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3話 好きと気づいた瞬間

 図書委員の当番初日は色んなことがあり流石に驚いた。まさか平田にあんな可愛い妹がいたなんて……

 ただ決して恋愛感情があるわけではない。町で通りすがりの女の子を心の中で(可愛いな)と思った心情と似ているだけだ。


 昼休みが終わり教室に帰って五時間目を受けた後、俺は平田を問い詰めた。


「おい平田、お前また妹がいることを隠してやがったな?」

「ついにバレたか。あんな事件があったんだから、わざわざ言うわけないだろ」

「だから、あんなことをしたんだから逆にもう絶対しねぇよ」

「それもそうかw」


 仮に俺が平田だとしても、事件があった以上妹がいることを絶対に言わないだろう。それが分かっていた上で俺は平田を問い詰めた。一応喧嘩にならない形で妹である、ありすと知り合ったことを伝えておいた。

 

 それから二日後、俺は二回目の図書委員の仕事をするために図書室へ向かう。仕事と言っても50分ある昼休みのうち、図書室に本を借りに来る生徒は一人、多くて二人くらいなので基本的には暇だ。なので必然的に当番のもう一人の子と密接された空間で二人でおしゃべりすることになるのだ。

 そんなことを考えている間に俺は図書室に着き、ドアを開いた。

 

 そこには二日前と同じく、黒髪で整えられた形跡のあるショートヘアの女の子が貸し出しエリアの椅子にちょこんと座っていた。

 そう、ありすはまた俺よりも早く図書室に来ていたのだ。


「あ、直人さん。こんにちは!」

 とびきりの笑顔であいさつを交わしてきたありすに俺は一瞬見とれてしまったが、バレないよう瞬時にあいさつを返した。


「やあ……ありす」

「直人さん、まだ名前呼ぶのに照れてるのですかぁ?」

 からかうつもりだろうか、ありすは少し顔を傾けてニヤニヤしながらそう俺に告げた。


「うるさいなぁ……」

 俺は照れ隠しの言葉を交えつつ、ありすの隣の椅子に腰を掛ける。その距離はお互いのシャンプーの匂いが漂うくらい近かった。俺は、貸出エリアの椅子を二つしか用意してない担当の先生に怒りたい気持ちでいっぱいだった。


「今日も暇ですねー」

「一日誰も来ない日だってあるらしいからな」

 ありすはそう言うと、小さなリボンがついたバックから自分の弁当を取り出した。

「私お弁当食べますけど、直人さんはどうしますか? 学食で食べてきます?」

 二日前の初当番、弁当を持って来ず結局何も食べなかった俺への配慮だろうか。ありすは弁当の包みをほどきながらそう言ってきた。


「大丈夫だ。仕事をありす一人に押し付けるのも悪いし、前回の失敗から今日は購買でパンを買ってきた」

「それはよかったです! ですが、今年一年当番の日は毎回パンというのは飽きるのでは? それに体にもあまりよくないですし……」

「確かにな、当番じゃない日でも安いからって理由で菓子パンで済ませることもある」

「それはいけませんね。それでは私が直人さんにお弁当を作ってきます!」


 ありすがそう発言した瞬間、俺の肩はビクッと動いた。

 知り合って間もない相手の体を気にするなんて優しい子だなと思っていたところ、急に不意打ちが来たのだ。これはしょうがない。


「そ、それはありすが大変じゃないか……?」

「いえ、作るって言っても週二日ですし、私は学校のある日は必ず自分で作ってるので二人分作るくらい平気です!」

 そう言うありすに俺は自分の耳が段々と赤くなっていることを確信した。


「じゃあ、お言葉に甘えていいか?」

「はい!勿論です!」

 元気よく返事をしたありすは次にこう囁いた。


「むしろ私が直人さんにお弁当を食べて欲しかったんですよ」

 すぐ隣にいた俺でもギリギリ聞こえるかくらいの声量で囁いたありすは、流石に照れたのか、少し頬を赤らめながら下を向きお弁当に手を付け始めた。

 

 俺は今まで恋愛未経験で唯一情報としてあるのは平田から毎日のように聞かされていた彼女との自慢話だ。ただその話からするに、女子が男子にお弁当を作る行為はもう付き合っているのと同じなのでは、と感づいたが、ありすはそういうことを望んでいないかもしれないので、なるべく行動に出さないよう気を付けた。


 その日、結局本を借りに来る生徒は一人も現れず、淡い空気の中俺とありすはぎこちない会話をして過ごした。


 そして土日を挟み今日が三回目の当番の日だ。前日からありすの弁当のことを考えて夜はあまり眠れなかったが、眠いよりも朝を迎えた幸福感の方が大きかったため何も問題なかった。

 昔は学校なんてだるいと思っていたのだが、最近はありすと図書室で話せる為、非常に学校が心地よいものとなっている。まあ当番の日だけだが。


 俺は四時間目の授業が終わった途端、誰よりも早く教室を出て図書室へ向かった。いざドアを開けるとそこには人の気配がしなかった。流石に早く来すぎてしまったようだ。一つ年上でありながら後輩の女の子が作ってくれる弁当をこんなにも楽しみにしている自分が恥ずかしくなった。

 数分後、図書室のドアはゆっくりと開いた。


「直人さん。今日はお早いですね!」

「ちょっと授業が早めに終わってな……」

 お弁当を楽しみにしていたことは当たり前のように伏せた。

 軽いあいさつを挟むと、ありすはいつものように俺の隣の椅子に座った。その日はなんとなくありすが持っているバックが一回り大きいように思えた。


「直人さん! 先週の約束覚えていますか?」

「あぁ……お弁当を作ってくれるんだっけか……」

「はい! 朝からちゃんと作ってきましたよ! 聞き忘れてましたが、直人さんアレルギーはありますか?」

「いや、大丈夫だ。ない」


 ありすは俺の返事を聞くと、安心したそうでニコッと笑った。

 そして自分のよりも一回り大きい弁当を俺に渡してきた。


「直人さんの好みに合うか分かりませんが、どうぞ!」

 わざわざ俺のために作ってきてくれたというのに、さらにありすは味の問題まで気にかけてくれた。

 そして渡された弁当の包みをほどき、蓋を開けるとそこには弁当の定番であるだし巻き卵、ウインナーから、俺の体を気遣ってくれたのか野菜が多めに入っていた。


「凄いなこれ!」

「ありがとうございます!」


 ありすがそう返事をすると、静かな図書室でたわいもない会話をしながら二人で弁当を食べた。

 いつしかありすとのこの時間を前日から楽しみで眠れなくなるほど待ちわびていた。これでも果たして恋愛感情じゃないと言えるのか。

 

 その日家に帰ってからも、ありすの笑顔が頭から離れなくなっていた。



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