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10話 これからのこと

 家を探して買った俺達。

 安いのがあったのでそこにした。

 俺たちはここから更に上を目指すつもりだからそんなに使うつもりはなかった。


 だから安いものでいい。

 それにしても監獄時代に稼いだ分だけでも十分で良かった。


「やぁ。ディラン」

「アマレウスか何の用だ」


 道を歩いていたら彼に出会った。


「いや、3区はどうかなって聞きたくてね」

「悪くは無いな。監獄が悪すぎるのだが」

「それは失礼」


 一応悪くは思っているらしい。

 逆に気になることがあった。


「どうして監獄の支援はあんなに遅れてるんだ?あんたの口振りからするなら一応は支援しようとしてくれているんだろ?」

「………鋭いなディランは」


 俺を見てくるアマレウス。


「俺じゃなくても誰だって気付くだろ」

「私は気付きませんでした」


 ティナがそう口にした。


「私もです………どうしてそう思ったのか今も分かりません」


 エルもそんなことを言っている。

 逆になぜ分からないのか気になる程だ。


「どうしてなんですか?ディラン様」


 まさかユミナまでそんなことを言い出すとは思わなかった。

 人の話を聞いているのは俺だけなのだろうか。

 思わず溜め息を吐いた。


「俺が監獄の愚痴を言う度にアマレウスは一応悪びれている。ということは支援しようとしてはいるが何かの事情があって出来ない、ということだろう?」

「あ、そうなのですね」

「流石私のディランさんです」

「解説ありがとうございますディラン様」


 3人がそれぞれ礼を言ってきた。

 誰も気付かなかったらしいな。


「で、その障害ってのは何なんだ?」

「すまないがそこまで口に出せない」


 流石に話せることと話せないことがあるのか口を噤むアマレウスだった。

 だが分かっているのだろうか。それすらもヒントになってしまうこと。


 口にはしないが言えない何かの事情があるのことは今の会話で分かった。

 やはり、何かあるのだろう。


「それにこの事についても話すつもりはなかったんだけどね。何だか申し訳ないし、ディランが鋭すぎるんだよ」

「別に普通だろ」

「そうだ。1つ依頼を受けてくれないか?」


 話を変えるようにアマレウスが指を1本立てた。


「依頼?」

「あぁ。ここから少し行ったところに森があるのは知ってるかな?」

「知らないな」


 3区に来たのは初めてだ。知る訳もない。

 俺は何年もの間監獄にいたのだから。

 一応前は三区にいたこともあるが本当に随分前の話だし


「うん。なら説明するけどこの先に森があるんだ」


 そう言って指差すアマレウス。


「その森の奥に進むと廃墟になった研究所がある。そこの様子を見てきて欲しいんだ」

「………何故俺に、何のために」

「君を見定めるためだ。君に見込みがあるようなら私の補佐になってもらいたくて」


 確かにこの男のそばに居ると普通は知り得ないような情報にも手が届くかもしれないが。


「俺に見返りはあるのか?」


 この男は苦手だ。

 こう正統派の騎士様といった感じの見た目は本当に眩しい。

 何だか自分のような闇の中に堕ちてしまった人間からすれば一緒にいると酷く居心地は悪いだろう。


「あるとも。勿論報酬は出そう。働きに応じた報酬を出すのもまた雇い主の義務だよ」

「分かったよ。とりあえず見てくることにしよう。で、何を見てくればいい?」

「おかしければ見て分かるはずだ。何があったのかを報告してくれればいい」



 アマレウスと別れ俺たちは森の中に来た。


「薄気味悪いですー」


 ティナが俺の裾を掴んでくる。


「そうですね。少し怖いです」


 反対側の裾を掴むエル。

 ユミナだけは無言だった。

 そうして薄暗い森の中を歩いていたら辿り着いた研究所。

 最早研究所というより本当に廃墟だが。


「待て………」


 その歩みを止めて3人と共に木の影に隠れた。


「どうしたんですか?」

「人がいる」


 ティナの質問に答える。

 あれは………


「ローエン………?」


 見覚えがある。

 桜狩りをしていた奴だ。

 何故こんなところに。


 しばらく見ていたが静かにローエンは去っていった。

 苦手意識があるのかエルの体は震えていた。

 念の為注意しながら廃墟に近付く。

 特に何もなさそうだが。


「あ!見てください!ディランさん」


 俺を呼ぶティナ。


「なんなんだよ」

「これなんですか?」


 彼女の指さした先にそれはあった。


「黒爪………どうしてここに………」


 黒い爪がそこにはあった。

 でも………触るとパラパラと砕けた。

 随分古いもののようだ。


「こちらにもありますよディラン」


 次はエルがそんなことを言っていた。

 たしかにそっちにも黒い爪があった、がこちらも古い。


「………監獄以外にもあの化け物がいるのだろうか」


 それは分からないがとにかくここに黒い爪があるのは確かだ。


「グルゥ………」


 その時だった。

 背後で低い呻き声が上がった。


「グールか」


 そこには人を食う鬼グールがいた。


「ガァっ!」

「遅い」


 首にナイフを突き立てて始末する。

 それだけだ。

 パタリと音を立てて地に倒れるグールの死体。


「とりあえず異常なものは見つかったな」


 そう呟いて立ち上がると皆の顔を見回した。


「アマレウスに報告しよう」




 アマレウスに指示されていた建物までやってきた。

 扉を3回特殊なタイミングでノックすると中から髭面の親父が出てきた。


「ディラン様ですか。ルシフェルス卿より要件は聞いております。こちらへ」


 そう言って俺を案内する。


「何ともまぁ警戒心の強いお方だな」

「貴族はいつ命を狙われてもおかしくはありませんからね。さぁ着きました」


 入口から入り裏口から出て何軒も何軒も空き家を素通りして辿り着いた部屋。


「やぁ、ディラン。早かったね」


 そこにアマレウスはいた。


「失礼します」


 男は外に出ていった。


「結論から話す。変わったものはあった」

「何があった?」

「黒い爪。それから桜狩りがいた」

「桜狩りではなく『桜花病対策特別部隊』だよね?」


 正式名称はそんな感じだった気がするがいちいち覚えていない。


「何よりあんな連行の仕方見てると桜狩りとしか言いたくなくなるが」

「それはたしかに」


 現状に問題を感じているのか苦笑いする。

 しかし真顔に戻り彼はこう聞いてきた。


「君は桜狩りについてはどう思う?」

「あんたがその呼び方を使用するってことはあんたも何か感じることはあるのか?」


 コクリと頷くアマレウス。


「君に行ってもらった研究所はかつて桜花病を研究していた場所だ」

「へー。そうなんだな」


 一応素っ気なく答えておく。

 こいつが信頼出来る人間かどうかはもう少し見定めたい。


「そういえば桜花病に関しては俺も思うところがある。致死率100%とは聞くがどんな風に死ぬんだ?俺は桜花病で死んだやつを見たことがない」

「君も疑問に思うか?私もだ。気付けば桜花病にかかれば死ぬという噂だけが出回っていた。話の出処は宮廷医療師だから信憑性はあるとは思うのだがな………」


 歯切れの悪いアマレウス。


「率直に伝えると私は今のこのリーヴァスの現状を良くは思っていないし変えたいと思っている。それは桜花病の件に関してもそうだ」


 俺を見る彼の目に偽りはなさそうだ。


「君とは良い関係になれそうだと現状考えている。いきなり補佐としての登用は無理だが、協力してもらえないだろうか?」

「具体的に何をすればいい?」

「君の地位をあげて欲しい。いきなり私が無名のしかも4区から来た人間を登用するのであれば疑惑の目は免れないのでな。裏があると思われてしまう」


 1つ思うことがある。


「ならこうして今会って話しているところを見られただけであんたとしては危ないんじゃないのか?」

「本当はね。君との関係はあの時に終わったはずだから。だが逆に言うと会って話す程度ならあの時に繋がりが出来たと言ってしまうこともできる。それから君は名前を上げた。実績があるのなら私が傍においても不思議ではなくなる」


 要は見方ってことか。なるほどな。


「おっと、すまないな。今の話は具体的ではなかった」


 そう言って謝ると瞬きの後また口を開く。


「少し先の話になるがモンスターの討伐作戦が行われる。そこで君の名前を上げて欲しい。上げてくれたのならば私は君と話をし2区………上層への切符を渡すことも出来る」

「2区に上がれるのか?」

「勿論。君は既に3区の人間だ。全体的に見て監獄から3区への移住が現状は最も厳しいだろう。その偉業を君は成し遂げた。これからの区画間移動はそれと比べればまだましだろう」


 それなら都合がいいな。

 とりあえずのところは答えを返しておこう。


「分かった。とりあえず俺はあんたに協力することにする」

「それは有難い」


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