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ガールズ・ビー・アンビシャス  作者: もひみみ
4/5

4話

 でもやっぱりシャワーだけだと寒いからって、お湯を張ることに。

 柚純が準備をしている間、私はテレビを見たりして緊張を紛らわせようとしていた。

「うう……」

 言ったはいいものの、恥ずかしいって気持ちはやっぱり大きい。

 テレビの音は右から左へとあっさり通り過ぎるし、頭の中は柚純のことでいっぱいだし。

「準備できたよ~」

「え、あ、う、うん!」

 脱衣所から声をかけてきた柚純に、思わず声が裏返る。

「あはは……香苗ちゃん、きんちょーしてる」

「き、きき、緊張なんてしてないよ」

「そう? じゃあ、入ろ」

「う、う、うん」

 テレビを消して、深呼吸。

 だ、だ、大丈夫、女の子の体だもん、見たことあるもん、うん……。

 よくわからない理由で自分を納得させ、柚純の待つ脱衣所へ。

「えーっと、制服はここに置いてもらって、タオルはこれ使ってね。乾燥機もあるから、洗いたい物あったら洗っちゃっていいよ」

「は、はい!」

「ちょっと狭いけど……くっ付けば、大丈夫だよね」

「く、く、く」

「香苗ちゃん。あんまり、その、意識されると……私もすごく、緊張しちゃうよ……」

「ひうっ! ご、ご、ごめん……」

 できるだけ見ないようにしていた柚純の顔を見ると、真っ赤になって、目なんてちょっと潤んでいた。

 そうだった、柚純だってこんな経験があるわけがないんだから、私と同じように緊張だってするんだ。

 だとしたら私一人がテンパってるわけにはいかない。

「そ、それじゃ……」

 とりあえず制服の上下を脱ぐ。

 下着姿くらいはバイト先でも見たり見られたりしてるわけだし、大丈夫、うん。

 そう広くない脱衣所で、柚純も一緒に脱いでるので、どうしても肌が触れ合っちゃったりしちゃって意識はするけど。

「……」

 さて、下着だ。

「……」

 脱がなきゃ……入れないよね。

 わかっていつつも逡巡していると、視界の端では柚純が背中に手を回し、ブラを――。

「っ!」

 慌てて、背中を向ける。

 あ、や、その、緊張とかそう言うことじゃなくて、み、見てはならないと言いますか、なんと言いますか、ですね。

 私が悶々としてる間に、次はさらっと音がして……。

「さ、先はいるねっ!」

 扉を開けて中に入る柚純の後ろ姿が、一瞬だけ見える。

 キレイな白い肌、整った体のライン、可愛いお尻。

「うっ」

 思わず鼻を押さえる。

 大丈夫、中学生じゃないんだし、鼻血なんて出ない……よね……。

 でも、柚純、キレイだな……。

 なんて思ってると、曇りガラスになった浴室の内側から、シャワーの音が聞こえる。

 いけないいけない、私も入らないと。

 柚純の姿もなくなり、下着を脱ぐことに抵抗はない。

 裸になって、タオル持って……。

 ふと、自分の体を見る。

 さっき見た柚純のに比べると、うーん、引っ込むべきところがちょっと出てる気がしないでもない。

 けど……今さらどうしようもないよね。

「……よしっ!」

 気合いを入れて、扉へと向き直る。

「柚純? 入るよー?」

「あ、うん」

 シャワーの音が途切れたタイミングで声をかけ、扉を開ける。


 当たり前のことだけど、浴室は明るい。

 それに、シャワーを使ってたからって、視界が塞がるほど曇っていたりもしなかった。

 私の目には、長い髪を濡らして、頭を洗おうと座っている柚純の姿がばっちり映っていた。

「……」

「……あの、ドアを閉めてもらえると」

「あ、ああ、ごめん!」

 慌てて、後ろ手にドアを閉める。

「……」

 見える柚純は、後ろ姿。

 だけど柔らかそうな腕とかお尻とか、そう言うのはちゃんと見えるわけで……。

「ねね、香苗ちゃん。洗いっこしない?」

「え?」

「ちょっと憧れてたんだ。一緒にお風呂はいって、洗いっこするの」

「あ、う、うん! いいよ!」

 私も、柚純とそう言うことをするのに憧れていた――と言うのは、恥ずかしいから言わないでおく。

 とりあえず私も柚純の後ろに座って、体勢を整える。

「じゃあ、先に私が柚純を洗うね」

「うん。はいこれ、シャンプー」

 渡されたシャンプーを手につけ、柚純の髪の毛を洗い始める。

「おお~……」

 量が多いのに手に引っかかることもなく、さらさらとまっすぐに流れる柚純の髪。

 洗っているこっちの手が気持ちよくなるくらいの感触に、私の気分も乗ってきた。

「お客さん、かゆいところありませんかー?」

「あはっ、ないでーす」

 髪の根元から、先っぽまで。

 娘――なんている年齢でもないし、妹もいないけど……そう、ちっちゃな妹の髪の毛を洗ったりしたら、こんな感じなのかな。

 てっぺんから、耳の近く、うなじ……。

 触れるとくすぐったそうに身をよじる柚純だけど、洗ってるのが気持ち良さそうで、なんだか嬉しくなっていた。

「それじゃ、流すよー。目、閉じてね」

「うん」

 満足いくまで洗ったあと、シャワーでシャンプーを洗い流す。

 肌にはりついた柚純の髪の毛が……少しえっちぃ。

「ありがと、香苗ちゃん」

「いえいえ、どういたしまして」

「……それじゃ、今度は私が洗ってあげるね」

「お願いします」

 柚純が立ち上がって、私の横を通る――のを、必死に見ないようにして、柚純が座っていた場所へ移動。

 正面には、おっきな鏡があって――。

「っ!」

 私の後ろに見えるのは、柚鈴の上半身。

 ――つまり、柚純の、こう、あれが見えていた。

「あわわわ」

 見ないようにと思いつつも、目がしっかりそこを見て離れない。

 あまり大きくはないけど、形のいい柚純のはすごく柔らかそうで……。

「香苗ちゃん? 濡らすから、目、閉じてね」

「う、う、うん」

 ――ああ、柚純のはどんな感触なんだろう。

 自分のを触ったことはあるけど、やっぱり柚純だときっと違って、こう、すごいんだろうなぁ。

「わぷっ!」

 なんて別世界へ行っていたら、急に目の前にお湯が流れてきていた。

「あれ? 香苗ちゃん、目、閉じてる?」

「っと、とと、閉じてるよ」

「そう? それじゃ、洗いまーす」

 ……目がちょっと痛いけど、自業自得だった。

 あ、でも、なんだろう。

 柚純の手が私の髪に触れて、頭を洗って――。

「かゆいとこ、ありますか?」

「あ、ちょっと、その左のところ」

「ここ?」

「そうそう。気持ちいい~」

「あははっ」

 優しいだけじゃなくて、ちゃんと洗えるように強かったり……。

 そんなのが、すごく気持ちよかった。

 私が洗った時、柚純も気持ちよかったなら嬉しいな。

「香苗ちゃんの髪、さらさらだね」

「そう? 柚純の方が、こう、さらーって感じだったけど」

「さらーっじゃ、わかんないよ」

「なんていうか、手から零れ落ちるような感じ?」

「そうなの?」

「んー、うまく言えないけど、私は柚純の髪、好きだよ」

「……ありがと。私も香苗ちゃんの髪、好きだよ」

「へへっ……なんか照れるね」

 でも、こうやって気持ちを伝えたえることが嬉しい。

 恋する気持ちが通じ合うって、こんなに嬉しいことだったんだ。

「それじゃ、流すね」

「うん」

 今度はちゃんと目を閉じて、柚純が洗い流してくれるのを待つ。

「はふぅ……」

 あまりの気持ちよさに、思わず息が漏れる。

「はい、おしまい」

 柚純の声に目を開ける。

 目の前の鏡が曇ってたので、なんとなく、いつもの癖で手で拭いた。

「……」

 見慣れた私の顔の横に、柚純の顔があった。

「あ、ゆ、柚純……?」

 私の肩に手を置き、鏡越しに私を見ている。

 私は金縛りにあったかのように、柚純の瞳から目をそらすことができなくなっていた。

「香苗ちゃん」

「うん……?」

 柚純の声が浴室に響き、私の頭の中を隅々まで行き渡る。

「……キレイ、だね」

「そ、そう……かな……」

 鏡には、柚純と私が映っている。

 つまり柚純にも、裸の私を見られてるということだった。

 そして、鏡の中の柚純がゆっくりと手を動かして――。

「いい?」

「……」

 恥ずかしさは消えていないし、これから先も消せる気はしない。

 けど――今はそれよりも、柚純に触れ、私に触れて欲しかった。

 私は頷き、柚純の手に自分の手を重ねた。


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