(自称)聖女の召喚と魔王の復活
僕の願いも虚しく、ポタポタと流れ続ける鮮血は床に溜まり、それが直径20cm程の血溜まりを作った頃に変化が現れた。
その血溜まりを中心に黒い光が広がり、渦巻くソレは、段々と人の姿を形作っていき、僕達が見つめる中、やがて黒い光の中に一人の女性の姿が現れていた。
床に描かれた円の中心に座り込んでいる女性に視線が集まる。
「何、ここ、本当に異世界召喚されたの?」
最初に言葉を発したのは、女性だった。
女性が着ている服は、見たことがないデザインでピッタリと体に張り付いており、短いスカートらしきものからやたら露出した足は、見るに耐えない。
「ちょっと、誰か説明しなさいよ!」
キャンキャンと犬が吠えるように甲高い声が響き、突然こんな場所に呼び寄せられてと、同情する気も起きないのが不思議なくらい、負のオーラ満載な人だった。
気のせいか、血生臭い匂いもするし。
「私は、異世界、日本から、聖女としてここに呼ばれたのでしょう?」
肩の部分よりも長い髪を振り乱しながら立ち上がり、胸に手をあてながら何故か勝ち誇った顔を見せているけど、
「お前は聖女と、自ら名乗るのか?」
兄さんは、冷めた目で彼女の事を見ている。
彼女の黒い髪に、黒い瞳。
記録にある聖女の姿そのものだけど、神聖さは感じずに、禍々しいものが増すだけだった。
「私は、カリナ。ここに呼ばれた事が、その証じゃない」
強気なカリナと名乗る女性に、兄さんは力を示せと命じた。
けど、カリナが四苦八苦しながら示したその力では、望み通りにヴィオラさんを蘇らせることはできなかった。
異世界の聖女は魅力魔法が使えるようだけど、兄さんには効果がない。
当たり前だ。
ヴィオラさんへの愛が深すぎて、魅力魔法の付け入る隙すらないのだから。
結局、カリナの力は別の目的に使うことにした兄さんは、その日、僕とアリアを一度は解放してくれた。
「エミール。このことは誰にも言うな。その子を殺されたくなかったらな。その子には忘却魔法をかける」
それを聞いたアリアは不安そうに僕の顔を見た。
「大丈夫だ、アリア。少し眠るだけだから。僕がいるから安心して」
手を握ってあげる中、アリアは忘却魔法をかけられ、聖女に関する一連の記憶が消された。
「次の準備が整い次第、お前を呼ぶ」
それだけ言うと、僕達をその場に残し、これも禁呪であるはずの隷属の紋をカリナに施し、人目につかない道を兄さんは戻っていった。
次に兄さんに呼び出されたのは、わずか2日後の事だった。
この日、とうとう兄さんは魔王を復活させ、支配下に置いた異世界聖女の力で魔王の力を利用する事に成功した。
兄さんが何を目指しているのかを考えたくない。
魔王を復活させてしまっては、いくら支配下に置いたとしても行き着く先は、世界の破滅しかない。
帝国の行く末どころか、この世界そのものが終わってしまう。
魔王は、存在自体が悪だ。
そこにいるだけで、大地から#生命力__マナ__#を吸い続けている。
召喚されたばかりの魔王は、まだ繭のようなものの中に入っていた。
僕の血からこれが生み出されたようなものだ。
また、魔法陣の中心に僕の血液が垂らされ、それによって#コレ__・__#が生み出されたのだから。
「兄さんは、どうしてこんな手段をご存知なのですか……」
最早、禁呪どころじゃない。
こんな方法が、何かの記録に残っているはずがない。
兄さんは僕を一瞥すると、
「黒い妖精が運んだものだ」
簡単に、それだけを告げた。
黒い繭の中心部からは、ドクンドクンと鼓動が聞こえている。
コレから出てくるものが何か、想像はしたくなかった。
計り知れない恐怖を抱く。
「兄さん……もう、やめてください……」
僕の声は届かない。
表情を変えず、もう僕の方は見ず、その繭を大事に抱えて僕を置いて去っていった。
異世界から聖女を召喚するところから、魔王を復活させる所まで、ただ従うだけで、そしてそれらは全て、僕の血を使って行われていた。
それでもまだ、この時は自分の罪を正確に理解できてはいなかった。




