旅路 3
適当に、温泉街へ行くであろう馬車を当たる。
バスなどに付いてる様な。
行き先表示器なんて便利な物、この世界にあるはずもなく。
直接聞かないと分からない不親切設計。
「あのー、すいません。この馬車ってどこ行きの……」
「ん? 温泉街行きだけんど」
事前に予約もしてないし。
この場に、温泉街行きの馬車が一台も無いなんて可能性もあったが。
流石は観光地。
港町よりウーヌから距離あるとは言っても。
需要もそれなりに高いのだろう。
探し回る必要なく、初回でヒット。
しかも、飛び込みで乗せて欲しいって話も。
すんなり受け入れてくれた。
ラッキー。
断られる前提で、それなりの人数への声がけを覚悟してただけに。
これは嬉しい誤算だ。
……いや?
商人にこの馬車の料金説明を受けつつ。
ちらっと車内が見えたのだが。
これ、もしかして。
あんまりお客さん乗ってなかったりする?
話を聞く限りじゃ、出発までそんな時間があるって訳でもなさそうだし。
遅れれば容赦なく置いていかれるのに。
事前に払ってた分など結構な損失が確定するのだ。
余裕を持って集まるのが普通。
予定が出来てドタキャンもあるにはあるけど。
そこまで金のある人間が多いほどこの街は裕福だっただろうか……
あぁ、なるほど。
もしかして、予約してる人間自体が少なかったとかか?
少し前まで雪残ってた訳だからな。
事前の予定にはない馬車。
そりゃ、急遽決まったとなれば元から予約してる人間もいないだろうさ。
この乗り場に馬車が少ないのも、そのせい説。
早朝の馬車が出てるにしたって人も馬車も少ない気はしたのだ。
天気の予測とか、前世に比べりゃ正確じゃないし。
雪が解ける正確な時期なんて直前にでもならないと判断できない。
実際に解けたって情報も。
街は分かっても街道の方はタイムラグがあるのだろう。
馬車を引く馬にしたって。
すぐに動かせる状態まで持ってけるのか不明。
その諸々の事情を鑑みた上で。
ちょうどの時期に事前の予定を立てるのは困難を極めるか。
勝手な、素人のおっさんの予想ではあるが。
まぁ、そんな諸々合わさり。
馬車の席が空いてたのではなかろうか。
俺としては万々歳である。
乗れたのも勿論。
馬車なんてすいてる方が良いに決まってるのだ。
満員馬車とか。
不快なのは当然として、社畜時代を思い出すので遠慮したい。
そこまでぎゅうぎゅうな馬車なんて。
見た事ないけどね。
改めて馬車を見るに、装備に特殊な物も見られない。
一般的な馬車だ。
雪の中進むって感じでもなさそうだし。
解けたから動かし始めたってパターンなのは容易に想像が付く。
そんなんで、採算取れるのかって感じだが。
普通の乗り合い馬車に比べて荷物の比率が多めだろうか。
行商人も兼ねてる。
ってか、そっちがメインなのだろう。
人を運ぶ方がついで説。
乗り心地は多少心配ではありつつも。
ま、純粋な乗り合い馬車だと今から予約取り始めてって感じだろうし。
ここにはいない気がする。
数日は掛かりそう。
最低限、利益が出るラインに届かないとね。
ボランティアじゃないのだ。
あ、これだと雪が解けるまで馬車はないみたいな言い草だが。
別に冬場も馬車がない訳じゃない。
普段の何倍も高額だし。
同上の理由で採算ラインまで予約入るまで動かないから、便は不定期。
追加で金を払うならその限りじゃないけど。
雪の影響が不明なので、長旅前提。
しかも、到着時期も未定だし。
当然の様にその道中は命懸けとなる。
今日の俺の様に。
気分だからとか言って、気軽な気持ちで乗り込んで良い物では無い。
「じゃ、よろしくお願いします」
「まいど」
一通り、説明を受けた。
商人に金を払い、馬車に乗り込む。
野営前提の馬車だからね。
その日のうちに着くものとは違う。
食事の話とか。
寝具の話とか、諸々。
ちなみに金の問題はない。
学園祭見に王都行ったのでほぼほぼ使い果たしてはいるが。
帰ってきてから。
真面目に薬草採取やってるからね。
馬車の料金も、向こう着いた後の宿代も。
バカたかいなんて事はないし。
日で割れば、娼館と大差ないぐらいだろうか。
指名入れて朝まで拘束してるのと比べればむしろ安いぐらい。
無理なく楽しめる範囲だ。
前回温泉街行った時はかなり使った気もするけど。
あれは、獣っ娘買ったせいで。
女将さんに怒られちゃったからね。
もう買うつもりは無い。
流石に、増やしたらキレられるの想像に難くないしね。
馬車の中には数人。
外から、ちらっと見えた通りだ。
ギチギチって感じでは無い。
軽く会釈する。
パッと見る限り、観光には見えないが。
商人か。
もしくは、冒険者かな?
俺には縁のない話だけど。
Cランクぐらいになると指名依頼とかも増えてくるらしく。
そうなれば、遠出する機会もあるからね。
んなことを考えてる内に、時間になったのだろう。
馬車がゆっくりと動き出した。




