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私にとっては大切な思い出

 静かで穏やかな闇に包まれて、ひと時の休息を迎えていました。


 その合間に、少しだけ前の出来事を夢に見ていたようです。


 二年程前の事を、夢で鮮明に思い出していました。


 その時の私の手の中には、生まれた時に握りしめていた石がありました。


 何の材質でできた石なのかいまだに解明されてはいませんが、聖教会は命の石と呼んでいました


 聖女である私を守り、祈りを込めた願いが聞き届けられるそうです。


 時々それを握りしめて生まれてくる聖女がいて、特別な試練に挑む為の女神様からの贈り物だと、教えてもらいました。


 特別な試練が何かは分かりませんでしたが、願いが聞き届けられるのなら、その石にお願いしたい事がありました。


 大好きなアラステア様を守ってくださいと。


 私の代わりに、守ってくださいと。


 そして、どんな時でもこの想いはアラステア様と共に。


 幼い頃に決められた婚約者は、私にとって大切な人で、大好きな方でした。


 17の成人を迎えるアラステア様の為に、願いを込めたその石を贈ることは、もう、ずっと前から決めていた事でした。


 私の命と同じ価値があると、教えられた石だったからです。


 その石に込めた願いは恥ずかしくて口に出して伝えることができませんでしたが、自分の胸の中にだけ留めて、アラステア様にそれを贈りました。


 大好きな人に、願いをこめた守り石を贈ることができました。


 アラステア様は大切にすると、嬉しそうに微笑んでくれて、それは偽りを含んだものではなく、極自然なものでした。


 あの時のアラステア様が誰を想っていたのかはもう知ることができませんが、少なくとも、あの時点ではまだ私に家族のような思いは持っていてくれたはずです。


 だから、その日から、アラステア様の胸元にはいつもその石が揺れていました。


 あの時にも……


 小さな頃から一緒に過ごした、私の大好きな人。


 そんな彼と過ごした、二度とは戻らない優しい時間を夢に見ていました。






「アラステアさま…………」


 目を開けると同時に、端から一筋の雫が零れ落ちていました。


 視線をずらすと、レイが心配そうに私を見ています。


 涙を拭いて、慌てて起き上がりました。


「レイ……」


「何か、怖い夢を見たのか?」


「あ、いえ、どちらかと言えば、懐かしい夢でした」


 明るいうちに隣町に辿り着けずに、途中の森で野宿をしていました。


 寝ながら泣くなど、レイにはまた心配をかけてしまいました。


「大切な思い出を夢に見て、懐かしくなっただけです。私の……兄のように大切な人の事を夢に見てしまって。だから、心配しなくても大丈夫です。ごめんなさい。先に休ませてもらったのに。ちゃんとするから、レイに心配かけないように、しっかりします」


 レイは一度私に手を伸ばしかけて、途中でやめて、代わりに寂しそうな視線を送ってきました。


「しっかりしようと、無理に虚勢をはり続けることも不自然だよ。ヒトなんだから、感傷的になる事もあるし、特にセレーナは、大切な人との別れがあったばかりだ。悲しい気持ちを無理に押し込めては、必ずどこかで感情が破綻する。今は逆に俺しかいないのだから、泣きたい時は泣いてしまえばいい」


 私はむしろ、あの知らせを聞いた時にアデラール兄様達の前でたくさん泣いてしまったのに、まだ流す涙があったのかと自分を叱咤したい気持ちでした。


 でも、レイの言葉は嬉しかった。


 俯いて、いつまでも同じ場所をぐるぐると回ってちっとも進歩はありませんが、泣いてもいいと言ってもらえると、頑張ろうと思えます。


「ありがとうございます!少し泣いたら元気になりました!だから、今度はレイが休んでください!火の番は任せてください!」


「え、あの、セレーナ!?」


 何か言いかけるレイを無理に寝袋に入れて、背を向けて焚き火の前に座ります。


 妖精さん達が近くにいるので、レイには安心して休んでもらえると思います。


 怖いものが近付けば、一瞬で妖精さんは怯えて隠れてしまいますから。


「じゃ、じゃあ、よろしくね。何か異変があったらすぐに起きるから」


 そんな声を背に受けていました。










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