ビビりの役立たずだと追放された少年、規格外かつ万能の回避盾となる。~外れスキル【逃げ足】に加えて必中の神弓を手にした結果、いつの間にか無自覚な最強となっていた件について~
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「何度言えば分かるんだ! このビビりの役立たず!!」
「そ、そんなこと言ったって……!」
――とあるクエストの終了後、夕刻の街中で。
ボクはパーティーリーダーのアネスから、詰問を受けていた。
その原因というのは、クエスト中に発動したボクのスキルにあって……。
「し、仕方ないんだ! 発動したら、勝手に――」
「発動したら『勝手に逃げてしまう』なんて、馬鹿じゃないのか!? しかも、その時だけ誰よりも足が速くなりやがって! 陽動にすら使えねぇじゃねぇか!!」
「うっ……!?」
そうだった。
ボクの持っているスキル【逃げ足】は、致命的なまでに非戦闘向き。それが発動してしまえば、誰もボクには追いつくことができなくなる。
そこだけを切り抜けば、とても有用なスキルに聞こえるだろう。
しかし、問題はアネスの言う通り『勝手に逃げてしまう』ことであった。
「ボクの意思とは無関係なんだ。信じてくれ……!」
敵を目の前にして、囮になろうとスキルを使う。そこまではいい。
だが、それをするとスタコラサッサ。ダンジョンの外まで、一気に駆け抜けてしまうのだった。そうなっては、まともな陽動など不可能。
そのためボクの固有スキルは、陰で『ハズレ』だと囁かれていた。
「うるせぇ! お前の意思が関係あろうとなかろうと、知ったことか!!」
「うわ……!?」
必死に許しを請うが、アネスの怒りは限界を超えていたらしい。
強く握りしめた拳を振り上げて、そして――。
「…………っ!!」
ボクはとっさに、その拳を見つめてスキルを発動した。
すると、
「リッド、てめぇ!! ――俺からも逃げようってのか!!」
彼の拳は、見事なまでに空を切る。
ボクの身体は意識より先に動き出しており、アネスの手が届かない位置にあった。当然ながら彼は激昂し、腰元から剣を引き抜く。
このままでは殺されてしまう。
そう思ったボクは、次にアネスを見つめてスキルを発動するのだった。
「てめぇ!? お前なんか、もう要らねぇ!! ――追放だァ!!」
身体が感情よりも先に動く。
背中にアネスの宣告を受けながら、ボクは誰よりも速く駆けたのだった。
◆
――そんなリッドの様子を眺める人物がいた。
「いまの動き、そしてスキルは……?」
赤く長い髪に、切れ長の眼差し。
背中に大剣を背負った細身の男性は、しばしの思案の後にアネスへ声をかけた。
「やあ、そこのキミ。少しだけ良いかな?」
「あぁ……? なんだ。このあたりじゃ見ねぇ顔だな」
「ちょっとばかり流浪の身でね。それよりも先ほどの少年のことだが、追放という言葉が本当なら、私が引き取っても構わないだろうか」
「は……あの役立たずを?」
そして、アネスに向かってそう告げる。
元リーダーは訝しげに眉をひそめて相手を見たが、すぐに鼻で笑った。そして、肩をすくめてこう答えるのだ。
「なんだよ、物好きだな。勝手にしやがれ」
「あぁ、そうか。ありがとう」
しかし、赤髪の大剣使いは意に介した様子もなく。
短くそう口にすると、その場を後にした。
「なんだ、アイツ。それにしても、あの顔はどこかで……?」
一人残されたアネスは首を傾げる。
だが、そんな彼に明確な答えがもたらされることはなかった。
◆
「はぁ……きっとまた、クビだよなぁ……」
ボクは街の公園で一人、長椅子に腰かけてそう呟いた。
日も沈み切りそうな時刻になっている。先ほどまで遊んでいた子供たちもいなくなり、活気あふれる喧騒は消え去っていた。
その中で、先ほどの一件を思い出してため息をつく。
そして自身に宿った能力について考え、憂鬱な気持ちになるのだった。
「どうして、ボクはこんな……?」
逃げるしか能のない役立たず。
その他にこれといった取柄もなく、穀潰しだと罵られてきた。
だけどボクにはお金が必要で、必死になって稼ぎを作らなければいけない。冒険者稼業は危険が多い代わりに、実入りが大きいので期待していたのだけど……。
「……くそっ…………!」
不甲斐なさに思わず悪態を吐いた。
頭を抱えながら、それでも必死に次の手段を考える。
こうなったら冒険者は諦めて、いっそ地道にどこかの店で働くしか……。
「やあ、少し良いかな?」
「え……?」
そう、考えていた時だった。
一人の男性剣士が、ボクに声をかけてきたのは。
「誰、ですか……?」
この街では、まず見たことのない人物だった。
背丈はボクよりも一回り大きいが、全体的には細身な印象を受ける。そんな赤髪の彼は呆気に取られるこちらを余所に、こう続けるのだった。
「キミにはまだ、冒険者を続ける意思があるかな?」――と。
男性の言葉に思わず首を傾げてしまう。
そんなこちらに対して、その人――アイロスは、こう告げるのだった。
「是非、キミのことをスカウトしたい。――リッドくん」
信じられないそれに、ボクはしばし返事をすることができず。
ただ、沈黙だけがその場に流れるのだった。
◆
――翌日、ダンジョン中層部にて。
「……あの、アイロス。こんな深くまで潜って、大丈夫なんですか?」
「あぁ、気にしなくても大丈夫。私は腕に、それなりの自信を持っているからね」
「そ、そうですか……」
ボクとアイロスは、即席のパーティーを作ってダンジョンへ向かった。
しかし『二人だけ』という少数にもかかわらず、アイロスは気にした様子もなく進んでいく。結果的にたどり着いたのは、推奨ランクA以上の魔境だった。
ここにはドラゴンやデイモンなど、強力な魔物が蔓延っている。
普通なら、もっと大人数で挑むべき場所だ。
「……本当に、大丈夫なのかな」
それだというのに、今日のパートナーは気にした様子もなかった。
何度も確認したのに、大丈夫、としか答えない。
それに加えて――。
「この弓、本当に貰っていいのかな……?」
ボクは彼からダンジョン前で一つの武器を渡されていた。
なにやら、細かい意匠の施された弓だ。触れてみると妙に手に馴染み、ピンと張った弦が美しいと感じさせられる。
素人目に見ても分かった。
この弓は、とても価値があるものに違いない。
「なぁ、リッドくん。少しだけ良いかな」
「え? は、はい!」
そう考えて生唾を呑んでいると。
アイロスが数歩先で立ち止まって、こう訊いてきた。
「キミのスキルは、なんだい?」――と。
それを耳にして、ボクは思わず口を噤んでしまう。
しかし、ここはハッキリと答えるべきだ。そう思って正直に伝えた。
「【逃げ足】、です……」
「ふむ、それはまた珍しいね。きっと、世界でキミだけのスキルだ」
「あ、あはは……そう、ですね。どう考えても、役立たずですけど……」
すると、アイロスは興味深そうにそう言う。
その反応にボクは自嘲気味に笑って、頬を掻きながら答えた。いかに世界で唯一のユニークスキルだといっても、使い道がなければ意味がないのだから。
しかし、そんなこちらとは対照的に。アイロスはしばし考えてから、ボクの手にした弓を見てこう続けるのだった。
「そんなことはない。どのようなスキルも使い方次第で化けるだろうさ。例えばキミが、その弓を持って戦えば――ね?」
「え……?」
それを受けて、ボクは改めて弓に視線を落とす。
「その弓は【必中の神弓】と呼ばれていてね。狙いを定めれば、どのような状況でも標的へと矢を放つことができるんだ」
「そ、そんな凄いものなんですか……!?」
すると、アイロスは目玉が飛び出るような情報を口にするのだ。
良いものだと思っていたが、まさかそこまでとは思いもしない。ボクがついつい大声を出してしまうと、彼は口元に人差し指を当てながらそれを諫めた。
忘れかけていたが、今はダンジョンの中だ。
下手に大きな音をたてれば、魔物との不要な戦闘が発生する。
「で、でも……! どうして、そんな弓をボクに!?」
喉まで出かかった声量を必死に絞って。
しかし必死に、ボクはアイロスにそう訴えた。すると、
「少しばかり、試したいことがあってね。耳を貸してほしい」
「え、えぇ……?」
彼は悪戯っぽく微笑むと、ボクにこう耳打ちする。
「これは、キミにしかできない戦い方。そして――」
どこか、無邪気な子供のように。
「その弓の良さを、最大限に活かした戦い方だよ」――と。
◆
――気付けば、ボクたちはダンジョンの下層まで到達していた。
推定SSSランク以上のパーティーが対象の魔物が跋扈する、正真正銘の魔界。古代から人の手などついておらず、気を抜けば意識を持っていかれそうなほどの魔素が充満していた。しかし、アイロスはその中を迷いなく進んでいく。
そして、とある場所で立ち止まって小さく言うのだった。
「……いた。あれが、今日のターゲットだ」
「な、なんだ。あの大きさ……!?」
彼の後ろに隠れて覗き込むと、そこにいたのは一体のドラゴン。
しかし、大きさが尋常ではない。並のドラゴンの倍――いや、そのさらに倍以上はあるだろう。ゆっくりと歩を進める姿は、まるで山が動いているかのようでもあった。
アイロスはそれを真っすぐに見て小さく笑う。
そして、こう言うのだった。
「アレが、古代の文献にあった【エンシェントドラゴン】――か。世界で唯一、このダンジョンのみに棲息し、人の前に自ら姿を現わすことはない伝説級の魔物だ」
ボクはその言葉を聞いて、背筋が凍る。
そんな御伽噺のような話を信じる方がおかしかった。
だがしかし、彼のいうエンシェントドラゴンは目の前に存在している。つまりそれは絵空事でも、ましてや夢物語でもなく、現実ということだった。
そして同時に、そのような魔物に挑もうとするアイロスに対して怖気立つ。
「さぁ、行こうか……!!」
ここまできたら、制止など意味がなかった。
ボクは神弓を握り締めて、彼の後に続く。そして、
「陽動は任せたよ、リッドくん!」
「わ、分かりました!!」
アイロスの言葉に反応して、一直線に。
エンシェントドラゴンの柔らかい眼球目がけて、矢を放った……!
◆
『キミのスキルはきっと、その魔物を標的にするのでは力を発揮し切れない。だから、真に対象とすべきなのは――』
アイロスの言葉を信じ、ボクは矢を放った直後に魔物の前へと姿を晒す。
狙い過たず眼球を射抜かれたエンシェントドラゴンは、怒りを隠そうともせずに侵入者であるボクを見定めた。そして、そのあまりに大きな腕を叩きつけんと振り上げる。
「このスキルは、標的からの確実に逃げる能力。だから――」
ボクは弱気になりそうな自分を叱咤し、ドラゴンの攻撃を確認した。
その上で、こう口にするのだ。
「真に対象とするのは、敵からの『攻撃そのもの』だ……!」――と。
それは先刻、アイロスに告げられた戦い方。
ボクのスキルを最大限に発揮し、役目を果たすもの。
意思とは無関係な逃避行動ゆえに、役立たずと罵られたスキル。
だがそれは、使い方次第で――。
「相手の攻撃を『絶対回避』するスキルに、変貌する……!」
――エンシェントドラゴンの一撃が、大地を抉る。
しかし、攻撃を喰らったと思われたボクの身体はすでにそこにない。
ボクはいつの間にか、それを回避していた。どのように動いても回避不可能と思われた攻撃から、因果律を捻じ曲げたかのように逃げ出したのである。
そして間を置かず、ボクは必中の神弓を引き絞ってもう一つの眼球へ矢を放った。
――エンシェントドラゴンの絶叫が木霊する。
その一撃は、確実に巨竜の両眼を潰して時間を作り出した。
それを好機と見て、トドメの一撃を繰り出すのは他でもない彼である。
「さすがだね。私の見立ては、間違いなかったようだ……!」
アイロスは炎を纏った大剣を振り上げ、エンシェントドラゴンへと肉薄する。
そして、分厚い鱗に覆われたその首へ一撃を繰り出した……!
――断末魔の叫びが、響き渡る。
それは一つの大きな生命が終わりを迎えた咆哮だった。
◆
「いやはや、キミのスキルは素晴らしいね!」
「そ、そんな……」
戦いを終えて。
ボクとアイロスは、街へと戻ってきてた。
その道中で幾度も褒め称えられたが、どうにも小恥ずかしく思えてしまう。ボクは彼から視線を逸らしつつ頬を掻き、しかし少し嬉しくも思っていた。
だから、ここは素直に感謝を述べることにしよう。
「あの、アイロス……?」
「あー!? こんなところにいたー!!」
「え……?」
そう考え、口を開いた時だった。
身の丈に合わない戦斧を背負った少女が、そう声を上げてこちらにやってきたのは。何事かと思い、首を傾げていると……。
「騎士団長! 遠征中は勝手な行動しないでください、って言いましたよね!?」
「あっはっはっはっは! そう目くじらを立てないでくれ、リターシャ」
「遠征のたびに単独行動されたら、目くじらも立てますよ!!」
…………へ?
「あ、あの……?」
「あぁ、そうだ。キミには、自己紹介がまだだったね」
あまりの事態に状況が呑み込めず、ボクが困惑していると。
アイロスはそう言って、改めて自己紹介をするのだった……。
「私の名前はアイロス・フォン・オルガティン。ガリア王国騎士団で、長を務めているのだよ」――と。
彼の口から出たのは、この大陸最大の国名であった。
「…………え」
ボクはそこで、しばし沈黙してから。
「ええええええええええええええええええええええええええええ!?」
驚きのあまり、絶叫するのだった。
これがすべてのスタートライン。
ボクこと、リッドという田舎者の物語が始まった瞬間だった。
最後力尽きた_(:3 」∠)_
面白かった
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