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14. 花火



『火花先輩、ごめんなさい。……やっぱり、先輩を残すのは難しそうです』

『まあ、だよな。わかってたよ。無理させて悪かったな。小冬、ありがとう』

『……は、い……っ』


 前年の終わりに、そんな話を受けた。俺も紫衣さんも了承済みだ。喧嘩はしたが仲直りもした。お互い諦めてはいない。本当に消えるかどうかすらわからないのだ。最後の最後まで諦めないと、そう話し合った。だから怖くはない。


「――火花、あなたはカボス部で最期を迎えてよいのですカ?」

「いいんだよ。紫衣さんと俺と、小冬とモドと。カボス部の皆で過ごそうぜ。思い出作りは大事、だろ?」


 モドを見て、小冬を見て。涙ぐむ後輩に微笑み、四人でなんでもない話をする。

 「朝から寒いでス。火花、暖をくださイ」「なななっ! 火花君! モドちゃんと距離が近すぎますよ!!?」「や、やっぱりそうです、よね? 私もその、思ってたんですけど……普通、なのかな、なんて思っちゃって! やっぱり近いですよね!」等々。どこ吹く風なモドを抱きかかえる俺にだけひどい向かい風が吹いていた。


 しばらくして初日の出が世界の果てより昇り「たーまやー!」なんて叫ぶ紫衣さんが可愛くて楽しくて、俺もモドも小冬も、全員で「たまやー!」なんて叫んだりして。


 部室に戻ってからは意外にやったことのなかったボードゲームをしてみたり、俺の「スパークスアワー」鑑賞&批評会が開催されたりした。印象的だったのは、モドが「私のイメージが歌詞にありませン」としょげていることだった。次はモドのためだけの歌詞作ってみるよと撫でたら、機嫌は戻ってくれた。今度は紫衣さんのご機嫌度が下がったが。


 「そういえば花火は見ていませんね」という話が出たので、急いで買い物に行って、まだ日が高いうちからプレハブ校舎前で簡単花火大会が開催された。


 パチパチキラキラ弾ける火花は泣きたくなるほど綺麗で、俺の作った曲が流れて嬉しくて恥ずかしくて切なくて幸せで、気づいたら俺も紫衣さんも小冬も泣きながら笑っていた。全員がモドからハンカチを渡され、ありがたいやら恥ずかしいやらでまた楽しくて……。

 いつまでもこの時間が続けばいいのにと、永遠に咲く花火になればいいのにと、歌詞のフレーズを口ずさんでしまった。自然と手を繋いでくれる紫衣さんが愛おしかった。


 それから。それから――――。



「……線香花火かぁ」

「うふふ、まだお昼ですけどね」

「綺麗です……!」

「見えにくいですネ」

「はは、俺たちらしくていいんじゃねえの」

「それもそうですネ」


 俺の人生に最高の思い出を与えてくれたプレハブ校舎を振り返る。


「……まあ、プレハブだな」

「花火、火花が落ちましたヨ」

「いや俺は落ちてねえから」

「失礼、間違えましタ」

「絶対わざとだろ」

「うふふ、火花君。私のを一緒に持ちま……」

「えと、紫衣さんのも落ちました、ね……」

「……新しいの育てましょ、紫衣さん」

「うう、はい……二人で一本、大事な火花君です」

「俺を花火の火花に見立てるのやめてくださいね。いや火花ではあるんすけど……超ややこしいな!!」

「うふ、ふふっ」

「えへへっ」


 最後は線香花火。ほんの一時だけきらめいて、人の心に美しい思い出を残す火の花。

 作り上げた曲、スパークスアワーに込めた「花火」にはちゃんと意味がある。俺の名前は火花だけど、俺自身が花火ってわけじゃなかった。


「? なんですか? ふふん、私に見惚れてます?」

「ええ。超好きです。紫衣さん愛してる」

「あいしっ!?!?」


 顔を真っ赤にして線香花火を落とす紫衣さん。俺の恋人で、俺の大好きな人。


「な、なんですか先輩。私に見惚れても何も……ちょっと好感度上がるだけ、ですよ?」

「ありがとな小冬。超大好きだぜ」

「ぴゃぃっ!?!?」


 肩を跳ねさせ頬を染める小冬。俺の後輩で、最高の仲間。


「火花。私を見つめても線香花火はあげませんヨ」

「はは。ありがとな、モド。超大好きだ」

「……馬鹿な人でス。私も大好きですヨ、火花」


 淡く微笑んで、撫でる俺の手を受け入れてくれるモド。部活仲間のアンドロイドで、大事な相談役だ。


 三人との時間。カボス部での時間。皆と過ごした、花火みたいに、火花みたいに短く瞬いた時間を想って俺は歌詞を書いた。気恥ずかしくて言えやしないが。


 あぁでも本当に、良い思い出ができた。

 以前、"後悔しないよう"今を楽しもうと思ったことがある。それは無理だった。後悔は多い。やり残しはある。不足だらけで、本当に未練しかない。けれど、俺が今抱えている"後悔"は前向きな後悔だった。

 後悔だらけと思えないほどに、心は晴れ渡っている。門出にふさわしい気持ちだ。

 最高の気分で、俺は俺の人生最大最後の挑戦と向き合える。


「――三人とも、ありがとう。俺、カボス部でよかった!」


 三人より一歩離れ、徐々に薄らぎきらめく世界で笑う。


「ふふ、ええ。私も火花君が火花君でよかったです。……頑張ってくださいね! 応援しています!!」

「任せてください!」

「先輩、どうなるかもう何もわかりません。先輩の花火みたいな軌跡……ううん。奇跡を、見ていますから!」

「おう! 見守ってくれ!」

「火花。私も最善を尽くしますのでデ、あちらで会った時はまた……私を運んでくださイ」

「はは! いくらでも運んでやるから! 約束だぜ!」


 世界が輝く。

 花火のように、火花のように。揺らめいて、きらめいて、全部光に包まれなくなっていく。


「――火花君!!」

「――――」


 最後の最後に、紫衣さんの声が聞こえた。返事ができたかどうかわからない。でも、彼女の、大好きな人の言葉はどこまでも俺の胸に染み渡っていく。



「永遠にずっと、愛してますよーーーーー!!!!!」



 俺の好きな人は、最高に可愛くて素敵な大人の少女だった。

次回、エピローグ

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