表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/14

他人(ヒト)の身体で、勝手に結婚するってのはアリですか!? 再び。 【2】

 うう~。

 「ほら、まっすぐ前を見てっ!! 膝は曲げないっ!!」

 パンパンッと手を叩く音だけが、部屋に響く。

 「顎を引いてくださいっ!! でないと…」

 バサバサッ……。

 言われるより早く、私の頭の上から、分厚い本が床に落ちる。

 思わず、アデラと二人、その本に視線を落とす。

 「はいっ、もう一度っ!!」

 落ちた本は、再び頭の上へ。

 グラグラと揺れる本を頭上に、再びお姫さまウォーク。

 「前を見て、もっと早く。顔をこわばらせないっ!! 腕は下ろすっ!!」

 ビシバシくらうダメ出し。

 「まっすぐ歩いたら、今度は、そのまま優雅にお辞儀…って、ああ」

 バサッ。

 再び、本、落下。今度は、ペンギンのお手々みたいになってた腕で受け止める。

 「ちょっと、休憩しない!? アデラ」

 さすがに、歩き詰めは疲れた。

 「何をおっしゃってるんですか。こうしてレディとしての基礎を、もう一度学びなおしたいと申されたのは、リナさまでしょう!?」

 …うう。それはそうなんだけど。

 「それも、座ってばかりはイヤだからっておっしゃるから、こうして身体を動かすことをしているのに」

 ヒョイッと、腕のなかの本を頭に載せられた。

 「ほら、もう一度歩いてくださいな。本番まで、あと三ヶ月しかございませんのよ」

 パンパンッと手を叩かれた。

 …わかってる。わかってるんだけど。

 身体を動かすったって、こういうのは、首がカチンコチンになるし、疲れて逆にストレスが…。

 「ほらほらっ!!」

 促すように、何度も手を叩くアデラ。

 グラグラする本に、オッカナビックリでも歩くしかない。

 ヨタヨタ、フラフラ、オットット。

 「…まったく。故郷でなにを習ってきたのかしらね」

 小さく、ため息混じりにアデラが呟いた。

 …しょーがないじゃん。故郷じゃ、タダの高校生だったし、こんな歩き方まで習ってないんだもんっ!!

 セフィア姫なら、なんなく歩けるんだろうな。

 そんなことを考えながら、その日何度目かの本を取り落した。

 

 私が、こうして勉強だの、行儀作法だのに精を出すのには理由がある。

 王子のためだ。

 王子のために、妃として恥ずかしくないだけの、教養と立ち振舞いを覚える。

 さすがに、この顔を変えることは出来ないから、せめて、行動、知識だけでもそれに見合うようにしたい。そう思ってアデラに教えを乞うているんだけど。

 アデラは、私の申し出に、ものすごく驚いてた。

 仮にも一国の王女、それも他国へ嫁ぐような姫が、マナーを学びたいだなんて、おかしすぎるでしょ。

 アデラの感じたことは正解だと思う。

 多分、本来のセフィア姫なら、こんな授業いらなかったとと思うし。

 彼女なら、きっと、逆に周囲がうっとりするような優雅な仕草で、妃として立派に振舞ったんだろう。容姿と相まって、おそらく伝説になりそうなほど、素晴らしい妃になったと思う。

 だけど。にわか姫の私はそうはいかない。

 高校生としてレベルのことなら、なんとか出来てると思うけど、それ以上は、まずムリ。

 お姫さまってこんな感じかな~っていうのでごまかすには、限界もある。

 実際、私がセフィア姫の身体で、彼女のフリをしてたときにも、

 「セフィアさまは、こう言ってはなんだが、その、なあ…」

 「お美しいとは、思うが、なあ…」

 アデラが、王子に言い寄っていた理由を推察される度に、周囲からこう言われてた。あんな姫よりも、同国人で美しいアデラのほうが王子もいいのだろうと、好き勝手に噂されるもとにもなった。

 …なによ。「なあ…」って。「なあ…」ってなにさ。

 ハラは立つけど、どうしようもなかった。

 それほどに、私は姫さまらしくなかったのだ。

 ホンモノの姫さまなら、「なあ…」なんて言わせないのに。

 あの時は、どう言われようとそこまで思わなかったけど、今は事情が違う。

 王子のために、「なあ…」なんて言わせたくない。

 私のことで、王子に恥をかかせたくなんてない。

 だから、がんばる。顔は変えられないから、せめて振る舞いだけでも。

 そう思ってがんばってるんだけど…。

 ああっ!!

 もう、結構限界近いっ!!

 王子や、教えてくれるアデラに悪いけど、ブチ切れリミット寸前だよっ!!

 姫さま業って、なんでこんなに大変なのっ!?

 歩き方、笑い方、腕の上げ方下げ方エトセトラ。

 歴史に語学、政治に経済、文化、こっちに不慣れな私のために、習字なんかも存在する。

 そして、その合間を縫うように、即位式のためのドレスの仕立て、身につける宝石選び。たくさんの衣装を仕立てられることに、ジャンヌさんは張り切っていたけど、リカちゃん人形状態の私は、もう……。

 その上、髪や肌の手入れだとかで、さんざん風呂に浸けられ、最高級エステを、なんかわかんないものを、徹底的に塗られ、こすられ、磨かれて。

 王子の即位の儀までに、完璧な王妃を目指すことになりそうだけど…。

 一日は二十四時間、私の身体は一つしかないんだから、もう少し。もう少しだけ休ませてぇっ!!

 王子のためにがんばるって決めた心は、その気力と根性だけでどうにか形を保ってた。

 ホント、姫って大変だ。


 そして。

 流れた日々の先。

 とうとう、各国の大使がこのローレンシア王国にやって来る日となった。

 まだまだ王妃修行の途中だけど、王子とともに、にこやかに大使を迎える。

 とりあえず。

 真っすぐ歩いても、頭から本が落ちることはなくなっていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ