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巨人の両腕

 アルタウスの事を思うあまり、レイに心配をかけてしまったようです。


「レイ、私は頼りないかもしれませんが、心配しないでください。私の方が年上だから、絶対に貴方の事は最後まで面倒をみます」


 宣誓するように伝えましたが、


「君は、完全に俺の事を子供扱いしているんだな」


 レイは困り顔で眉を寄せて、額を押さえて俯いてしまいました。


 男の子のプライドを傷つけてしまったのでしょうか。


 私は何かを間違えてしまったようです。


「あの、ごめんなさい?」


「いや、いいんだ。そうだよな。俺の方が年下なんだ。でも、俺の事は気にしなくていいから。君に庇護してもらわなければならないほど、幼い子供でもない。まずはセレーナの不安が解消するように、動けばいいから。俺もそれの力になれる」


「そうですよね。おそらく、レイの方が私なんかよりも、よっぽどしっかりしています。失礼な事を言ってしまいました」


 自分の思い違いに、落ち込んでしまいます。


 また人の気持ちを理解せずに、突き進んでしまうところでした。


「いや、セレーナの気持ちは嬉しいよ。大変な時なのに、君は人の心配も忘れないで、本当に……」


「レイ?」


 最後の方で何かを言いかけたようでしたが、よくは聞き取れませんでした。


「おーい、お前達待たせたな」


 ロレリクさんが戻ってきました。


「タイラーさんは?」


 今はお一人のようです。


「会議に駆り出されていったよ。俺も、街の連中と話してこなければな。だから嬢ちゃんに、目当ての冒険者の居場所を教えとく。本当は最後まで一緒について行ってやりたいが、そうもいかなくなった。そいつの名前はハヤト。隣町のギルドを拠点にしているから、会いに行ってみな」


「ハヤトさん……分かりました」


「嬢ちゃんは、アルタウス王家の依頼を受けてるって言ったな」


「はい……」


「こんな事になっちまって心配だろうけど、あの国は魔術や呪術に長けてるから、悪い事に陥ってるわけじゃなさそうだ」


「そうなんですか?」


「ああ。だから、元気出せ。俺達はしばらくここにいるから、どうしても困る事になったら、ここを頼れ。知り合った縁だ。その時は一緒にどうするか考えてやるから」


「はい。ありがとうございます。とても、心強いです」


「レイも一緒に行くんだろ?嬢ちゃんの事、頼むな」


「はい。お世話になりました」


「ロデリクさん。本当に、ありがとうございました。タイラーさんにも、よろしくお伝えください」


「おう。気をつけてな」


 挨拶を済ますと、早速目的地へ出発しました。


 ベテランのお二人と別れてレイとの二人旅になりますが、不思議と不安はありませんでした。


 ロデリクさんの御配慮で、ギルドから馬を貸してもらえて、それに乗って目的地まで移動できました。


 この馬は隣町のギルドへそのまま返せばいいそうなので、とても助かります。


 二頭の馬が街道と呼べる道を走り、魔物の気配もないようで、時折私達の周りを妖精が飛び回っていました。


 この子達の存在が、危険があるかないかの標にもなるので、今は大丈夫そうです。


 でもまたウォーウルフの目の前に置き去りなんかは、やめてくださいね。


 ちょっと怖かった事を思い出しながらも、順調な旅路の途中でそれを見つけました。


 すぐ脇にそびえ立つ山の傾斜部分から、迫り出すような緑の植物に覆われた二つの大きな突出を臨めました。


 ツタや苔や木々の葉や花に覆われていて、何だか不思議な光景でした。


「あれは……」


 少しだけスピードを落とし、思わず声に出していると、


「ああ、あれはきっと、巨人の腕だ」


 横に並んだレイが答えてくれました。


「巨人の腕、ですか?」


 言われてみれば、両腕を広げて、前に差し出しているようにも見えます。


「遥か昔、竜人族やエルフ族が生まれるよりも前に、この世界に存在した緑の巨人という種族がいたそうだよ。女神が精霊王を生み出し、精霊王が世界を作り、緑の巨人が大地を守ってくれていたと。あれは、その巨人の亡骸だと言われているんだ。亡骸が、そのまま山になったのだと。ただの御伽噺かもしれないし、真実に基づいた伝承かもしれないけど、それを確かめる手段はないかな」


 御伽噺。


 伝承。


 どちらかは分かりませんが、でも、確かに、包み込まれるような、静穏を感じる場所ではありました。


 守られているような、


 母親が、生まれてきた我が子を大切に抱くような。


 そんな話が生まれるのも分かるような場所です。


「レイは物知りですね。私はまだまだ世界を知らないようです。教えてくれて、ありがとうございます」


「また何か分からない事があったら、何でも聞いて。俺が知ってる事をセレーナにも伝えるから」


 そんな心優しい言葉を受けながら謝意を伝えて、馬のスピードを元に戻し、再び最速で隣町を目指しました。




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