旅路 12
街道に傾斜が付き、徐々に馬車の速度が落ちる。
どうも山道に差し掛かったらしい。
登れないほど険しくはなっていないのは整備頑張ったんだろうなと。
知りもしない誰かに思いを馳せてみたり。
耳抜きが必要になる程でもないが。
少し小高くなってきた場所。
ふと、窓の外の景色に目を引くものが映った。
距離がありぼんやりとしている。
でも、見えなくはない。
道の脇の森林。
そこの奥地で煙が上がっているのが見える。
他の場所であれば、山火事とかその辺りが疑われる場面だろうか?
長期間に渡ってかなりの広範囲が火の海に変わるなんてことも珍しく無い。
前世でも、鎮火には数日を要し。
規模によっては自然に任せるしかなかったり……
この世界じゃ逃走一択だろう。
魔法なんて便利な力のある世界ではあるが。
チートでも無い限り。
山火事を人の力でどうこうしようなんて足掻くこと自体、無駄。
焼石に水であり、魔力が勿体無い。
ただし、他の場所であればの話。
今回ばかりは逃げる必要も無さそうだ。
あの煙、おそらくは源泉から吹き出したものだろう。
火事やらその類ではないはず。
多分。
いや、マジで山火事の類は勘弁してほしい。
チートを持っていてもめんどくさいのだ。
木の根が燃えると表面上鎮火しても地面の下は火事のままとか平気であるし。
中途半端なとこで消火したせいか。
再燃から延焼のコンボ。
次様子見に来た時には結局全部燃えちゃってましたとか。
これ、結構なあるあるだと思う。
温泉地特有の、なんとも言えない独特な香りが鼻腔を刺激する。
一安心って所か?
とりあえず、焦げたような物じゃなくて良かった。
硫黄の匂いとはやはり違うのだけど。
でも、この世界に来て温泉と記憶の中で結びついてるせいなのだろうか。
似ても似つかぬ香りを嗅いで。
前世の温泉地の光景も一緒に幻視する。
……あぁ、温泉地に来たなと。
前世の頃と変わらない。
温泉に入る前から、既に緩和状態にあるかの様な気分になるのだ。
不思議なものである。
ま、それ含めて醍醐味的な所もあるし。
個人的には大歓迎な訳だが。
ちなみに、その原因は相変わらず不明のまま。
調べてもいないので当然である。
もうしばらく進み。
前の方に、他の街に比べれば控えめサイズな門が見えてきた。
到着。
ビバ、温泉街!
「飛び込みだったのに乗せてもらえて助かりました」
「いえいえ、こっちも1人分多めに稼がせてもらいやしたので」
「では」
「是非、次回もうちを使ってくだせえ」
この馬車の料金は先払いである。
荷物も手に持ってるものしかないので、荷下ろしを待つ必要も無い。
馬車を降り。
商人と軽く話し。
それで、彼らとはこのまま解散。
たった1日とはいえ、寝食を共にしたとは思えないほどあっさり。
まぁ、ただの移動手段なのでそんな物である。
パーティーメンバーとかそういう物でも無いのだ。
そもそも、俺の場合商人以外とほぼほぼ会話もしていないしな。
この商人は行商も兼ねているのだろう。
乗客を下ろした後も門番をしていた兵士と話たりなんだり。
結構、忙しそうにしている。
荷物は荷物で別に手続きやらなんやらある様子。
にしても、すんなり着いたな。
道中の戦闘ゼロである。
珍しい……
盗賊に限らず。
魔物の類すら1匹も寄って来なかった。
護衛だけじゃなくて、同乗者に冒険者っぽいのも居たし。
道中戦闘が発生しても丸投げできる範囲増えてラッキーとか思っていたのだが。
そんなタイミングは無かったと。
いや、何もないに越した事はないんだけどね。
……うん。
なんと言うか、ちょっと肩透かしを食らった気分だ。
毎回これなら、この世界の運送とかももっと発展するんだろうけど。
まぁ、贅沢言ってもしゃーないか。
そもそも普通に戦闘にならない事の方が多いしな。
人間、何事も無く終わった時より何かあった時の方が記憶に残る物らしい。
それに、だ。
運送業が発展して行った結果として。
どこも同じ様な状態になるのも。
それはそれで。
少し、寂しさを感じる。
様々な場所で多様な物を味わえるのも、それは結構な事なのだが。
でも、ご当地性の高さと言うか。
その地ならではってのもなんだかんだ俺の楽しみの一つ。
結局、この世界は娯楽って意味じゃ前世に大きく見劣りする。
追いつくとしてもずっと先の話だろう。
そういう意味でも、全て手に入らない。
この、一種の不便さはスパイスにもなっているのだ。
今回の旅路で体験した、街の外での一泊とか正にその典型例だろうし。
実際、久々に馬車で移動した甲斐はあった。
とか言いつつ、普段は思いっきり転移使って楽してる訳だけど。
いやさぁ。
便利な物を覚えると、ね?
何かと、依存気味になってしまうのも俺って言いますか……
蛇足②、完結




