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9 そのエストック、折れてます

 今回の騒動、そもそも始まりは、害獣が出たことから、その退治で報酬を貰うというものだった。

 ロビンが一人で解決できないから、俺に助けを求めて俺が解決してあげたという結末だったはず。

 確かに俺は、心が狭かったけど、ロビンの要求に応えるべく、その見返りを要求していた訳です。

 その要求とは、俺に剣を買ってくれというものでした。

 なぜかというと、いつかこの町を出て布教するときに、少しでも生き残る確率を上げるために、魔法だけではなく剣術も身に着けておきたかった訳で。


 剣といっても、練習用の剣でもいい訳で、できれば、弱い魔獣くらいは退治できるだけのスペックがあれば最高だった訳です。


 という訳で、俺はロビンと一緒に武具店に来ています。

 俺はもちろん初めてだけど、多分ロビンも初めてこういう店に入ったんじゃないかな。



 3歳児、間もなく4歳になるといっても、小さい子供には変わりのない年齢の男の子が一人でお金をもって来たとしても、何も売ってくれないことは分かっています。

そのために、ロビンと約束をして、買いに来たのです。


「お嬢ちゃん、シスターだろ。何が欲しくてここに来ている訳」

 強面でスキンヘッドのおじさんがロビンに語り掛ける。

 当然俺のことは無視だ。


「な、何か武器はないかと思って」

「何かって、ここは武器を売っている店なんだけど」

 強面の店主にロビンが頑張って返事をしているのに、それをぶち壊すような発言。

「何かって、掘り出し物があれば最高なんですが、安くて使い勝手の良い武器はないのかなと思っているんですが」

 俺が口をはさむ。


「小僧、安い武器ならあるが、使い勝手の良い武器なんてものはこの世にある訳ないだろ。自分で何とか使えるようにするだけなのさ。ただ、掘り出し物はあるさな」

 ハゲ…もとい、スキンヘッドのおじさんが武器の哲学を語る。


「じゃあ、おじさん、安い武器はどこにあるの」

「俺はおじさんじゃねえ。まだ25だ。この頭はハゲじゃねえ。ただのファッションだ」

 おじさんは、俺が何も言っていないうちに弁解をした。

 心の声も聞こえるらしい。


「お兄さん、僕らでも買えそうな武器はどこに置いているの」

「最初っからそう言えよ。そこの樽に刺さっているのが掘り出し物だ」


 俺とロビンは、一応掘り出し物の入っている樽から、一本一本取り出して、俺が使えそうな剣を探した。


「これなんかはどうかな」

 俺は一本の折れた剣を持ってみた。

「それ、折れてて価値なさそう」

 ロビンが眉をひそめる。

「それは先が折れたエストックだな。普通は折れたら溶かしてしまうんだが、モノが良すぎて溶かすのがもったいなくてな。逆に、剣先を研ぎなおすのに手間と金が掛かりすぎるし、研ぎ直したとしても短くなってエストックの良さが消えてしまうし、と半端もので処分に困ってそこに入れていた、直して使える奴から見たら一応掘り出し物だな」

「ほら、お店の人もそう言ってるし、別なものを探したら」

 ロビンがアドバイスするが、俺はこれでもいいかな、と思った。

 なぜなら、俺はまだ小さく、短いものでも特に問題はなく、何よりも安くて丈夫なら、練習にガンガン使えそうだと思ったのだ。

 流石の俺もまだ魔物狩りに行くほど勇気と準備が足りないのだ。


「ところでお兄さん、これはいくらになるの」

 俺が質問したと同時に、店のドアが開いた。


「いらっしゃいませ、ああ、これはローウェル様、今日は何をご所望で」

 俺達とは全く違う対応をする店主。

「おおハンマー、元気そうだな。いつも通り、つるはしを50本貰おうか。それにしてもお前のところは儲かっているようだな。お前の頭がいつもより輝いて見えるわい」

「いえいえ、ローウェル様程儲かってはおりません。私なんぞは、まだ髪も生え揃っていない若輩者でありまして。ハハハ」

「なかなか面白い冗談を言うじゃないか。じゃあその禿げ頭とつるはしを今日の夕方か明日の朝までに現場まで持ってきてくれ。金はその時でいいな」

「ありがとうございます」

 そう言って『ローウェル様』と呼ばれた男はすぐに帰って行った。

 あっさりとつるはしの注文を受けた店主だが、ここは武器を置いている店じゃなかったのか。


「お前たち、今日は店仕舞いだ。さっさと帰ってくれ」

「まだ買っていないんだけど」

 俺は不満を言う。

「これから山のふもとまでつるはしを届けなきゃならないんだ。とてもじゃないが時間が足りない」

 俺は閃いた。

「じゃあお兄さん、つるはしを僕が届けるから、この掘り出し物をちょうだいよ」

「その半端ものなら、別にタダでもいいが、お前が届けられる訳ないだろ。つるはしをネコババするつもりなのか」

 胡散臭そうに俺を見る店主。

「僕はさっきの人の現場知らないから一緒に来て下さい。そうすれば、僕がネコババすることはできないでしょ」

「この子なら、大丈夫今日中に余裕で山のふもとまで届けられると思いますよ」

 ロビンが俺のアシストをする。


「本当かい。お試しに一回雇ってやる。失敗したらシスターの姉ちゃん、どうにかしろよ。報酬はそのエストックでいいんだな」



 ローウェルの現場までは、あっさり1時間ほどで到着した。

 もちろんつるはし込みで。

 最初につるはし50本を積んだそりを見たときは、ちょっとビビったが、いざ運んでみると、俺には大したことなく運べた。

「いやあ、お前はすごいな」

 店主のハンマーが簡単にそりを引いている俺を見て感嘆の声を上げる。

 俺からすると、本当に大したことはない。

 そりと地面の摩擦を、まっすぐ進む分だけ極力削っているだけなのだ。

 細かい制御さえできれば、それほど魔力は必要ない。

「いやあ、それほどでもありませんよ。でもこれで、信じて貰えましたよね」

「そりゃ、ここまで運んで貰って、信じるも信じないもないだろ。俺もそこそこ運べる方だが、これだけの量だと一日がかりになってしまうからな」



「サンダーソン様、ローウェル様に頼まれたつるはしを持ってきました」

 店主は現場監督らしい男に話し掛けた。

「ハンマーか。ローウェル様は、今朝注文に出かけたばかりだったが、ずいぶん早いな」

「そりゃ、ローウェル様のご注文とあれば、最優先で当たらせて貰っております」

 もみ手をする勢いでゴマをする店主。


「助かった。つるはしが足りなくて、今日一日鉱夫を遊ばせてしまうところだった。せっかくだから、お昼を食べて行かないか」

 気さくに誘う現場監督。


「いえ、遠慮させていただきます」

「僕おなか空いた」

 俺は空気を読まないのだ。

 俺とロビンが食べる分くらい、大した量じゃないだろう。

 遠くまで来た俺たちは、教会でお昼を食べられないのだ。

 俺の都合で、ロビンを昼飯抜きにするのは忍びない。


「いいじゃないか、食べてから帰れよ」

「サンダーソン様がそうおっしゃるのなら、お昼を頂戴させていただきます」


 鉱夫達とのお昼は楽しかった。

 男所帯の鉱山で、ロビンはお姫様状態で、満更でもないようだった。

 俺も、つるはしを一度に運んだということもあって、人気者になった。

 スキンヘッドの店主は、今日一日作業をサボれたはずの鉱夫達から、嫌みを言われていた。

 嫌みと言っても大したことはない。

 鉱夫達は、仕事がなければ大したお金にならないのだから、冗談半分で言っているに過ぎないのだ。


「坊主の魔力なら、こいつも十分動かせるんじゃないか」

 鉱夫の一人が、ロッキングチェアというか、自転車とスクーターの中間のようなものを引っ張り出してきた。

「これって何ですか」

「これは、坑道で使っているそりだ。採掘したミスリルの鉱石を坑内から持ってくるんだ」

 俺は、跨ってみた。

 ハンドルを握ると、ハンドル部分から地面と接している滑走面まで魔力が通りやすくなっていることが分かる。

 滑走面は、スノーボードの板より少し細い感じのものだ。


(これは!)

 俺は動かす前から興奮した。

 異世界にこんなものがあったなんて。


 感覚だけで使い方が分かる。

 魔力を込め、思いっきり加速する。

 体を傾け、加速しながら曲がる。

(曲がる!)

 急減速する。

(止まる!)

 ブレーキが効くことを確かめた俺を止めるものはなくなった。


 周りの大人が呆れているのを尻目に満足するまで、坑道そりで走った。

「すみません、こんな楽しいものがあったなんて知りませんでした。すっかり夢中になってしまいました」

 俺は形ばかり謝りながら、そりを返した。


「お前はなんて奴だ」

「お前なら、ここで雇ってもいいぞ」

 現場監督のサンダーソンが俺に言った。

「いえ、まだ子供なので、皆様にご迷惑をかけても申し訳ありませんので、遠慮します」

 丁重に断った。

「お前くらいそりを扱える奴はどこにもいないぞ」

「凄かった。お前の名前を教えてくれ」

 鉱夫達は俺の周りに群がって、話し掛けてきた。


「サンダーソンさん、そろそろ帰らないとみんなが心配しますので」

 ロビンが助け舟を出した。

「サンダーソン様、そろそろ私も帰らせて頂きたいと思います」

 スキンヘッドの店主も空気を読んで帰り支度を始める。


「残念だな。その子の気持ちが変わったら、俺のところまで連絡をくれ。働かなくても、時々助けて貰うこともできるだろうしな」

「分かりました。この子には、私も目を掛けておりますので、ご用命の際にはお力になれるかと思います。それでは本日はご購入ありがとうございました」

 そう言って、店主は俺とロビンを連れて帰路についた。


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