旅路 6
街道から少し外れた場所。
何やら、地面に太めの木の杭を打ち込んでるらしい。
テント?
それにしては背が低い気もするが。
別に、真面目に考えてるってわけでもなく。
ただ暇だから。
何をしてるのかとぼんやり眺めていた。
商人が馬を馬車から外し、今打ち込んだ杭に繋いぐ。
あぁ、そういう事か。
彼らも一日中働いてお疲れだろう。
明日もあるし。
馬車に繋いだままじゃ、疲労が取れないのは想像に難くない。
俺も車中泊では酷い目に遭ったのだ。
その経験からして……
いや、この場合はそれ以下の環境かもしれないが。
あれは仮にも休日で。
しかも、職場からは離れられていたからな。
ちゃんと近いのってなると。
椅子に座ったままデスクで寝落ちしちゃたり、とか。
そういうのかな?
考えるまでも無く地獄である。
となれば、杭に繋がれてるこの状況も結局車中泊に近いのでは?
……どっちみちだな。
そう思うとなんか過剰に可哀想に見えてくる不思議よ。
さっきまで大した感慨も無く眺めてた癖に。
元社畜だからか、家畜とのシンクロ率が高いのかもしれない。
馬の前に皿が用意され。
何やら、大きめの石が置かれた。
ぺろぺろと美味しそうに舐めてる様だが……
あれは、岩塩かな?
高級品。
ただ、必要経費でもある。
そこ削っちゃうと馬が使い物にならなくなるしね。
馬を飼育する上で塩分は必須なのだ。
江戸の頃だったか。
馬の足を止めてお客さん呼び込むために店先に置いてたとかなんとか。
そんな話を聞いた気がする。
まぁ、淡い記憶だ。
時期やら理由やら間違ってる可能性も普通に高い。
にしても、さっき感情移入してしまったせいだろうか。
やけに美味そうに舐めやがる。
俺の前世よりはマシな環境らしい。
馬の過労死ラインがどこにあるのかは詳しく知らないけど。
なんか、俺より労働寿命が長そうな気がする。
馬に労働環境で負ける俺よ。
マズい。
共感はまだしも嫉妬は愚かすぎる。
馬相手に張り合って、おまけで鹿まで着いて来てしまいそう。
転生してスローライフ手に入れたし。
うん。
そもそも働いてる時点で全然羨ましくはないな。
……
いや、流石に馬鹿な事考えてる自覚はある。
そういう気分だったのだ。
いいでしょ。
別に口に出してる訳でもないんだし。
んなこと考えてる間にも、テキパキと準備が進められ。
気づけば火おこしも終わってたらしい。
馬達からは少し離れた場所。
火は苦手だからね。
近くに置いておくと無駄にストレスがかかってしまう。
それもあって。
わざわざ、杭なんて刺していたのだろう。
ただ、距離が離れる分やはり専用の見張りは必須。
火の側から離すって事は。
必然的に、この集団からも距離ができちゃうって事だからね。
魔物に襲われたりとか。
盗賊に盗まれてしまったりとか。
いや、まぁ……
商団と一緒にいたとて、襲う奴もそりゃいるのだろうが。
そんなんばかりでもないからね。
防げる損害はなるべく予防しないと。
利益の最大化。
これは商人の使命である。
こうやって見てると冒険者も色々忙しそう。
単に護衛依頼と言っても。
1日で着く馬車と数日かかるのじゃ結構勝手が違いそうだな。
その分報酬も高いのだろうけど。
何十年も冒険者やってて今更って話ではあるが。
薬草採取ばかりの、歴だけ長い名ばかり冒険者なもので。
ほんと、お疲れ様です。
そんな彼らを横目に。
のそのそと、焚き火のそばへと移動する。
火を見てるとちょっと落ち着くのだ。
焚き火のASMRが人気だったぐらいだしね。
人類共通な気がする。
熱気に当てられ、吸い込まれる様な感覚。
……別に馬に勝ったとか思って無いよ?
いや、マジで。
懐からまた酒を取り出す。
馬車の中でもずっと飲みっぱなしだからね。
まだ飲むのか。
そう言いたげな視線を感じる。
が、んな物を気にする様な人間なら。
そもそも、昼間っからギルドで飲んだくれたりもしない訳で。
干し肉を遠火で炙りつつ。
ちびちびと酒を飲む。
こうやってると、あれを思い出すな。
マシュマロ。
焚き火で焼いてる動画を何度か見た覚えがある。
やった事は無いんだよなぁ。
マシュマロって確か、砂糖とゼラチンだったっけ?
作り方知らないし。
そもそも材料自体この世界にあるのか疑問。
まぁ、ソロキャンプを行動に移しておいて。
こっちやってない時点で。
多少興味あったと言ってもその程度だったのだろうけど。
たまたま思い出しただけで心残りって程じゃ無い。




