他人(ヒト)の身体で、勝手に結婚するってのはアリですか!? 再び。 【1】
「ヴァイセンの大使!?」
その単語に、私は軽く驚いた。
「ああ。今度、各国の大使を迎えて歓迎の催しが行われるのだが…」
説明してくれる王子の声もやや硬い。
「そのなかに、ヴァイセンも大使を送ってくる。そう報告があった」
むむう。思わず私も顔をしかめてしまう。
だって、ヴァイセンって。あのヴァイセンでしょ!?
「大丈夫なの!?」
私を、セフィア姫をさらおうと、画策したかもしれないような国だよ!?
数ヶ月前、私は、こちらの世界の姫、セフィア・ブランシュ・ルティナリア姫と身体を入れ替えるという、とんでもない目に遭った。
セフィアは、和平交渉の一端として、この目の前にいる王子、ヴィルフリートとの結婚が決まっていた。そこに、私が中身入れ替わって、結婚という、まあ、ありえない事態に巻き込まれたんだけど。
その時、遭遇したのが、「セフィア姫誘拐未遂事件」。
ドコの誰が首謀者かわかんないけど、とにかく、私が中身になっている時に、セフィア姫は誘拐されかけた。幸い、王子が助けに来てくれたから、問題なく過ぎたけど。
あの時、超怖かったことは忘れていない。王子がいなかったら、私、どうなっていたか、わかんないもん。
で。その誘拐に関して、首謀者として、怪しさナンバーワンなのが、ヴァイセンって国。このローレンシア王国の北東にある新興国。ただいま絶賛勢力拡大中。
そもそも、王子とセフィア姫が結婚することになったのも、この国と姫の故国、共通の敵であるヴァイセンに対して共同戦線を張るためだよね。
そんないわくつきの国の大使。ホントに大丈夫なのかな。
「まあ、公の場所で何かがあるとは考えにくいから、大丈夫だと思うが」
王子の言葉が濁る。
そりゃそうだ。
私より、もしかすると王子の方が驚いているのかもしれない。
「オレたちの結婚の祝いも兼ねての訪問なんだ。無下にすることは出来ないだろう」
そう。
この各国の大使が集まる理由。
それは、王子のお父さん、今の国王さまの引退宣言と、王子と私の結婚祝い。その両方のために各国が使者を送ってくるというものなのよね。
王子が(セフィア姫時代も含めて)、結婚して半年過ぎたのを機に、王さまが突然、引退宣言をした。
息子、王太子も妻を得て落ち着いた。政治に関しても、十分な知識と経験を持っている。これなら、次期国王として国政を任せることも出来よう。
ということで、ワシ、引退するわ宣言。
王子の誕生日、8月に王位を譲ると言い出したのだ。
おーい、いきなり過ぎだよ。
当然だけど、王子をはじめ、みんな寝耳に水状態で、私も聞いた時、「へっ!?」となった。
そんな、部活かなんかを辞めるみたいに、アッサリと言われても。
今、王宮内は、上へ下への大騒ぎとなってる。
現在5月。あと三ヶ月しか準備の時間に余裕がない。
そこへ、この引退を聞きつけた諸国が、先王となる王さまと、新王となる王子へ表敬訪問したいと言い出したのだから……。王宮内の忙しさ、推して知るべし。
「まあ、ヴァイセンがどういう腹づもりなのかは、大使に会えばわかるだろう」
それもそうか。
「それより…だ。お前、また逃げ出したんだって!?」
王子の声色が、一気にくだけた。
「クラインハルト嬢が嘆いてたぞ!? リナさまが、またいなくなったって」
「うっ……。それはぁ、その……」
指をモジモジさせて、あさっての方を見る。
「お前、将来の王妃としてふさわしいように、色々教えて欲しいって、彼女に頼んだんだろうが」
それを、自分から逃げ出すとは。
王子が、軽く責めるような口調になった。
「うん、まあ、そうなんだけど……」
言い訳もさせて欲しいな~っと思う。まあ、怒られるだろうけど。
「で!? 今日はなんの講義から逃げ出したんだ!?」
「……………歴史」
歴史の講義は、アデラだけでは行われない。ちゃんとした講師つきでの授業だった。
私は、このローレンシア王国だけじゃなく、世界全体の歴史を知らない。
王妃になる者として、これはさすがにマズいだろうとは思ってるんだよ!? 王妃としてがんばろうって思ってはいるの。思っては。
でもね…。
昼イチに歴史の授業は、カンベンしてほしい。
お腹いっぱいで、眠くて眠くて……。
それでなくても、勉強ってあまり得意じゃないから。
んで、授業の前に、ほんの少しだけ身体動かして目を覚まそうっ!!って思って、馬に乗りに行っちゃったんだけど。
それが、つい、楽しくって……。
目は覚めたんだけど、代わりに、授業に大遅刻となった。
だから、逃げ出したんじゃなく、遅刻しただけなんだけど。
この場合、こんな言い訳をしても意味ないので、そのままにしておく。実際、アデラにも講師役の大学の教授にも、迷惑をかけたのは本当だし。(しっかり大目玉を食らってる)
「まあ、お前がじっと授業を受けているっていうのも、何かの前触れみたいで気色悪いが…」
…それ、どういうイミよ。
「あんまりやらかすと、クラインハルト嬢がうるさいし、シルヴァンが落ち着かなくなるから、ほどほどにしてくれ」
「……うん」
「それとも…」
うなだれた私の顎を、クイッと王子が持ち上げた。
「代わりに、オレが歴史を教えてやろうか!?」
「うえっ!?」
「お前が、ちゃんと覚えたら、こうやってご褒美を…」
イキナリのキス。
「これなら、お前も逃げ出さないと思うが、どうだ!?」
…いや、どうだって聞かれても。
真っ赤になるしかないんだけどっ!?
抱きすくめられ、私の触り心地を確認するように、王子の手が背中を撫でる。
すぐ隣には、存在感タップリのビッグサイズの寝台。
「じゃあ、決定だな」
王子の声が、耳をくすぐる。
「ローレンシア皇国において、歴史の大転換となった騎士の反乱。この時の女王の名は!?」
問題を出す、王子の声はヒトをからかうようでいて、甘い雰囲気も込められている。
「うええっ!? あ、あの……、えっと……」
覚えたはずの出来事だけど、その声に、というか、王子の動きに、頭は全然まわらない。
だってっ!!
問題を出しながら、王子の口唇がっ!! 口唇がぁっ!!
耳たぶを食み、首筋から肩へ少しずつなぞるようにっっ!!
「アッ、アルッ……!! ひゃあぅっ!!」
答えなんか出るかぁっ!!
頭、真っ白だ。
「答えは、アルフレイア女王だ。ちゃんと覚えたか!?」
声も出なくなった私は、コクコクと頷くだけだ。今、口を開けば確実に、ヘンな声を上げてしまう。
「よし。いい子だ」
言って、深く口づけられる。
もう、勉強どころの騒ぎじゃない。クニャクニャになりそうな身体を、支えるだけで精一杯だ。
「じゃあ、次だな。その女王の行った施策についてだが……。どうした、リナ」
どうしたもこうしたもない。
真っ赤に、茹でたタコのようになった私を見て、王子が笑った。
「勉強は、まだ始まったばかりだぞ!?」
確信犯の、意地悪そうな目が光る。
はだけやすすぎなネグリジェの紐を解く。むき出しになってゆく肩から胸への肌を、味わうように口づけられて。時折、チュッと音を立てて吸い上げられる。
「…………ひぅっ!!」
…もうダメ。歴史なんてちっとも頭に入ってこない。
昼間、覚えたことも片っ端から忘れそうなほど、王子の歴史授業プレイは、夜遅くまで続けられた。
前作、『他人の身体で、勝手に結婚するってのはアリですか!?』に、たくさんのPV、ブクマ、評価をいただき、本当にありがとうございました。
最終話投稿後、とんでもなく伸びたPVとブクマに、ただただ驚き、「それならPVに感謝を込めて、後日譚でも書くべ」となったのですが。完結した物語の後日譚って、意外と難しい。
一番の問題は、遅筆な私ではなく、王子の行動かもしれない。うっかりすると、ノクタ送りになりそう…。そのあたり、監修してくれてる家族に聞きながら、おっかなびっくり書いてます。王子、いろいろ我慢してね。
あ。ちなみに、今作は、なろうが先行発表となります。
次回は、明日…かな!? 新作との兼ね合いで、不定期連載となりそうですが、ゴール目指してがんばります。ヨロシクお願いいたします。




