親子 10
「休憩入ったらまたこの部屋に来ると思うので、その時は思いっきり構ってあげてください」
「もちろん」
「あの娘、随分と寂しくしていたみたいですから……」
否と言う理由もない。
迷いなく頷いた。
そのために、この時期に温泉街まで来た訳だしね。
……なのだけど、女将さんからもの言いたげな目を向けられる。
あれ?
俺、何か選択肢ミスりました!?
「今まで、ずっと冬の間しか来てくださらなかったのに。あの娘の為なら雪解け後でもなんて。女としては少しヤケてしまいます」
何を言われるかと一瞬身構えた所。
完全に、予想外の言葉を投げかけられた。
そ、それはですね……
「なーんて」
「へ?」
「ロルフ様、そんな顔なされないでください。ただの冗談ですから」
……いや、なんだ急に!
びっくりした。
心臓に悪い。
俺は、人の嘘を見抜くのが下手くそなのだ。
勘弁してくれよまったく。
無駄にドキッとしてしまったではないか。
そんな妖艶な雰囲気まで醸し出して。
ってか、俺以外でも引っかかるだろ。
女将さんの様な女性にこんなこと言われて、まともでいられる男が存在するとは思えん。
随分と悪質な冗談もあったものだ。
種明かしされなかったら。
そのまま、手を胸の辺りにでも伸ばしていた所である。
危ない危ない。
んなことをすれば、さっきせっかく貰えた及第点が赤点になりかねん。
何がしたくてこんな罠みたいな事をしたのやら。
「あのー、女将さん?」
「今の言葉は冗談ですけど……」
「?」
「私も、嫌ってる相手に体を預けたりはしませんからね」
今までの妖艶な雰囲気はどこへやら。
頬を染めて。
まるで、普通の女の子みたいに恥ずかしげな表情を浮かべる女将さん。
こんな顔の彼女は初めて見た。
いつも余裕ありげで、そんな姿しか知らなかったから。
ここまで言われてわからないほど鈍感ではない。
体を重ねたのは前回だけ。
それも、経験の無かった獣っ娘が頼ったからって理由。
数日泊まっていたのだが。
その日以降、関係を持ったりはしなかった。
これだけだ。
憎からず思われてるとは感じていた。
しかし、そんなつもりないのかと思っていたのだけど。
どうも違ったらしい。
獣っ娘だけじゃなく、女将さんにも寂しい思いをさせてしまっていたと。
「そんなこと言って、まだ日も高いうちから仕事抜けちゃって良いの?」
「魅力的なお誘いですが。それは2人に示しがつきませんね」
まぁ、だよね。
流石にそれは怒られそうだ。
「仕事終わった後、お誘いしても?」
「あの娘はいいのですか?」
「そりゃ女将さんには懐いてるし。何なら、逆に喜ぶんじゃないかな」
「ロルフ様ったら、勝手な人」
その言葉とは裏腹に。
少し嬉しそうな、笑みを漏らす女将さん。
獣っ娘も嫌とは言わないだろう。
既に経験あるし。
なんなら、あの後もまた誘おうとしてやんわり断られてたりした気がする。
断ったのは、多分教えるって免罪符がなくなったからかな?
恥ずかしくなったのだろう。
今まではそんな人には見えなかったけど。
人間、誰しもいくつかの顔があるものだ。
「それでは、今宵伺いますね」
「はい!」
楽しみだ。
思いがけない幸運である。
前回、もうそんな機会はないのだと思っていたのだけれど。
まさかこんなすぐに回ってくるとは……
唐突な思いつきから今日温泉街に来る事になった訳で。
昨日の俺グッジョブ!
「あ、それと。お話は変わりますが」
「?」
「馬車でお疲れのところ申し訳ございません。お風呂の方は準備が整うまでもうしばらくお時間をいただきたく」
分かってますって、清掃中ですよね。
この前が例外だったのだ。
大体、これぐらいの時間帯は準備中である。
俺が昨日から馬車に乗りっぱだって話たからかな。
気を遣わせてしまったらしい。
確かに入りたい気持ちはあるけど。
仕方ない。
そもそも今の時期。
客も冬季より入るようになって、仕事も増加してるだろうからね。




