旅路 10
……知らない天井だ。
異世界に転生して以来、結構宿に泊まることも多い。
この思考自体半分ネタと化しているのだけど。
見覚えも無いのは久々である。
ってか、これ本当に天井か?
天井にしてはちょっと頼りないとでも言うべきか。
たわんでる気が。
今にも落ちてきそうで強度が心配になる。
はて、昨日の俺はどこの安宿に泊まったのだろうか。
そんな疑問を頭に浮かべつつ視線を横へ。
??
目の間の光景を脳が情報として処理。
瞬間、意識が覚醒した。
視線の先には気持ちよさそうな寝顔が一つ。
別に驚くようなことじゃ無い。
それだけなら、なんて事ない俺のただの日常のひとコマ。
ただし、その寝顔の持ち主の頭髪は明かに短かった。
好んで短髪にする女性もそりゃいるだろう。
顔の造形が男っぽいとか。
髭が生えてるとか。
そこもまぁ、個人差の範囲と言えばそれまでである。
いや、現実逃避はよそう。
どうやら俺はこのむさい男と一夜を共にしたらしい……
否定したい事実ではあるが。
客観的に見て、そうとしか判断出来ない。
俺よ。
ノアは例外じゃなかったのか?
本格的にそっちに堕ちてどうする。
目を逸らしたい現実。
せめて物理的に視界から外そうと視線を動かし。
その先にも男が1人。
……は?
乱だとか姦だとかの文字。
それが、ふわふわと俺の脳内を行ったり来たり。
恐る恐る、尻へと手を伸ばす。
そこで違和感。
尻どうこうではなく、触れたベッドが異様に硬かった。
まるで床のよう。
前世と比べればこの世界のベッドは質が良いとは言えない。
それに、この天井の有様から言って。
ここの宿は安宿どころかドヤのレベルだろうし。
ベッドが硬いことにも違和感は無い。
違和感はないが、冷静に考えてここまで硬くなる物だろうか?
あっ、思い出した!
昨日は確かテントに泊まったんだっけか。
少し冷静になり、ようやっと思い至った。
思いつきで乗り合い馬車捕まえて、街の外で野営していた事を。
近くで寝てた男は乗客である。
良かった。
俺のセカンドバージンは無事らしい。
寝起きで、野郎の寝顔が視界に入ったせいで。
変な勘違いをしてしまった。
あぁ、本当に酷い目覚めである。
今更二度寝する気にもならない。
テント外に出て。
目一杯に空気を吸い込む。
ふぅ……
日の出までもう数分といった所か?
うっすらと空が明るい。
手を空に向け、軽く伸びをする。
ほぼほぼ布一枚しかクッションが無い状態で寝たせいだろう。
体中バキバキ。
でも、この景観で伸びをするのは気分がいい。
まぁ、偶には良いものだな。
自然の中に泊まって日の出と共に動き出すと言う体験も。
数年に一度ぐらいなら。
やっぱいい目覚めなのかもしれない。
あっちの道に堕ち掛けたのも。
これ、結局はただの勘違いだったわけで。
……うん。
軽く背の低い草を蹴っ飛ばす。
朝露で濡れていたのか、小さな水滴が中を舞った。
再び、視線を空へと戻す。
雲ひとつない快晴と言うわけではないが。
文句のない晴れ。
昨日今日と、天候が崩れなくて良かった。
雨のキャンプほど地獄な物はない。
実際に体験した事はない。
ただ、想像すれば分かる。
チートで天候ごと変えるのも厭わない所存。
いや、ね。
チートのおかげで体調を崩したりとか、そういった影響はないのだけど。
気分が悪いのだ。
精神衛生上よろしくない。
んな大規模な魔法使えば、各所から疑惑の目が飛んでくる気もするが。
そこは快楽優先である。
チート隠すために、我慢して。
それで自分の生活が不自由になっていては、本末転倒。
楽しく生きるために隠してるのだから。
基本、適当でいいのだ。
人生楽しんだ者勝ち、快楽の前に全ては無視される。




