39 ゴードンの作戦
日が落ちる少し前、夕暮れの時間帯、ジャッキークランから、まちまちな装備を付けた男たちがぞろぞろと出てきた。
商店街は、雰囲気を察し、とばっちりを避けるため、早々と店を閉め始めた。
「ジャッキーの相手は6歳の子供だというじゃないか」
「レースで八百長を潰されて、大損害の上に赤っ恥を掻いたんで、引っ込みがつかなくなったんだろ」
「それにしても子供相手にそこまでするなんて、恥ずかしいと思わんのかね」
「そこまでするような奴だから、クランもデカくなったんだろう」
「デカくても、この地方都市カーヴには不要なクランだ」
商店街でひそひそとジャッキークランへの批判が囁かれる。
ジャッキークランが、6歳のライダーに大敗北を喫したという話は、ものすごい勢いで街に広がっていた。
ジャッキークランは大きいが、やり口が強引なため人気は全くなかったが、表立って刃向かおうとする者は誰もいなかった。
★★★
「ジャッキーさんは本気で、こんなに人を集めて教会に攻め込むのかねえ」
「本気なんだろ。じゃないと俺達がこんな格好で攻め込むこともないだろう」
「でもクラン全員だなんて、聞いたこともない」
「俺が知ってる限り、クラン全員で攻め込むなんて初めてだぞ」
100人の団体が、おしゃべりをしながら教会までぞろぞろと歩いていく。
部隊としての統制は全く取れていない。
不良軍団が、遠足かバーベキューにでも行くような感じにしか見えない。
最後尾には、そりに何かを積んで運んでいる者たちが見える。
「ここまでジャッキーが本気だとは思わなかったぜ」
そりを曳いている男が言った。
「ホントだ。これがあれば憲兵団だって蹴散らせるからな」
別の男が答える。
「でもこんな重いもの、運ぶのが大変だぜ」
「あんまり不満を言うなよ。ジャッキーさんに聞かれたらどつかれるぜ」
★★★
「お~い、ジャッキークランが来るぞ」
修道士が教会に駆け込むなり、ジャッキークランが襲ってくることを伝えた。
思っていたよりも早い。
夕べのように、深夜襲ってくるとばかり思っていた。
こっちはまだ迎撃態勢が整っていない。
夜中の襲撃を予想していたので、まだ準備が整っていないのだ。
「ゴードン、取り敢えず二人で何とかするしかない」
「分かりました。ところで作戦はいかがしますか?」
ゴードンが俺に尋ねる。
「作戦?」
たった二人で迎撃するのに作戦も何もあったものじゃないと思っていた俺はハテナマークを発した。
「ええ、力押しでもなんとかなると思いますが、ラルフ様のお身体に傷が付くことだけは避けたいと思います」
ゴードンが俺の身体を心配する。
「そんなもの、どうだって構わない。まずは教会のみんなを守ることが一番だ」
無傷で勝ち切ることを考えていなかった俺は、無傷で勝とうとしてはいないことを、当然のようにゴードンに告げる。
「ラルフ様。主君の身体に傷を付けるような戦をするくらいなら、私一人で戦います。敵の到着まで、少しでも時間があるのなら、少しでも作戦を立て、主君の安全を確保するのが私の務めです」
「ゴードンには、何かいい作戦でもあるの?」
俺はゴードンの考えを尋ねる。
いい作戦があれば当然それに乗る。
無ければ、無いなりに戦えばいい。
「まあ、私が夕べのところに隠れて、後ろから不意打ちをすれば、少しは効率的に倒せると思いますが」
ゴードンは不意打ちを提案した。
ん?
ちょっと待て。
ゴードンはどこに隠れていたんだ?
『夕べのところ』って何なんだ?
俺はゴードンへ疑問をぶつけることにした。
「そう言えば、昨夜どうしてすぐに助けに来ることが出来たの?」
「主君の危機が私の心に届いたのです」
答えになっていない。
シックスセンス?
この世界に魔法はあるが、シックスセンスがあるとは聞いていない。
『夕べのところ』という単語に結び付いていない。
「そう言っても、あまりにも早すぎるよね。夕べのところって何の意味なの」
「主君の取り調べ、論理的過ぎて、逃げ道を塞がれていて、ネチネチした感じが、私の心の見せたくない部分をいじられているようで、羞恥心がとってもグッドです」
ゴードンは、何が恥ずかしいと言っているんだろう。
女なのに嬢が好きだということか?
嬢の話なんて今は一言も出していないが。
「そもそもゴードンはどこにいたの?」
「それは、教会の道路向かいですが」
「そこって、ただの茂みだよね」
「ただの茂みと言えば茂みですが、私にとっては素晴らしい寝床でした」
「そこを寝床にする意味があるの?ゴードンはギャンブルで大金を稼いでいたよね。そんなところで寝る必要はないよね」
「私にとっては主君のお側が全てです。豪華なベットで寝るよりも、主君のお側で夜露に濡れた方が幸せです」
いやいや、そんなストーカーまがいのことをされたら、その主君は恐怖で寝られないだろうけどな。
「そもそも、夕べ、ジャッキークランが襲ってくる前は、主君になるどころか、話もろくにしていないよね」
「私は運命に導かれて寝ていただけですが」
「もしかしてだけど、僕が教会にいることを調べあげて、そこにいた訳?」
「調べ上げたなんて、エルメス様が導きし運命に失礼な。レース場の出口で主君を待っていて、そこでエルメス様に導かれるように、偶然主君を見かけて、陰ながら護衛をしていたところ、教会にお入りになられたことから、そこの茂みで護衛を続けていただけですが」
頭が痛い。
人はそれをストーカーと呼ぶ。
俺のサイコロスキルでギャンブルに勝ったから、俺に近くにいればエルメスの加護が受けられると思って付いてきただけだろう。
しかし、茂みで寝てまでエルメスの加護が欲しいのか。
それでも夕べはゴードンがいなかったら、ロビンが怪我をしていたかも知れないことを考えると、ゴードンが俺をストークしていたことは、ある意味エルメスの加護なのかもしれない。
「分かった。ゴードンの鎧は、多少の魔法攻撃は耐えられるんだよね」
俺はゴードンが装備している銀鎧の性能を確認する。
「もちろんです。ほぼ全ての魔法攻撃を無効にします。夕べ見た主君のファイヤーボールであれば、全く問題ありません」
それってかなりチートな性能だ。
しかしそれ程の性能を持っているのであれば、誤射を気にせず魔法を放てる。
「なるべく魔法を当てないように注意する」
「私如きゴミのような存在に気を遣っていただく必要はありません。主君のお身体より大切なものは、この世にございません。万が一、主君のお顔に一筋でも傷が付いた時には、一族郎党全て根絶やしにさせていただきます」
「い、いや、そこまでは求めていないんだが」
俺は教会を守ることが出来ればいいのだ。
少しくらいの怪我はもとより覚悟の上だ。
「少しでも戦いやすくするために、主君の土魔法を使ってお願いしたいことがあるのですが」
ゴードンは、わずかな時間を使って、俺に戦の準備をさせる。
戦に際して、少しでも勝率を上げるために。
ゴードンは語らないが、やはりどこかの騎士だったんだろう。
指示が手馴れている。
ジャッキークランは総出で来るらしいが、人質を取られなければ、俺とゴードンは本気で戦うことが出来る。
教会のために、そして俺のレースのためにも、ここはジャッキークランを叩かなければならない。




