アルタウスの異変
レイやロデリクさん達から魔物討伐の教えを受けながら、最寄りの町へ向かいました。
でも殺傷行為はどうしても苦手で、スライムを倒すのがやっとのようです。
剣を持つ手は震えて、腰が引けてしまいます。
「セレーナ落ち込まないで。いざと言う時は、俺がどうにかするから」
落ち込む私をレイは慰めてくれますが、
「レイ任せにもできませんし、会ったばかりのレイを……」
危険に晒すわけにもいきません。
ジェシカさんやラドルファスさんがいないこの状況で、自分の身くらいは自分で守りたかったのですが、簡単にはいかないようです。
この道中でレイがどれだけいい子なのかよく分かったので、私の情けない姿を見て、随分と同情されているようでした。
「まぁ、嬢ちゃん、そう落ち込むな。人を雇うのも一つの手だ。その坊主は確かに信用できそうだし腕も立つ」
「はい……」
私は冒険者ではありませんが、一人では困難なことに挑む為にパーティを組むものなので、人の力を借りる事は悪い事ではないはずです。
でも、
「とりあえずは精進します……」
向上心。だいじです。
そんな過程を経て到着したのが、商業都市ヴァネッサでした。
商業都市ヴァネッサは、都市国家同盟に属するうちの一つで、アルタウス王国とはまた、異なる大陸になります。
君主制とはまた違った活気があり、多くの熱意あふれる商人達が主体となる都市国家です。
レイの予想通り、ここはバードル大陸でした。
この周辺は、ヴァネッサのような小規模な都市国家がいくつもあります。
随分と遠くへ来てしまったようですが、陸路移動では、戻るのが大変そうです。
夕暮れ時にヴァネッサの街に入ると、多種多様の多くの人で賑わう中、どこも魔王と帝国の連合軍の話でもちきりでした。
もしアルタウス王国が負けるような事があれば、一気に他の国も踏みにじられてしまうかもしれません。
そもそも、アルタウス王国が崩壊する事自体、容認できることではありません。
早く帰って、私も力になれるように備えなければなりませんが、まずは異世界の方にお会いしなければ。
そんな事を考えながら、ふと隣を歩くレイを見ました。
「あの、レイ?良ければ私が出しますので何か衣服を買いませんか?その格好ではこの先ちょっと体調を悪くしてしまうかもしれません。そうなれば、私もとても困ってしまいます」
これから寒くなるのに、レイの古びた衣服では心許ないです。
裸足の足には簡易的に布を巻いて靴代わりにしていましたが、負担は少ししか減らせていないと思います。
ここまで随分と我慢していたのではないでしょうか。
「言葉に甘えてもいい?」
「はい!」
「なら、嬢ちゃん達は買い物か。暗くなる前に、あそこの宿に来てくれ」
「俺達のギルドへの報告は、明日だな。その間に宿をとっておくからな」
「はい、すぐに戻ります」
ロデリクさんとタイラーさんと別れて、レイを引っ張って衣料品店を探しました。
お金を多めに持ってきてて良かったです。
旅人用の衣服と、剣を一本購入して、再びお二人と合流です。
指定された宿にいるのかと思ったのですが、外からお二人が少し難しい顔をしてこちらに戻ってきました。
「今日は利用者が多いらしい。部屋が埋まっているそうだ。お前達、同じ部屋でいいか?」
一応聞いてくれたようですが、選択肢はないようですね。
「えっ……」
「はい!大丈夫です!」
なので、迷惑をかけないためにも、張り切ってそう返事をしました。
「えっ!?」
贅沢は言っていられません。
出会って日は浅いですが、ここまでの道中で、すでにレイなら信用できるから大丈夫と思えていました。
「助かるよ」
鍵を受け取ります。
「いえ、こちらこそ、お二人には本当にお世話になります」
状況に置いていかれたように、レイは立ち尽くしていましたが、
「セレーナ、じゃあ俺は寝る時は外に行くから」
我に返った彼が外に行こうとしたので、
「そんな事をする必要はありません。さぁ、行きましょう」
渋るレイの腕を引いていきます。
少し手狭ですが、部屋にはベッドが二つ並べられていました。
これなら、気兼ねなく休めそうです。
「ほら、大丈夫ですよ、レイ」
ソワソワした様子のレイは、指差した先を困り顔で見ていましたが、
「君がいいと言うなら」
と、やっとそこに落ち着いてくれました。
部屋に添えつけてあった小さなサイドテーブルで、お兄様宛に手紙を書きました。
冒険者ギルドから特別に速達で届けてくれるそうです。
それを書きながら、すぐそばにいるレイにも気になることを尋ねていました。
「レイの家族は健在ですか?」
「いや、俺には、いない」
「では、親戚のお家にいたのですか?」
「そうだね」
だから、“口減らし”だったのでしょうか。
みんな辛い経験があるのですね。
「私も、頑張ります……」
誰に言うともなく呟いた事でした。
手紙を書き終える頃には目蓋が重くなっていて、それに抗う事なく横になります。
レイには大丈夫と言ってみたものの、年頃の男の子と同じ部屋で寝るだなんて、家にいた頃では考えられないくらい非常識なことでした。
緊張して眠れないのではないかと思っていましたが、でも思いの外疲れていたのか、久しぶりのベッドで横になれたのもあり、朝までぐっすり寝てしまっていました。
朝日の差し込む中、体を起こすと、ちょうど目が覚めたと思われるレイと視線が合います。
「おはようございます。よく休めましたか?」
「おはよう。うん、セレーナもよく休めたみたいで安心したよ」
大人びた表情で微笑まれると、恥じらいもなく堂々と同じ部屋で寝ていた自分が恥ずかしくなりますが、今は細かい事は気にしている場合ではありません。
支度を済ませて、ロデリクさん達と合流すると、ギルドへと急ぎました
でも、案内してもらった場所へ行くと、異様な空気が広がっていました。
初めて訪れた場所でその異変を感じ取れたので、馴染みのあるロデリクさんやタイラーさんの方が、より戸惑っているようでした。
「ちょっと、奥で話を聞いてくるから、お前達はここで待っててもらえるか?」
ロデリクさん達はそう言い残すと、ギルドカウンターの奥に行ってしまいました。
残された私達は、どうするべきか、周りを見渡します。
「何か、あったのか?」
先に動いたレイが、近くの人に尋ねていました。
そして教えてもらえた内容は、アルタウス王国内全てが石化しているということでした。
その地に足を踏み入れた者は、皆、石になってしまうそうで、草木や建物に至るまで同様のようでした。
何でそんな事になったのか、混乱していました。
私が設置した結界は機能しています。
と言う事は、内側からそれが発生したことになります。
意図したものなのか、悪意ある誰かの手によるものなのかは、まだわかりません。
精霊王様にお会いすれば、何か方法を教えてもらえるかもしれません。
異世界の方にお会いしたら、すぐにでも精霊王様の元へ向かって、でも、私一人で可能なのか、会ってくださるのか。
どうしたら……
ここから一番近い入り口は……
あぁ、どうすれば
やはり一人では
馬車、馬を手配するべき?
でも……
「セレーナ」
すっかり混乱しきっていた私に、落ち着いた声がかけられて、ハッと我に返りました。
「予期せぬ事に動揺する事はあるかもしれない。でも、やるべき事や考える事がいっぱいでも、慌てないで」
「は、はい」
声の通りに、冷静な様子のレイが順序立ててこれからのことを整理してくれました。
「優先順位を整理して。君のするべき事は、一応、手紙は預けておこうか。事態が好転して、手紙が届けられるかもしれない。それから、異世界から来た人に会いに行くんだよね?」
「はい。それから、私は、精霊王様にお会いしなければ……」
「精霊王様か……どこに行けばお会いできるかは分かる?」
「バードル大陸……なら、エルフの国に、入り口があったはずです」
「うん。じゃあ、次はそこを目指そう」
「でも、私は会ってもらえるかは……」
「何か条件があるんだね。俺が読んだ本では、特別な願いが聞き届けられる時は、会ってくださると書いてあったよ。セレーナの用件は、それが当てはまるんじゃないかな?」
「それは……行ってみない事には……」
「うん。じゃあ、そうしてみようか。行ってみるのが一番だよ」
「私一人では……」
「俺が一緒に行くから。セレーナを手伝うよ。二人でダメなら、またその時に考えよう。いいかな?」
「はい」
レイの落ち着いた物言いに影響されて、私も冷静に物事を考えられるようになっていました。




