ソンファとの出会い
クララが言う、(香港民主化運動)とは何なの?と、大学の講師に聞いてみた。すると、香港は1997年にイギリスから中国に返還されたが、そのときに(一国二制度)というものを設け、香港は、表現の自由や資本主義経済などが保障され、独自の法制度や国境を有する特別行政区となってる。
だが、中国政府に批判的な容疑者が中国政府に捕まりやすくなる「逃亡犯条例 改定案」が香港で成立しそうだったので、香港人の不満が爆発して大規模な反政府デモが起きた・・・
香港の人たちにとっては、それが危機的状況なのだろう。だから大勢の人が集まり猛烈に反対をしているのかもしれない。だけど、ちょっと危険なデモのような感じもするけど・・・・
(クララ、一人で大丈夫なの?)
(向こうにはSNSで知り合った仲間もいるから大丈夫よ。現地で合流する約束もしたし。)
(でも、映像で見る限り、ちょっと危ないんじゃ・・・)
(一週間くらいだから・・・無事に帰ってくるよ。笑)
一週間なんて短いようだけど、毎日、会っていた人がいなくなりその人が戻らなくなったら・・・
クララのことがすごく心配になって来た。 知り合いに会うとはいえ、それはあくまでもネットでの話で現地では初対面だ。それにSNSってどんな人間が紛れ込んでるのかも分かりやしない。
こんなとき私はどうしたらいいんだろう・・・ クララがデモで大けがをして・・なんて考えただけで怖くなる。 一つ、賭けに出てみた。
大学側に一週間、休暇の申請をしてクララに付き添い一緒に香港に行く、その理由は一人だと危険なこと、現地で私と一緒なら安心だし万が一、何かあったら大学に連絡をして即、帰ってくる・・・そしてアメリカのルミエラ大学、秋田国際大学にもその旨を伝えて許可を得る・・・
果たして、私の願いは叶うだろうか・・・
オックスフォード大学、ルミエラ大学、秋田国際大学と、すべて(NO!)。
(あなたね・・・そんな体で香港まで行って死んで帰ってくるの?絶対に認められない!!!)
これがオックスフォード大学の回答だ。
(愛・・ダメよ。体がまだ本当じゃないし、なんでデモに参加するの?ダメよ、絶対ダメ!!)
(月岡さん、イギリスで散々な目に遭ってるじゃない・・・香港なんて絶対ダメよ。大学も認めない!!)
ルミエラ大学も秋田国際大学も、絶対にダメ!という回答だった。
困った・・・ほんとに困った。 秋田にいたときは(糸魚川火災)のとき理事長が許可をくれて支援にいけたが、ここではそうはいかない。 しかし、クララを一人で行かせるわけにはいかない。何とかならないか・・・・
大学側が認めないのも無理はない。私が健常者ならまだ考えの余地はあるが、なんせまだ車イスの身だ。現地で警察や機動隊と衝突になったとき逃げるにも逃げれないしそれに警棒などで叩かれ、車イスが倒れてコンクリートや瓦礫にでも当たったりしたら怪我どこでは済まないかもしれない。
今日のカフェには、クララがいない。出発の準備だろうか、時間がない・・・クララが香港に行ってしまう。
(どうしたの? 困ったことでもある?)
(?)
(日本の子よね? 何かあったの?)
(はい、そうです。あの・ちょっと急ぎで困ったことが・・・)
日本人らしき女の子が話しかけてきた。私は事の詳細を伝えた。
(どうなるかはまだ分からないけど、チュートリアルで先生に相談してみたら?)
(チュートリアル?)
オックスフォード大学には教育の一環として(チュートリアル)という個別指導がある。毎週、大学で学んだことについて論文を書き、チューターと呼ばれる教授と1対1で議論しなくてはならない。その議論が生徒への批判が容赦なく降りかかるもので、生徒からも恐怖の時間として恐れられている。
チュートリアルには必ず出席しなければならず、もしチュートリアルをちゃんとした理由もなく欠席すると厳しく叱責され、最悪の場合、退学にもなりうる。 でも、この(チュートリアル)のおかげでいやでも学問が身に着くそうだ。しかし、そんな恐怖の時間でしかチャンスはない。
幸いにも私はこの(チュートリアル)がオックスフォードに来て今日、初めてある。これが最後のチャンスかもしれない。私はこの(チュートリアル)に賭けてみた。もし、これでダメなら私の香港行きはSTOPだ。
(あの・・・日本のどちらから留学なんですか?)
(私、日本人じゃないよ。笑。)
(え? 日本の人じゃないの?)
(そう。韓国。正確にいうと北朝鮮よ。)
(北朝鮮っていうと・・・あの北朝鮮??)
(笑。そうよ。今は韓国の籍だけどね。早い話が脱北者)
ひゃぁ・・驚いた。まさか韓国、いや北朝鮮の人がいるなんて・・・
(でも、日本語がすごいじゃない?私、てっきり日本から留学に来ている人かと思った。)
(私、日本って国が好きなの。まだ行ったことないんだけどね。だから日本語だけは話せるようにしたいの。)
(私は、愛。月岡 愛です。)
(私は、ソンファ。韓国人よ。フフフ・・)
ソンファとの出会いで、私の香港行きは現実となった。




