8/15
Insert-3 / 傷
廊下の角をまがろうとして、セーラー服を着た少女は気になる人声に足をとめた。
「あいつさ、前から調子に乗ってんだよね。」若い女の声が吐き捨てるように言った。
「そうそう。どうせさ、枕とかしてんでしょ。そういう世界だから。」別の若い女の声が答えた。
「あの胸見た?でかすぎて気持ち悪いよね。牛みたいだもん。」別の若い女が言った。高笑いする女たちの声が聞こえた。
「ねえ、それよりさ、聞いた?あいつさ、金持ってないらしいよ。」
「聞いた聞いた。給食費払えないとかさ、恥ずかしくないのかね。」
「え、嘘。マジで。なんで?稼いでるんでしょ?」
「なんか叔父さんに搾り取られてるらしいよ。なんか借金があるとかでさ。」
「たしか、親が居ないんだよね。」
少女は下を向いて、しばらくその場に固まるように立っていた。脇に抱えている鞄を持ち直した。一度は歩をするめるような素振りを見せた。しかし、考え直したのだろう。振り返り、来た方角へと足早にその場を立ち去った。