あのー、本当にごめんなさい。
手を擦り合わせて、誠心誠意思いを込めてジェスチャーしてみたのだが。
軽くため息をつかれてしまった。
「楽しかったかい?」
「うん!」
女将さんは一旦俺との話を後に回すことにしたらしい。
質問に元気よく返事をする獣っ娘。
はて?
いつの間にやら、そこそこ復活していたご様子で。
「何をしてたのかな?」
「えっとね。ご主人様と狩に行って来ました!」
「良かったねぇ」
頭をなでられ、気持ちよさそうに目を細める。
見ていて微笑ましい光景だ。
獣っ娘が、初めて自分で獲物を狩ったのだと。
そう自慢げに話す。
「それでは、お仕事に戻ります!」
「大丈夫?」
「はい。問題ないです!」
ある程度話して満足したのか。
これまた楽しそうに、仕事してくると駆けて行った。
「ロルフ様も、やれば出来るのですね」
「……うっさい」
悪口かな?
まぁ、これまでを振り返れば残当ではあるか。
女将さんからジト目を向けられた時は、怒られるかと覚悟したものだが。
そんな事はなく。
どうやら許してくれるつもりらしい。
俺より獣っ娘の事考えてくれてるだろうからな。
それに、なんかいつの間にやら体力も回復してたみたいだし。
理由もないといえばそう。
若い子って体力もそうだけど回復力も凄いね。
それどころか、見直されたまである。
獣っ娘の事、ほぼほっぽり出すような形で置いてったからね。
これでも俺の株は上がるのか。
逆に褒められてちょっと照れくさいまである。
獣っ娘と一緒にいるからかね。
元々、女将さんは母性強めな雰囲気を醸し出してはいたのだけど。
増してる気がする。
この歳になってしまうと少々こそばゆくて慣れない。
「お風呂の方、ご用意できましたが如何致しますか?」
「ありがたくいただこうかな」
ちょっと早いが、俺も森に行ってた訳だからね。
昨日も野営だったし。
スッキリして疲れを癒してしまいたい。
「あ、お風呂に関して一つ」
「ん?」
「お客様が多いので、本日は浴槽内でのお酒はなしです」
……まぁ、仕方ないわな。




