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5歳の祝福1

2話目です


2019/10/09 本文を差し替えました

 セイトの街近くの森にセイは暮らしている。


 セイが1歳になる前のことだ。イリアはセイを背負ってセイトの街へ買い物に出ることにした。普通の人だと森の家から街に着くまでには一日にか二日かかる距離だが、アランもイリアも5時間あれば充分だ。


 森から外に出るために深い谷を越える。具体的には崖に沿った細い道を下って谷川の浅瀬を渡り向こう岸の崖を登って草原にでる。ちなみに道はイリアが魔法で削りアランが固めて作った。谷を越えたら草原を延々と歩けば街に着く。


 家を出て谷に向かおうとするとセイが泣き出した。乳は飲んだばかり。オムツを調べても濡れていない。ひょっとして衣類の中に虫でも入ったかと思ったイリアは一旦家に帰ることにした。着替えさせるのに森は危険だ。引き返す途中で泣き止んだ。着替えなくても良いのかと谷に向かえば泣きだす。結局家に帰りセイの衣類を改めたが異常はなかった。その日は街に行くのを諦めた。


 翌日改めて家を出た。谷に着いたところで崖崩れを発見した。昨日崖を下っていれば巻き込まれていたかもしれない。


 道はイリアの魔法で復旧させた。その後は崖崩れに巻き込まれないよう地盤の緩みがないか慎重に調べながら歩くことにしている。





 セイは3歳の頃からアラン父さんに刃物の使い方を教わり、イリア母さんから魔力の使い方を教わった。森には他に人は住んでいないので一緒に遊ぶ友達もいない。だからセイ両親からは学ぶこと以外にすることがない。


 セイの吸収する速度はすさまじく、二年の間にナイフも包丁も針も(のみ)(かんな)も斧も、ついでに剣も一通り扱えるようになってしまった。母さんから教わった魔力の使い方も基本は全部覚えた。


 セイが身体強化をして斧を振るったところ、一振りで木を一本伐採できた。直径10cm程のリンゴの木だった。アランとイリアが結婚してこの森に家を建てた時の記念に植えた木だった。ようやく花が咲くようになったばかりで実るのを楽しみにしていた。だからセイに伐採されたことは少し悲しかった。悪気はないので叱るわけにもいかず

「伐採してもいいか、聞いてからにしてね」

と注意だけはしておいた。


 セイが5歳になったのでアランとイリアはセイトの街にある聖堂にセイを連れてきた。


 5歳の祝福を授けてもらうためだ。


 祝福を受けた者は身分証を作ってもらうことが出来る。作るにはお金がかかるが、あれば便利なものだ。


 アランが5歳の祝福を授かった時は母親のマリが礼拝のついでに司祭に頼んだ。町に住む一般の人々はたいていそんなものだ。5歳の祝福は子どもを育てるうえでの参考にする程度のものだと思われている。アランの祝福は『刃物の才』というざっくりしたものだった。剣技の才だったわけでもないのに騎士団に入団できたのは彼の努力と情熱があったからだ。


 祝福は必ずしも職業に関係ありそうなものを授かるわけでもない。『大食』とか『おしゃべり』などの祝福を授かることはよくあることで『健康』や『器用』の祝福が授かれば当たりの部類だ。


 イリアの場合は誕生日が不明だったので祝福を授かるタイミングが解らなかった。夕食のお祈りをしていたら頭の中に祝福が授かったのが聞こえたという。孤児院に巫女の才能を持つ子どもがいてイリアの祝福を受信してしまい『イリアは魔術の才を祝福された』と叫んだのだということだ。

 



 

 セイはアランとイリアに手を引かれてセイトの聖堂に入った。親子はこの日のために用意した新しい服を身に着けている。平民が儀式のときに着用する類の服だ。彼らを案内するのは若い巫女。質素な白い法衣を着ている。祭壇の傍らには大司教ハウロが儀式の準備を整えて待っている。銀糸で刺繍した上等な白い法衣を着ている。ハウロは今回の祝福に合わせて王都の大聖堂から派遣されたのだ。通常ならばセイト聖堂の司祭が儀式を行うものなのだが今日は脇に控えている。


 祭壇の手前でイリアはセイを抱いて(ひざまず)く。隣でアランが跪いた。


 親子の後ろには仰々しい椅子が用意されていて、そこには煌びやかな衣装に身を包んだ男が座っている。男はこの国の王弟だ。彼がここにいるのはセイが授かる祝福に王家が注目しているから。情報を早く正確に王宮に伝えるためにやってきた。彼の周りには護衛が控えている。目つきが鋭く精鋭といった感じがする者達だ。


 アランの両親もセイの祝福に立ち会いたくて聖堂に来ているのだが王弟一行が前の席を占領してしまったために後ろの席でひっそりしている。一番いい席で孫を見ることが出来ない祖父母はちょっと()ねた目線を向けている。ただ目線を強くすると護衛に感づかれそうな気がしてほどほどにしている。


 

 親子を案内していたのとは別の巫女が大司教に向かって盆をささげた。大司教の法衣から見れば二段階くらい格落ちする法衣にみえる。上等な生地を使っているが白い刺繍の模様も簡素だ。

盆の上には聖水の入った器と常緑樹の小枝を束ねたものが乗っている。大司教ハウロは経典の一節を口にしながら束ねた枝の青い葉っぱを聖水に浸し、聖水の(しずく)をセイに向けて振りまいた。


 とたんに祭壇が青く発光する。そしてその光は少しずつセイに向かって流れ込んでいくように見えた。儀式に参加している人々は息を呑んだ。5歳の祝福の儀式は誰でも経験するものだが、こんなにも派手なエフェクトを伴うことなどまず無いからだ。祝福はセイの頭の中に響き、それを『巫女』や『司祭』が受信した。大司教ハウロと盆を捧げる巫女、セイト聖堂の司祭の3人は同時に叫んだ。


「勇者であるセイは、やがてこの世界を救うことでしょう」





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