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竜人の国

 途中からは乗り合い馬車も利用し、国境を通過してからはしばらく平野を歩いていると、上空を黒い大きな影が過ぎり、かと思えば目の前に一体の巨大な竜が降り立ちました。


 体表が赤黒いその竜は、黒い瞳を私達に向けて、


「乗れ」


 一言だけ、そう告げてきました。


「お久しぶりです、ラドルファスさん。お世話になります」


 声をかけると逆に口を閉ざして無言になってしまったこちらの方は、アルタウス王家からの迎えであり、王家直轄の近衛騎士団で、副団長を任されているラドルファスさんです。


 アルタウス王国には、彼のように竜に姿を変えられる竜人族がすんでいますが、皆が一様にその姿を変えられるわけではありません。


 より強い個体が、竜の姿へ、そして大きな体躯へと姿を変えられます。


 ラドルファスさんの竜の成体になった姿も、見上げる程の大きなもので、馬車くらいなら余裕で丸呑みできそうです。


 以前にも何度かお会いした事がある方で、その度に厳ついお顔で素っ気ない態度を見せますが、その実、騎士団の誰よりも優しい方です。


 だから、ラドルファスさんの言葉がどれだけたりなくても、誰も何も言いません。


 手と言うか、前脚と言うのかで、私達を丁寧に抱くと、ぐんぐんと空高く飛翔し、追放されたばかりのミドルイース王国を後にしていました。


 ミドルイース王国は、大帝国と古から続く大国に挟まれた、小さな小さな国です。


 小さな国が大国に挟まれても、呑み込まれずに存在し続けたのは、何代にも渡って多くの聖女が生まれてきたことによるものと、古の大国、アルタウス王国との結びつきが強いからでした。


 眼下に広がる景色は高速で流れていき、強風を受けながらやがて見えてきたのは、アルタウス王国。


 母の従姉妹が嫁いだ王家は、代々竜人族が治めるアルタウス王家。


 現国王様の番である王妃様が母の従姉妹です。


 その子息である王太子様は、私の又従兄弟となります。


 王太子アデラール兄様は、初めてお会いした時からナターリヤさんをご自分の番にとお考えでした。


 竜人族の番なので、本能で選ばれるため、誰がどんなに反対しても、変えようのない相手だと言えます。


 だから、私の付き添いにナターリヤさんが送り出されたのでしょう。


 ナターリヤさんは今まで私と一緒に必要な教育を受けてきました。


 このままアデラール兄様と婚約となり、ご成婚に至ると思います。


 アルタウス王家のためにも、それは喜ばしい事です。


「セレーナ様。王都が見えてきましたね」


 ジェシカさんの声に視線を下に向けました。


 高所から眺める景色は、少しだけ恐怖心を煽りますが、同時に普段見ることのできない素晴らしいものも見せてくれていました。


 空から王都を見下ろすと、その中心部は星形がいくつも重なり合っているように見えて、植物の緑と水路の青に囲まれているその真ん中に巨大な王城があります。


 星形要塞都市と呼ばれている王都デゼルドルフは、それ全体が精悍な佇まいで威厳を放ってるのと同時に、強固な守りを持っていました。


 私の母国、ミドルイース王国の何倍も人口を有し、竜人族と人族、どちらの種族もここでは差別なく住んでいます。


 町の上空を通過し、王城の正面側に、ラドルファスさんは降り立ちました。







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