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亡き人への呼びかけ


 ジェシカさんとも別れて部屋で一人になると、再び悲しい気持ちが押し寄せてくるのはどうしようもありません。


 浮き沈みの激しいこの状態は、まだまだ続きそうですが、気持ちを落ち着かせる為にも、床に膝をついて、手を組み、鎮魂の祈りを捧げます。


 どうか、殺された者達の魂が安らかにあれと。


 そして、できるならば、お別れの挨拶をちゃんとしたい。


 そう思って呼びかけても、何故か誰一人として応えてはくれないのです。


 近くまで来てくれている気配はあっても、沈黙を保って、私の言葉に応えてはくれません。


 歴代の聖女の中でも、私の力が一番弱いと言われてきました。


 聖女としての私ができることは、死者との対話だけです。


 物心つく前から、亡くなったお母様の姿が私だけに見えていました。


 他の方には見えないのに、私が誰もいない空間に一人で話しかけているので、小さな頃は不思議に思われていました。


 お父様が城に篭りがちで、寂しさを紛らわす為に、空想を口にしていたと、そう思われていました。


 精霊王様から祝福を授かって生まれてきても、何も力を持っていない子と思われていました。


 その力が私自身に自覚でき、周囲も知るきっかけになったのがアラステア様とキャサリンに出会えたおかげで、二人に初めて会った日に、亡くなった方と話せるのは、聖女である私の力だと、人々の心を救える力だと言ってくれました。


 アラステア様との婚約が決まった日を境に、お母様の姿は見えなくなりましたが、死して尚悔いが残る方との対話、その橋渡しを私は担っていました。


 そんな唯一の私の役目が、それすらも、今はできなくて……


 それでも、祈らずにはいられません。


 お父様……


 別れ際に私はきちんとご挨拶ができていたでしょうか。


 自分の事ばかりで、育ててくださったお父様に、何も返す事ができませんでした。


 感謝の言葉も伝えていないどころか、最後にあんな事態も招いてしまって。


 常に国を想っていたお父様の無念は、如何程のものか。


 アラステア様……


 恨みなどありません。


 貴方を恨む事などできません。


 せめて、安らかな眠りを。


 キャサリンの安否がわかっていないことが心配でした。


 どうか無事でいて欲しい。


 ただ、それだけです。


 祈りを捧げているうちに夜は更けていき、あまり眠れないまま朝を迎えていました。


 亡くなった方への思いは抱えつつも、何も備えずにただ黙って攻め込まれるのを待つわけにはいきません。


 時間は有限であって、私ができる魔族への対策を考えてみました。


 設置には時間がかかりますが、結界を張ることができれば、この国の大きな守りとなるはずで、過去の聖女の能力にヒントがないか教会の方と一緒に探していました。


 記録を読む限りでは、最初に魔族の侵攻を受けた際に、魔族に対する結界を使えた聖女さんがいたようで、その方の伝記と肖像画を見ながら、私なりにこれを真似できないか頭を悩ませていました。


 教会の書庫で書物に囲まれる中ふと顔を上げると、礼拝室から誰かに呼ばれた気がしてそこに向かいます。


 ステンドグラスを通して光が差し込んでいる心地よいその場に、人の姿がないので不思議に思いながらも、もう一度声に耳を傾けていました。


 気のせい?なのかと思いかけていると、暖かい風が吹いて、かと思うと、一瞬、目の前でニッコリと私に微笑む綺麗な黒髪の女性が見えて、額をトンっと指で触れられ、そしてすぐに消えていきました。


 彼女が消えるその瞬間、流れ込むように何かの術式が脳裏に浮かんできました。


 あれは、あの方はきっと……


 与えられた未知の情報に戸惑いながらも、知恵を貸してくださった方に心の中でお礼を伝えて、それを無駄にしない為にもすぐに走り出していました。





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