4話
でもやっぱりシャワーだけだと寒いからって、お湯を張ることに。
柚純が準備をしている間、私はテレビを見たりして緊張を紛らわせようとしていた。
「うう……」
言ったはいいものの、恥ずかしいって気持ちはやっぱり大きい。
テレビの音は右から左へとあっさり通り過ぎるし、頭の中は柚純のことでいっぱいだし。
「準備できたよ~」
「え、あ、う、うん!」
脱衣所から声をかけてきた柚純に、思わず声が裏返る。
「あはは……香苗ちゃん、きんちょーしてる」
「き、きき、緊張なんてしてないよ」
「そう? じゃあ、入ろ」
「う、う、うん」
テレビを消して、深呼吸。
だ、だ、大丈夫、女の子の体だもん、見たことあるもん、うん……。
よくわからない理由で自分を納得させ、柚純の待つ脱衣所へ。
「えーっと、制服はここに置いてもらって、タオルはこれ使ってね。乾燥機もあるから、洗いたい物あったら洗っちゃっていいよ」
「は、はい!」
「ちょっと狭いけど……くっ付けば、大丈夫だよね」
「く、く、く」
「香苗ちゃん。あんまり、その、意識されると……私もすごく、緊張しちゃうよ……」
「ひうっ! ご、ご、ごめん……」
できるだけ見ないようにしていた柚純の顔を見ると、真っ赤になって、目なんてちょっと潤んでいた。
そうだった、柚純だってこんな経験があるわけがないんだから、私と同じように緊張だってするんだ。
だとしたら私一人がテンパってるわけにはいかない。
「そ、それじゃ……」
とりあえず制服の上下を脱ぐ。
下着姿くらいはバイト先でも見たり見られたりしてるわけだし、大丈夫、うん。
そう広くない脱衣所で、柚純も一緒に脱いでるので、どうしても肌が触れ合っちゃったりしちゃって意識はするけど。
「……」
さて、下着だ。
「……」
脱がなきゃ……入れないよね。
わかっていつつも逡巡していると、視界の端では柚純が背中に手を回し、ブラを――。
「っ!」
慌てて、背中を向ける。
あ、や、その、緊張とかそう言うことじゃなくて、み、見てはならないと言いますか、なんと言いますか、ですね。
私が悶々としてる間に、次はさらっと音がして……。
「さ、先はいるねっ!」
扉を開けて中に入る柚純の後ろ姿が、一瞬だけ見える。
キレイな白い肌、整った体のライン、可愛いお尻。
「うっ」
思わず鼻を押さえる。
大丈夫、中学生じゃないんだし、鼻血なんて出ない……よね……。
でも、柚純、キレイだな……。
なんて思ってると、曇りガラスになった浴室の内側から、シャワーの音が聞こえる。
いけないいけない、私も入らないと。
柚純の姿もなくなり、下着を脱ぐことに抵抗はない。
裸になって、タオル持って……。
ふと、自分の体を見る。
さっき見た柚純のに比べると、うーん、引っ込むべきところがちょっと出てる気がしないでもない。
けど……今さらどうしようもないよね。
「……よしっ!」
気合いを入れて、扉へと向き直る。
「柚純? 入るよー?」
「あ、うん」
シャワーの音が途切れたタイミングで声をかけ、扉を開ける。
当たり前のことだけど、浴室は明るい。
それに、シャワーを使ってたからって、視界が塞がるほど曇っていたりもしなかった。
私の目には、長い髪を濡らして、頭を洗おうと座っている柚純の姿がばっちり映っていた。
「……」
「……あの、ドアを閉めてもらえると」
「あ、ああ、ごめん!」
慌てて、後ろ手にドアを閉める。
「……」
見える柚純は、後ろ姿。
だけど柔らかそうな腕とかお尻とか、そう言うのはちゃんと見えるわけで……。
「ねね、香苗ちゃん。洗いっこしない?」
「え?」
「ちょっと憧れてたんだ。一緒にお風呂はいって、洗いっこするの」
「あ、う、うん! いいよ!」
私も、柚純とそう言うことをするのに憧れていた――と言うのは、恥ずかしいから言わないでおく。
とりあえず私も柚純の後ろに座って、体勢を整える。
「じゃあ、先に私が柚純を洗うね」
「うん。はいこれ、シャンプー」
渡されたシャンプーを手につけ、柚純の髪の毛を洗い始める。
「おお~……」
量が多いのに手に引っかかることもなく、さらさらとまっすぐに流れる柚純の髪。
洗っているこっちの手が気持ちよくなるくらいの感触に、私の気分も乗ってきた。
「お客さん、かゆいところありませんかー?」
「あはっ、ないでーす」
髪の根元から、先っぽまで。
娘――なんている年齢でもないし、妹もいないけど……そう、ちっちゃな妹の髪の毛を洗ったりしたら、こんな感じなのかな。
てっぺんから、耳の近く、うなじ……。
触れるとくすぐったそうに身をよじる柚純だけど、洗ってるのが気持ち良さそうで、なんだか嬉しくなっていた。
「それじゃ、流すよー。目、閉じてね」
「うん」
満足いくまで洗ったあと、シャワーでシャンプーを洗い流す。
肌にはりついた柚純の髪の毛が……少しえっちぃ。
「ありがと、香苗ちゃん」
「いえいえ、どういたしまして」
「……それじゃ、今度は私が洗ってあげるね」
「お願いします」
柚純が立ち上がって、私の横を通る――のを、必死に見ないようにして、柚純が座っていた場所へ移動。
正面には、おっきな鏡があって――。
「っ!」
私の後ろに見えるのは、柚鈴の上半身。
――つまり、柚純の、こう、あれが見えていた。
「あわわわ」
見ないようにと思いつつも、目がしっかりそこを見て離れない。
あまり大きくはないけど、形のいい柚純のはすごく柔らかそうで……。
「香苗ちゃん? 濡らすから、目、閉じてね」
「う、う、うん」
――ああ、柚純のはどんな感触なんだろう。
自分のを触ったことはあるけど、やっぱり柚純だときっと違って、こう、すごいんだろうなぁ。
「わぷっ!」
なんて別世界へ行っていたら、急に目の前にお湯が流れてきていた。
「あれ? 香苗ちゃん、目、閉じてる?」
「っと、とと、閉じてるよ」
「そう? それじゃ、洗いまーす」
……目がちょっと痛いけど、自業自得だった。
あ、でも、なんだろう。
柚純の手が私の髪に触れて、頭を洗って――。
「かゆいとこ、ありますか?」
「あ、ちょっと、その左のところ」
「ここ?」
「そうそう。気持ちいい~」
「あははっ」
優しいだけじゃなくて、ちゃんと洗えるように強かったり……。
そんなのが、すごく気持ちよかった。
私が洗った時、柚純も気持ちよかったなら嬉しいな。
「香苗ちゃんの髪、さらさらだね」
「そう? 柚純の方が、こう、さらーって感じだったけど」
「さらーっじゃ、わかんないよ」
「なんていうか、手から零れ落ちるような感じ?」
「そうなの?」
「んー、うまく言えないけど、私は柚純の髪、好きだよ」
「……ありがと。私も香苗ちゃんの髪、好きだよ」
「へへっ……なんか照れるね」
でも、こうやって気持ちを伝えたえることが嬉しい。
恋する気持ちが通じ合うって、こんなに嬉しいことだったんだ。
「それじゃ、流すね」
「うん」
今度はちゃんと目を閉じて、柚純が洗い流してくれるのを待つ。
「はふぅ……」
あまりの気持ちよさに、思わず息が漏れる。
「はい、おしまい」
柚純の声に目を開ける。
目の前の鏡が曇ってたので、なんとなく、いつもの癖で手で拭いた。
「……」
見慣れた私の顔の横に、柚純の顔があった。
「あ、ゆ、柚純……?」
私の肩に手を置き、鏡越しに私を見ている。
私は金縛りにあったかのように、柚純の瞳から目をそらすことができなくなっていた。
「香苗ちゃん」
「うん……?」
柚純の声が浴室に響き、私の頭の中を隅々まで行き渡る。
「……キレイ、だね」
「そ、そう……かな……」
鏡には、柚純と私が映っている。
つまり柚純にも、裸の私を見られてるということだった。
そして、鏡の中の柚純がゆっくりと手を動かして――。
「いい?」
「……」
恥ずかしさは消えていないし、これから先も消せる気はしない。
けど――今はそれよりも、柚純に触れ、私に触れて欲しかった。
私は頷き、柚純の手に自分の手を重ねた。