アメリカへ。
(愛、私の気持ちを断らないでほしい・・・良い返事を待ってる・・)
ハンソングループ会長は、そう私に言い残してオックスフォードを後にした。
会長の気持ちは私にとってかなり重い。だけど、どこか心の中でその気持ちに答えたいというものがあるのも事実だ。 だけど、会長の気持ちに従ってしまったら日本には当分の間、帰国できない。
アメリカから帰国して秋田に戻ればあと一年半で卒業だ。そのとき私は22歳。 それからまた医大へ入学して・・なんて、終るころには20代後半になる。 祖母も高齢だし、これ以上、私のために負担をかけさせたくない。
オックスフォード大学もあとわずかで短期留学を終える。 ニューヨークに戻ったら、シャロンにも感謝の気持ちを伝えたいし、エリカともルミエラ大学での寮生活も終えなければならない。
ここは自分の気持ちをキチンと整理してやはり断るべきだろう。
一か月後・・・・
オックスフォード大学、短期留学も2か月延長の8か月で終了を迎えた。 テロ事件で負傷した足も劇的な回復を見せてくれて、車イス、杖なしでも歩行が出来るまでになった。 これも、ミアの介助があったからこそだ。
イギリスを離れるまでに、ミアには絶対に会わなければ・・・
クララにもわずかな期間だったけど、仲良くしてくれて本当に助かった。香港民主化運動に参加したことはある意味、私にとっても貴重な体験だった。
(愛、アメリカに帰るんだね・・・)
ガレッジ内のカフェでクララと最後のティータイムだ。
(クララと過ごした時間は本当に楽しかった。絶対に忘れないよ。)
ポロポロと涙を流しながら私を見つめる姿は、まだ少女のようだ。もう会えなくなるみたいで私もとても寂しい・・・
ルミエラ大学の留学担当の先生も来て、アメリカ帰国への手続きだ。 オックスフォード大学も最後の日になった。
(ニューヨークに戻ったらすぐに日本に帰国だけど、ほんと、よく頑張った。ハラハラすることも多かったけど。笑)
(先生、帰国するまえに、入院した病院に寄りたいんですけど。)
(いいわよ。一緒に行ってあげる。)
(愛ーーー!)
ソンファが走ってきた。
(ソンファ! どうしたの?)
(もう!どうしたの?じゃないでしょ? 私を忘れてなぁい?)
(今、ソンファに会いにいこうと思ってたのよ。)
(ほんとなの?)
(本当よ。笑。もうビックリしたじゃない・・)
正直、言って、ソンファのことはすっかりと忘れていた。
オックスフォードでの8か月間、実に色々な出来事があった。でも私なりに乗り越えて来たつもりだ。英語の会話力もニューヨークにいたときから比べると格段に進歩もした。英字新聞も難なく読めるようになったのも私にとって奇跡に近い。 エリカと初めてケネディ空港で出会ったとき、まったく話せなかったのが今ではイギリス英語まで話せるようになった。
ここまで来るには私一人の力では絶対に無理だ。 エリカ、シャロンなどたくさんの人に支えられてきたからだ。そのことは私は絶対に忘れてはいけない。
(愛、オックスフォードで過ごした時間は決して忘れないでくれ。日本に帰国しても私たちのことは忘れないでくれよ。)
理事長からも最後の言葉だ。チュートリアルの先生たちも来てくれた・・・・
(日本に帰ってもオックスフォードは、愛を見守ってるから。)
私は泣かない・・・絶対に涙はみせない・・・・
だけど・・・
先生たちが水たまりの中にいるみたいでよく見えない・・・
私は、イギリス生活を終えた。




