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祝福の後

サブタイトルを変えました。

頑張って更新します

 セイトの街一番のレストランは本日貸し切りになっている。


 テーブルについているのは王弟ギム、大司教ハウロ。同じテーブルの脇にこっそりセイト聖堂の司祭が座っている。司祭の顔色は悪く脂汗が滲んでいる。


『どうしてアラン夫婦は王都の大聖堂で5歳の祝福をしなかったんだ!おかげで私がこんな目に遭って!』

と司祭は心の中で叫び声を上げた。


『だいたい司祭風情が大司教と同じ食卓なんておかしいだろ?誰だ!この街の者も同席しなければなんて言い出した奴は?そしてどうして私なのだ?他にいるだろ?偉い人はいくらでも』


 司祭の胆がもう少し据わっていれば、これは出世のチャンスとばかりに張りきったのかもしれないが、彼は壁際に並ぶ護衛の視線を浴びて身を縮めているのが精一杯だ。さっきから胃がキリキリと痛い。

 もっとも彼は人畜無害で口が堅くて穏やかと定評があるからこそ同席が許されている。ここでの話を外部に漏らしそうな、或いは(はかりごと)を起こしそうな輩ではないという信用があるということだ。


 そんな司祭を脇に置き、王弟と大司教は豪華な食事を楽しみながら会話している。


「『勇者』の祝福を告げたので教会側も注目しております。できれば教会騎士団に欲しいですな。王宮からの連絡はどのように?」


「第一王子の婚約者にするのは諦めたようですね。第一王子には隣国の姫が迎えられます。セイが生まれたために姫の婚約を引き延ばされていたのですから隣国はホッとしているでしょうな」


「ほう、で?」


「第二王子が先月5歳の祝福を受けました。祝福を告げたのは大司教でしたな?」


 大司教は思わず口にしていたスープでむせそうになる。確かにひと月前、第二王子の祝福を行った。王の位を継ぐ第一王子の時のように仰々しい儀式ではなかったが、それなりに注目されていた。

 

 教会の組織内で修行している者たちを修道士、修道女と呼ぶ。その中で祝福を降ろす能力が認められると司祭や巫女の職に就ける。そのうえで組織の運営力を持つものが司教に昇格する。その司教たちの取りまとめをするのが大司教。だから大司教は威厳のある役職だ。


 大司教は回想する。


 祝福の言葉を降ろすときには一種のトランス状態になる。自分で発言をコントロールできない。意識はある。記憶もしっかり残る。祝福が降りてくると同時に自分の意志に係わらず発声してしまう。だから嘘を言うことも、ごまかしや取り繕うこともできない。そのため身分のある家に生まれた子の祝福はとても緊張する。


 第一王子の時は、前任の大司教が祝福を告げた。『眉目秀麗』という祝福だった。

『それも王族としては必要な要素だ』

と納得してもらえた。確かに美しい王子だ。王の第一子で王妃の子。いずれ王になる立場にある。

『もっと王に相応しい祝福をよこせ、何かあるだろう?』

などと文句をつけられても困る。祝福とはそういうものだ。

 頭も良く健康な王子に容姿の美しさの祝福が与えられたのだから、第一王子の祝福は『当たり』であったと当時は皆が納得した。


 第二王子はやんちゃな子どもだ。王妃の侍女が生んだ子だ。侍女は第二王子を生んだ後、母君と呼ばれているが、王妃の侍女のままだ。母君は我が子を臣下に降ろしてほしいと願っているとの噂だ。第二王子は近衛騎士に可愛がられて剣技を教わっている。なかなかのものだと聞く。しかも聖なる魔力も発現していて簡単な回復魔法を使えるらしい。そんな情報があったので祝福の儀式の前にはあまり心配をしていなかった。剣か魔法かそのあたりの才能を祝福されるだろうと皆が予想していたからだ。しかし甘かった。祝福というものはいつでも期待を裏切る。もう二度とあんな発言はしたくない。似たような祝福が第一王子にも降りていればまだよかったのに。


 第二王子の母君だけならともかく王や王妃の御前であの発言。『祝福』でなければ懲罰ものだったと思う。5歳の子どもでは受け止められないだろう?祝福を受けた第二王子がしばらくぽかんとしてその後私に言葉の意味を聞いてきた。本当に困った。答えられなかった。出席していた王弟が場を納めてくれたから助かった。


『たくさん勉強なさい、そうすればおのずと理解できましょう』

王弟がそう言うと第二王子は

『はい』

と元気よく返事をしていた。利発な子だ




「それにしてもなあ、5歳の子どもに向かって『絶倫』って、あはははは。で、それを王妃の前で叫ぶ大司教。あそこでオロオロするから罰ゲームみたいになったんだって。頭に『精力』って付いたわけじゃないんだし」


「ば!、な!、その件は極秘扱いですよ!司祭!他言無用です!」


笑っている王弟の対して大司教は顔を真っ赤にし裏返った声で慌てている、脇に居る司祭は顔色をさらに悪くして首振り人形のようにコクコクと頷いた。


「王家でも『勇者』は欲しい。第一王子の婚約者は隣国の姫に決定。だから俺の婚約者にしないかって兄王に言われたが断ったよ。たしかに俺も独身だが5歳じゃな。育つまで待っていたら爺さんになっちまう。第二王子の婚約者に収まってくれると助かるな。『勇者』なら『絶倫』も受け止められるさ。うはははは」


 王弟は大司教があわてふためく様子が面白いらしく、話を下ネタっぽく誘導して大笑いしている。言葉が乱れているのは酒が入っているせいか。


 一方、王家の秘密を聞いてしまった司祭は一心不乱に経典の一節を暗唱していた。




 翌日、王弟ギルはアランに対しセイを王都に連れて来るように命じた。

「勇者セイが王命を賜る日時と場所は改めて書簡にて通知する。王宮騎士団大隊長クリフ・ドロー、王宮魔術師ベス、両名に勇者セイの護衛を申し付ける。」

王弟ギルはよくとおる声でそう言ったあと、アランの近くに来て小声で言う

「クリフとベスを護衛に付けた意味を察してくれ。セイを取り上げたりはしない。王都でも当面は親子で暮らせるよう計らう。」

それだけ言うと王弟は帰っていった。


「つまり、逃がすなと命令された訳なの?」

ベスがそうつぶやくと、クリフはゆっくり頷いた。



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