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5話 エルフを買った

「ご、ごめんなさい」


 謝るエルフ。

 当然だ。

 この世界には桜花病と呼ばれる特殊な病気があることを俺は知っている。


 罹患(りかん)すれば最終的には死んでしまいそれは周りに伝染するという恐怖の病だ。

 見た目としては桜の花びらが体に浮かび上がる。


桜花病(おうかびょう)………」


 俺も実物は初めて見た。

 なんせこうして罹患者(りかんしゃ)が歩いていることなど本来はありえないことだからだ。


「ごめんなさい………」


 涙を流して謝罪する彼女。

 そうして俺の家から出ていこうとするが慌てて立ち上がって止める。


「………とりあえずここにいろ」

「いいんですか?」

「いい。とりあえずここにいろ」


 こいつは俺の所有物じゃない。

 どんな判断を下すにしろジードの判断が必要だ。

 そして桜狩りと呼ばれる組織もあるのだ。


 桜のある者を捕まえ治療施設に連れていく組織。

 帰ってきた者がいるとは聞いたことがない。

 難病のため治療法が確立していないし研究も難航しているのだろう。

 そいつらに捕まってしまう可能性もある以上ここにいさせるしかない。


「………あ、あの?」


 恥ずかしそうに首を傾けると俺の顔を見るエルフ。

 顔は真っ赤に染まっていた。


「ん?」


 そういえばさっきから妙に柔らかい感触が手のひらにあった。

 下を見ると


「わ、悪い」

「い、いえ………」


 胸を触っていた。

 俺も慌てて止めたから後ろから抱きしめる形になっていた。

 勿論場所を選んでいる暇なんてなかった。


「不思議な感覚です。あなたに触られると凄くドキドキします」


 何故か隣のティナが不機嫌そうな顔をした。

 命は捨てられない。


「愛してるぞティナ」

「私もです。好き好きなのです」


 俺の体に横から抱きついてくる。

 またはぁはぁ言ってるが放っておこう。


「名乗っておくことにする。俺はディラン、よろしくな」


 そう言って手を差し出すと黙って手を取ってくるエルフ。


「私はエルです。よろしくお願いします」


 そう言って頭を下げてきた。

 可愛い少女だな。

 その後はティナの無駄話に付き合うことになった。



「おいおいおい………まじで病気持ちかよ………」

「言ったろ?」


 俺のところにやってきたジードは早速桜を確認して唖然としていた。


「ディラン話がある。表に出てくれ」


 エル達を残して俺たちは外に出た。


「あのエルフを買わないか?お前」

「は?」

「1区から来たエルフだとしても流石に桜持ちは使えん。買ってくれないか?あれだけの美人だ。満更でもないだろう?ちにみに俺は全く手を出していない。お前好みに調教も出来るぞ」


 ニヤニヤしているジード。

 根はかなりあれだなこいつも。

 だがまぁこのままではあいつは居場所を失うことになるのか。


「分かった。買うよ」

「そりゃ、どうも。金貨100だ」

「金貨100?!」


 こいつの提示した額は奴隷を買ってもこんなにいくことはないだろうと思える金額だった。

 目が飛出そうになった。


「俺の買った額の半値だぞ?十分だろそれにこれから毎日鼻血飛び出るほどの生活出来るって考えりゃ悪くねぇだろ?お前も男だものな」


 ふんふん鼻を鳴らしながら小突いてくるジード。

 桜に触れなければたしか感染しないという話も聞いたことがある。

 それに俺はあいつの体には既に何度も触れてしまっている。感染は………気にするだけもう無駄か。

 それに何もしていないあの子を狩りに引き渡すのも何か違うと思う。


「分かった。とりあえず買うよ。金は用意できたら返す」

「そりゃ、どうも」


 交渉成立だ。

 ジードはこれ以上関わりたくないと言わんばかりに帰ったので俺だけ再度家の中に戻る。


「ユミナ服余ってないか?」

「余ってますけど」

「それをエルにやってくれ」


 無言で頷くと立ち上がるユミナ。

 クローゼットから服を取り出すとエルに渡した。


「そんなボロボロじゃなくてそっち着ろよ。これから一緒に暮らすんだ。せめて見れる姿でいてくれ」

「は、はい」


 小さく頷きながらそう答えるエル。


「こ、これでいいでしょうか?」


 しばらく待っていると着替えてくれたエル。

 一般的なメイド服だ。


「似合うじゃん。可愛いよ」

「そ、そうですか?えへへ………」


 照れているのか少し恥ずかしそうにしている。

 それにしてもエルフのメイドか。

 俺はかなり貴重な奴を買ってしまったのかもしれない。


「ご主人様私は何をすればいいですか?」


 そして狙っているのかどうか分からないがエルは俺に近付いてきてそう口にした。


「誘ってるのか?」

「私はいつでも誘ってますけどー」


 ジト目でみてくるティナ。


「お前は昨日相手してやっただろ」

「364日24時間毎秒相手してくださーい」

「無理言うなよ」


 そう答えてエルに目をやった。


「とりあえずこれからの対応について考えようか。それとエル。お前は俺が買い取った。もう奴隷にならなくていいぞ」


 そう言うとジワリと彼女の瞳に涙が浮かんだ。


「ヒック………あ、ありがとうございます。………でも、どうして私なんかのために………?」

「困ってるんなら助けたかった。それだけだ。病気も桜の花びらに触れなければ移らないらしいしな」

「でも………私は何も返せないです………お金も何も………」

「そんなに泣くなって。俺がやりたくてやった事だ。別に気にするなよ。それにお前を金で買った男だぞ?」

「でも、助けてくださったのは事実ですから………」


 エルの手を掴むことにした。


「う、移りますよ?」

「移るなら昨日移ったはずだ。なら後何回繋いでも変わらん」


 もう繋いでしまったのだ。後何回繋ごうがどうでもいい。

 それにそんな簡単に移るなら昨日の段階で移っているだろうし。


「そう泣くなよ。飯でも食いに行こうぜ」


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