他人(ヒト)の身体で、勝手に結婚するってのはアリですか!? 再び。 【14】
「大使さまっ!!」
私の呼びかけに、王子も大公も驚いてた。
王子なんて、眼が真ん丸。
私が起きてくるなんて、思ってなかった!?
「お身体の具合は、どうですかな、姫君!?」
へっ!? 一瞬、大公の問いかけが理解できなかった。
「今日は、おかげんが悪いと、殿下からうかがったものですから」
…王子、アンタ、そんなウソついたの!?
軽くニラむと、王子に視線をそらされた。
「もう大丈夫ですわ。ご心配をおかけしました」
とりあえず、口裏合わせのウソをつく。
まあ、全くの元気かっていうと、そうじゃないけど…。腰が重い。
「姫君。姫君は、とても殿下に愛されておいでですな」
うえっ!? なになになにっ!? 昨夜のこととか、バレてるのっ!?
「先程、殿下から姫君のためにと、我が国との友好を所望されましたよ」
…あ。そっちか。赤くなりかけた自分が恥ずかしい。
「姫君、殿下。我が国は、貴国との友好を望みます」
「えっ!?」
その言葉に軽く驚いた。だって、昨日までそんなこと、ひと言も言ってくれなかったし。
「姫君の勇気と、殿下の愛情に心打たれました。新婚のお二人に、哀しみをもたらすのはよろしくない。大公にも、そのようにお伝えいたしましょう」
「大使さま…」
どこまで大使プレイ続けるんだろう。
「姫君。この贈り物なら、喜んでいただけますかな!?」
大公がニヤリと笑う。その眼は、冷たそうでいて温かい。
「ええ。何よりうれしい贈り物ですわ」
なんだ。一見怖そうに感じたけど、ちゃんと話せばわかってくれる人だったんだ。
「リナ。お前、スゴいヤツだな」
大公を見送ってから、王子が言った。
「あの大公に平和を約束させたのは、お前だぞ、リナ」
「へっ!? 私!?」
私、何かした!?
「自覚ないのか!?」
うん。全く。私の何が、大公の心を動かしたの!?
「まあ、知らなきゃ知らないままでいい」
「ええーっ。教えてよー」
少しだけむくれてみせたけど、王子は笑っていただけだった。
* * * *
それから、数カ月後。
予定通り、戴冠式は挙行され、ローレンシアは新たな国王を戴くこととなった。
第45代国王、ヴィルフリート・レオン・ローレンス。
弱冠21歳の国王。
けれど彼の、王国にもたらした功績は大きい。
敵対するルティアナとの婚姻による和平。そして、ヴァイセンとの友好。
平和な時代を築き上げた国王のもと、ローレンシアは繁栄の時を迎える。安定した社会は、ローレンシア王国の近代化に、大きく寄与した。
ルティアナから迎えた王妃とは、琴瑟相和す仲で、第一王子ハルトムートをはじめ、二男一女を得ることになる。
彼の統治に、大きく貢献したのはその王妃であったと、後の歴史学者は言う。
リナ・ブランシュ・ルティナリア。
王妃らしくないと評されることもある女性だったが、その自由で闊達な発想は、ローレンシアという伝統を重んじる国に、新たな風を吹き込んだ。
* * * *
うーん、気持ちいい~っ!!
久々の遠乗りに、思いっきり外の空気を吸い込む。長く伸ばし始めた髪も解いて、好きなだけ風に遊ばせる。
思う存分走らせたから、マロンも機嫌がいい。
私も、スッキリ、ストレス解消っ!!
「お前、どこまで行くつもりなんだ!?」
追いかけるように、馬を走らせてきた王子が言った。
「いい加減に戻らないと、またアンナに怒られるぞ!?」
……うっ。人の弱点を。
「それとも…」
馬を寄せた王子に、グイッと上半身を引っ張られる。気がつけば、一緒の馬の上。
空になった鞍をつけたマロンが、うれしそうに草をはむ。
「こうして、駆けていくのも悪くないな」
言うと同時に、馬を走らせた。
…ちょっ、アンタ、私に戻れって言いに来たんじゃないのっ!!
丘になった草原の端のあたりまで馬を駆けさせる。
なだらかに続く丘陵。その先に見える川。そして。ヴァイセン公国へと続く道。
今日の遠乗りは、これを見るためのものだった。
―――ヴァイセン大公が、亡くなった―――
その悲報が入ったのは、先月。王子の即位直後だった。
大公と入れ替わりに祝賀に訪れた、(本当の)大使がそう教えてくれた。
―――大公は、新しい公妃とお休みになっておられたところを、暴漢に襲われました―――
公妃とともに、生命を落とした。そう、大使は告げた。
そして、新たな大公に、息子(といってもまだ7歳)が即位したと。幼い大公の摂政には、母である第一妃の実家、叔父にあたる者が就いたと報告してくれた。
…大公。
あの、最後に見せてくれた笑顔が忘れられない。
愛する者などいない。そう言ってたけど、最期、お妃さまと一緒に休んでたって、大使が言ってた。
少しは、誰かと…、誰かを愛せるようになっていたのかな。誰が犯人なのかはわからないけれど、最期だけでも、誰かを愛することを、その幸せを知ってくれていたなら。
「リナ…」
優しく王子が呼んでくれる。
私の気持ちに気づいてるんだろうか。
「ヴィル…」
コツンと、額をその胸に当てる。
私、絶対幸せになる。世界を入れ替わってくれた、セフィア姫のためにも、平和を約束してくれた大公のためにも。
「ねえ、ヴィル。アナタは幸せ!?」
私の問いかけに、少し笑って口づけてくれた。
同じ気持ちであることに、その心地よさに、私は、ゆっくりと身を委ねた。
おしまい。
前作、『他人の身体で、勝手に結婚するってのはアリですか!?』で、最終話投稿後、イキナリのようにPV、ブクマが増えたことに、ただただ驚き、喜び、戸惑い、感情がワケワカランことになりまして。(最終投稿したら、酒でも飲んで祝おう!!と思ってたのに、完全に飲むのを忘れてた)
感謝をこめて、続編を書こうかな~っと思い至りました。
だけど、さすがにこれ以上入れ替わりは出来ないし。どうしたもんかと悩んだ末、本編で入れそびれたエピソードをこっちに盛り込もうかなと。
ホントはね。里奈がヴァイセンに乗り込むっていう案が、40~50話あたりにあったんですよ。自分たちにちょっかいをかけてくるヴァイセンに喝っ!!ってかんじで。でも、さすがにそれをすると、次の入れ替わりまでに戻ってこれないし、皆に迷惑かけちゃうし。で、ボツに。
今回、その辺りのエピソードを組み直し、里奈と王子のイチャデレを織り込み、再構成しました。(書きたかったのは、イチャデレのほうだったり)
かなり、イキオイだけで書いた感があるので、再編集し直すかもしれませんが…。
このお話をもって、『他人の身体で、勝手に結婚するってのはアリですか!?』は終了となります。手放すにはもったいないキャラに育ちましたが、それでもどこかでケジメをつけなくては。あ、でも、ローレンシア王国だの、ルティアナ王国(皇国)だの。設定はもったいないので、そのままどこかで転用するかもしれません(貧乏性) なので、もしこれからの作品にその辺りの地名が出てきたら、「ああ、王子のご先祖か~」とか、「里奈の子孫か~」ぐらいに思っていただければ。
次作(今、同時期に発表しているものを除いて)は、1月の半ばごろから。まだまだ書き始めなので、もう少しストック原稿ができてからの投稿になると思います。(『きっとこれが、運命の……恋!?』と違って、異世界転移!!と最初から叫べるお話)
それまで、年末年始というなにかと忙しい時期をはさみますが、皆さま、体調にお気をつけてお過ごしくださいませ。(いもあん。は、年末年始の仕事+家事で死にます。グフッ)
では、次作でお会いできることを楽しみにして。
令和元年 12月19日 いもあん。




