親子 8
ご機嫌斜めになってしまった獣っ娘に、スタッフの娘と2人して謝り倒し。
許しを得ると同時に再度なでまわして怒られてみたり。
いやまぁ、怒られるとは言っても。
獣っ娘の場合口では拒否しつつ、されるがまま大した抵抗もせずに。
尻尾も相変わらず嬉しそうに振られているのだが。
……
こうやって可愛がってる分には、獣人の尻尾とか耳って良いものだよな。
普通に社会でやっていくに当たっては不便そうだけど。
交渉とか不利そう。
いや、努力すれば制御出来るのかもしれないし。
そもそも。
身体能力やら五感やら、人より発達してるってメリットはあるのだろうが。
ただ、それを差し引いてみても……
うん。
俺的には転生した先が獣人じゃなくて良かったって思いの方が強い、かな?
おっさんのケモ耳なんて需要ないだろってのもそうだけど。
今の状態でさえ、色々顔に出ちゃってて。
かなり筒抜けらしいからね。
獣人になんてなったら、獣っ娘以上にダダ漏れになる予感しかしない。
そんなこんな、バカやって。
スタッフの娘と獣っ娘と3人で楽しく戯れていたのだが。
「……あっ!」
「?」
突然、スタッフの娘が声を上げた。
どうした?
2人して獣っ娘の事なでまわしていたのに、その手も引っ込めちゃって。
別に、ふざけすぎてガチで怒られたって訳でもない。
それどころかこの獣っ娘。
さっきまでずっと恥ずかしそうに。
不本意ですが、甘んじてなでられてあげます的な態度をとってたくせに。
止められて、逆に不満げな視線を向けている。
しかし、スタッフの娘はどこか別の場所を見ているようで。
抗議に答える事はなく。
それどころか、見る見るうちに顔色が悪化して……
「お二人とも、そこで何をしてらっしゃるのですか?」
聞き覚えのある声がした。
視線を向けると、そこには女将さんの姿が。
開けっぱなしになっていたドア。
その向こうから。
こちらへ、じとっとした見るからに何か言いたげな表情。
あぁ、なるほどね。
それでか。
スタッフの娘がこんな顔を真っ青にしてるのは。
「お掃除、随分と早くなったのですね」
「ご、ごめんなさい。すぐ仕事に戻ります!」
女将さんは声を荒げるでもなく。
淡々と、トーンも抑揚も一定なまま語りかける。
一見、全く怖くも何ともない光景ではあるが。
スタッフの娘は一瞬で震え上がり。
鍛えてもない人間がそんなに早く動けるんだっけって速度で、あっという間に部屋から飛び出して行った。
「……貴女も」
獣っ娘は、怖くて動けなくなってしまったのか。
俺にしがみついたまま。
ぷるぷる震えている。
力加減をする余裕もないのだろう。
さっきの甘噛みより、明らかに肉へのダメージがデカい。
そういえば、普通に仕事中だったな。
獣っ娘が何をしていたのかは知らないが、スタッフの娘は玄関前を清掃していたし。
俺は客としてこの部屋まで案内して貰っただけ。
その後、客と一緒に遊んじゃってたのは。
まぁ、普通にダメだよね。
別にサボるつもりは無かったのだろう。
そもそも、少し時間が欲しいって話だったわけで。
一目会わせてあげて。
獣っ娘のことを喜ばせてあげたかった、と。
俺が抱きしめて、そのままなでまわし。
ついでとばかりに手招きまでしてしまったから。
流されてしまったのか……
2人には悪い事をしてしまった。
スタッフの娘、数ヶ月前とは見違えるぐらい成長していたとはいえ。
まだ2年目入ったかどうか。
それに、見る限り年齢も若いだろうし。
そりゃ誘惑に負ける事もある。
普段から面倒見てる妹分が可愛いことになってたら、尚更。
獣っ娘、猫っぽいしね。
人間、猫様の魅力には抗えないのだ。
「あのー、女将さん」
「ロルフ様、お帰りなさいませ」
「……」
「いかがなさいましたか?」
恐る恐る、こちらから声を掛けてみると。
丁寧に頭を下げてくれて。
まるで、何も無かったかのように挨拶を返された。
「2人の事なんだけどさ、俺にも原因あるからあんまり厳しくは」
「分かっていますよ」
「え?」
「ですが、ロルフ様の様な方に流されていてはいけません」
えぇ……
俺に責任があるとまでは思っていないが。
きっかけは作っちゃったし。
一応、スタッフの娘と獣っ娘を庇おうとはしてみたのだけれど。
どうにも期待できそうに無い。
俺の様な奴に流される様じゃって。
酷くね?
女将さんの中で、ロルフ株の株価がかなり下落しているらしい。
そういや、獣っ娘をここの宿に預ける事になった時も。
初めは拒否されてたのが。
最終的に、俺に任せる訳にはいかないと。
確か。
そんな感じの理由で決まっていた様な気がする。
「久々の再会で名残惜しいのは分かりますが、まず仕事を終わらせてからにしましょうか」
「……女将さん、怒ってます?」
「いえいえ、怒ってなんていませんよ」
失礼しますと頭を下げ。
部屋に入り、俺のそばでそっと腰を下ろす。
獣っ娘と目線を合わせ。
優しく頭をなで。
言葉通り、その瞳に怒りの色はない。
それに、いつの間にか。
さっきまで女将さんから醸し出されていた凄みも消え。
声色自体は特に変わりないのに。
柔らかな雰囲気を感じる。
本物の親子みたいだな。
ただただ、甘いだけじゃない。
怖い所もあり。
それでも。
優しく、包み込んでくれる存在。
「今お願いしてる事が終わったら、早めに休憩入りましょうか」
「はい!」
女将さんの言葉に、獣っ娘は元気よく返事をして。
そのままてとてととかけていった。
可愛らしい。
横からじとーっとした視線を感じる。
確認するまでもなく、女将さんからのものだろう。
さっきのスタッフの娘の気持ちがよく分かる。
目を合わせる勇気はない。
……いや、本当に可愛いなぁ。




