突然の婚約破棄
「セレーナ・セザートン!!お前との婚約を破棄する!!そして、即日国外追放処分とする!!」
よく通る声に、誰もが驚いた様子で振り返り、目を見開き、強張った顔で私達を交互に見ています。
背後に見えるキラキラと光を反射するシャンデリアの華やかさとは裏腹に、今まで見せた事がないような冷たい目で見下ろす王太子アラステア様は、信じられない事を言い放ちました。
金色の綺麗な長い髪を一つに纏めて、夜会用の正装で凛と立つ姿は、私が敬愛するいつものアラステア様の姿なのに、私を見つめるその青い瞳は、突き放すようなものでした。
その視線が冗談ではない事を物語っていて、そもそも、アラステア様はそんなたちの悪い冗談を言う方ではなくて、だからこそ、言い放たれた言葉を受け入れられなくて、冷水を浴びせられたように体は凍りつき、そして足には震えが起きていました。
それは、多くの地位ある貴族が集う、王家主催の夜会での事でした。
アラステア様から、エスコートはしないと、1人で会場に来るようにと言われたのは、家を出る直前の事でした。
それが、前触れ、前兆だったのでしょうか。
“王家は何故こんな愚行を犯しているんだ?聖女様を婚約破棄して、追放だと?”
周囲がざわめき、事の成り行きを見つめています。
でも、誰もこの騒動を止めようとはしません。
止められる人が、王太子のアラステア様よりも身分の高い人がこの場にはいないのです。
公爵であるお父様の姿も、国王陛下の姿も、この場にはありません。
重要な役職をお持ちの方もいませんでした。
アラステア様に付き添っていた最も信頼を寄せている側近の方ですら、アラステア様を見つめて少し離れた所で静観をしていました。
王家がこれを容認したということでしょうか。
3歳年上の、19歳になったアラステア様は、私の幼い頃に決められた婚約者です。
国が、親同士が決めた婚約者ではありましたが、私とアラステア様は共に過ごした時の中で、信頼関係と愛を育んできたと思っていました。
それは、私のただの思い込みだったのでしょうか。
視線を横に向けると、彼の隣には、私の親友がごく自然に寄り添うように、そして彼を守るようにそこにいました。
彼女は、彼の従兄妹である王族のキャサリン。
「なぜ、なぜですか」
緊張の為か、ひりつくように痛む喉から何とか言葉が絞り出し、思いもしなかった突然の事に、思考も追いつかず、混乱したまま震える声で尋ねました。
「これ以上自分の気持ちを偽ることはできない。私は、愛するキャサリンと婚約する。はっきり言おう。お前が邪魔だ」
そう話すアラステア様の隣に仲睦まじい様子で立つ、今でも親友と思っているキャサリンも、私を突き放すような冷たい目で見ています。
周囲の何かを囁き合うような小さな声がさざなみのように広がり、重なり合って、大きな喧騒となって私達を包んでいきます。
つい数日前に、成婚できる来年の私の成人が待ち遠しいと話したばかりだと言うのに、あれは幻だったのか、それとも口だけの事だったのかは分かりません。
キャサリンも、私達の結婚式が楽しみだと言ってくれていたのに。
「アラステア様……キャサリン……」
「馴れ馴れしく私の名を口にするな」
「不快ですわ」
私が口を開きかけると、2人から遮るように冷笑を浴びせられていました。
今だに、何が起こっているのか、私の頭では理解できていませんでした。
理解することすら拒否していたのかもしれません。
この異常な事態に誰もがかかわりたくないと後退り、一人、その中で呆然と立ち尽くす私を置いて、アラステア様はキャサリンの腰を抱き寄せて会場を後にして行きました。




