異世界からの来訪者
魔物などに襲われる事もなく隣町に辿り着くと、冒険者ギルドの場所はすぐに分かりました。
そして、ハヤトさんの居場所も。
ここの町では大きな混乱は見られませんでしたが、でも、ギルドを中心にどこか不安げな空気は漂っていました。
至る所で、影響は出始めています。
ハヤトさんがいるのは職人達が多く集まる区画だそうで、小さな工房を借りて作業をしていると教えてもらったので、そこへ急ぎました。
目的の場所どある工房は物音がせずにシーンとしていました。
はやる気持ちを抑え、乱暴にならないように扉をノックして、ドキドキしながら待ちます。
程なくして、木製の扉を開けて出てきたのは、私達よりも年上の、私と同じ黒髪に黒い瞳の長身の男性でした。
私以外で黒い髪と瞳を持つ方に初めて会いました。
不思議な雰囲気をもつ方で、この世界のヒト族とも、どこがとは上手く説明できませんが、異なる様子でした。
その方は、不機嫌そうに私達を交互に見ると、
「パーティ勧誘ならお断りだ!」
開口一番、そう言われてしまいました。
これまでに幾度となく、勧誘されてきたのでしょうか。
鼻先で扉を閉められてしまいそうだったので、慌てました。
「いえ、違うんです。あの、話を聞いてもらえませんか?お願いします!世界の危機なんです!力を貸してください!」
取っ手を掴み、体全体を使って閉められるのを阻止します。
「…………は?」
訝しげな表情ではありましたが、閉めるのをやめて、再び視線を向けてくれました。
「妙に、変わった連中だな」
そう呟くと、探るようにジッと私達を見つめてきます。
全てを見透かすような視線を向けられて、そして、ますます眉間にシワを寄せて、納得がいかないといった様子になりました。
「中に入れ」
まずは話を聞いてくれるようで安堵します。
勧められたのは作業場の椅子で、大きな作業台を挟んでそこに座るように促されました。
「俺の名前は、ハヤト。君は、セレーナと言う名前だな」
いきなり名前を当てられて、驚きました。
それが伝わったのか、説明をしてくれました。
「俺は、鑑定スキルが使える。その情報には、君が聖女であると、明確に記されている。それから、そっちの白猫。お前は何なんだ?」
「何とは?」
私とハヤトさんから視線を向けられて、レイは返答に困っていました。
「鵺叉族14/人間19 魂の転生者。これを説明してほしい。じゃなければ、不気味すぎて信用できない」
「たましいの、てんせいしゃ?」
初めて聞く言葉は、何故だか、胸を酷く騒がせました。
問われたレイは無表情となり、今度は、私とハヤトさんを交互に見つめていました。
「貴方と少し、話がしたい。セレーナ、待っててくれるか?」
「はい、それは大丈夫ですが」
レイはハヤトさんと共に工房の奥へと消えていきました。
二人の姿が見えなくなって、シンとした工房で一人待ちます。
そうして、どれくらいの時間が経過したのか、複雑な表情をしたハヤトさんと、いつもの様子のレイが戻ってきました。
「話は分かった」
そう言うと、再び席に着いたハヤトさんがこれまでの事を話してくれました。
彼は本当に、全てが異なる異世界から来訪されたようで、
「あの女は、俺の兄と妹を殺したんだ。帰宅すると、兄の体に跨って、執拗に体を刺し続けていた。あの女を捕まえて、罪を償わせたい」
ここでは異世界の聖女と呼ばれている人の後を追って、この世界に辿り着いた経緯を話してくれました。
状況から察するに、ハヤトさんは異世界聖女の召喚に巻き込まれたようなのですが……
「酷い……」
家族を目の前で殺されたハヤトさんを思うと、やりきれません。
私だって……
大切に思っていた方々の、晒された亡骸を見て底の無いような悲しみに暮れたと言うのに。
「お前達にとりあえずついて行くよ。それが、あの女の所に繋がっている気がする。出発する準備をするから、少しだけ時間をくれ」
何か必要な物を調達に行くのか、慌ただしくハヤトさんは工房から出ていきます。
待っている間に聞いておこうと、
「ハヤトさんとは、どんな話を?」
レイに尋ねてみましたが、曖昧な笑みを向けられただけで、話してはくれませんでした。




