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12 その小僧、坑道を掃除する

 2週間ほど坑道の掃除をすると、なんとか清潔と言えるくらいのレベルになった。

 これでやっと、採掘に全力を注ぐことが出来る。

 魔力が足りなくなって、坑道内で休んでも、悪臭に悩まされることはないのだ。

 俺の親父も、毎日こんな劣悪な環境で働いていたんだと思うと、カス親父と思っていたことに罪悪感を感じた。

 でも、家にあまり金を入れないことは変わりはない。

 やっぱりカス親父に変わりはない。

 でも、こっちの仕事が軌道に乗ったら、親父の坑道の環境を改善してあげたいと思った。


 また、開墾も何とか格好がついてきた。

 ただ畑になればいい、という考えで開墾した訳じゃない。

 将来のビジョンを持って開墾していたのだ。

 平坦な土地。

 山あり谷ありの土地では使いづらいのだ。

 農地にするにしても、作業効率が変わってくる。

 また、将来的には、建物を建てたいと思っているので、そうなると、なるべく平坦な土地にするべきだと思う。

 そのために、最初が肝心なのだ。


 しかし問題はすべて解決する訳ではない。

 問題とは、毎日増えていくものなのだ。


 まず母親。

 俺が開墾をしていることを知ってからというもの、俺の農場を手伝いたいと言ってきた。


「ラルフ、お前、以前バスク坑道のあった場所の近くで、開墾をしているんだって」

 ある夜、母親のエメリーに聞かれた。

「しているよ」

 自然を装って返事をする。

 そろそろバレるころだとは思っていた。


「楽に働けるのなら、母さんもそこで働きたいんだけどね」

 そうきたか。

 経営権をくれ、というものでなければ、何とかする。


「どうしたの。今働いているところに不満があるの」

 転職理由を確認する。

 どんな理由で転職したいのか確認しなければ、後から、こんなはずじゃなかった、となりかねない。


「そっちは、日払いだそうじゃないか。今母さんが働いているところ、収穫にならないと払って貰えないからね」

 そういう理由か。

 確かに、収穫もないのに日払いで払っているところは珍しいと思う。

 俺のところは、いい働き口があれば、いつ転職しても大丈夫なように日払いにしている面もあるのだが。


「母さんなら大歓迎だよ」

 心にもない嘘をつく。

 身内を働かせるのは、正直心苦しい。

 思うように働いてくれなければ、他人なら厳しくも言えるが、それが母親となると言える訳がない。

 なので、できることなら俺のところで働いてほしくはない。

 まだ自転車操業で、赤字を補填してやっているだけなのだ。


「ところでいつから働けるの」

 本音を出さずに、俺は母親にいい顔をする。


「間もなく麦の刈り取りがあるから、それが終わったら辞めようと思っているよ」

「分かったよ、母さん。ところで父さんは知っているの」

 俺の起業と母さんの退職の両方を天秤に掛けた。

 先に答えた内容が、一番気になっていることだ。

 母が何を考えているか知りたい。


「父さんも知ってるよ。だって、お前が開墾していることは、結構有名だからね。ハンマーさんのお手伝いをしているんだろ。小さいのに良くやっているって、みんな褒めてたよ」


 ちょっと想定外の答えが返ってきた。

 想定外ではあるが、対応範囲内だ。

 俺が本当の経営者だということは、あまり知られていないようだ。


「そっか。開墾で働いている人は、その農場の雰囲気、なんて言っていたか分かる」

「お給金は、前の方が良かったけど、明るいところで働けて、いつも変わらない額を毎日貰えるから、今の方がいいと言っているみたいだね」

 そうなんだ。

 だから辞めないんだ。

 一応経費削減のため、週休3日にしている。

 俺は週休0日。

 経営者はつらいよ。(魔法の修行が目的なのだが)

 そうでもしなけりゃ、経費ばかりかさんでしまう。

 今の事業で利益が出ているのは、採掘のみ。

 開墾は、一部にやっと早生種の野菜を植えたばかり。

 それでも収穫は1か月後。

 開墾はまだまだ赤字。

 将来、黒字化になることを願って、なんとかミスリルで赤字を補填しながら雇用を維持している。

 1回くらい収穫したからと言って、どうにかなる訳ではないが、乗り掛かった船、雇用を継続しながら頑張りたい。

 俺は、母親にどんな仕事をさせるか考えることにした。



 数日後、俺は母親を雇ったことを後悔する羽目になった。

 母親が前職を辞めて、開墾に来ることになったが、賄いに回したのだった。

 賄いは、今までロビンとクロエがやっていたポジションだ。

 何が後悔することになったかというと、クロエが母親に向かって嫁に立候補したのだ。

 俺より2歳年上の8歳。

 8歳児が、恋愛脳を持っているかというと、持っていたんだなぁ、というのが俺の感想。

 考えてみれば、異世界兄貴のブルーノが、男気を見せたのは5歳。

 おませな女の子なら、8歳で恋愛脳を持っていても仕方ない。

 しかし待ってくれ。

 俺の姿は6歳児かもしれないが、実際の精神年齢は、30歳近い。

 つまり、恋愛対象として、クロエを見ることが出来ないのだ。


 クロエは、母親に向かって、

「ラルフ君を下さい。婿でも嫁でも構いません」

と言ってのけたそうだ。

 勘弁して欲しい。

 母さんの返事の内容は、笑って教えてくれなかったが、クロエを煽るような返事だったみたいだ。

 なぜなら、クロエの俺に対するアピールが日に日に強くなっていたから。


 正直、昼食の『あーん』が時々あるだけで苦痛だったのに、それが毎回となった。

 体の成長が著しいロビンには、私のこと捨てるの、とか言われてからかわれるし、正直困っている。

 クロエを嫁にするより、精神年齢と見た目から言ったら、ロビンの方がまだアリだ。


 そもそもクロエのことをブルーノが狙っているのだ。

 ブルーノだけではない。その友達もだ。

 クロエはあのグループのお姫様なのだ。

 兄貴の想い人を彼女や嫁にするなんてことは考えたくない。

 俺には、NTRという属性はない。

 そもそも俺のストライクゾーンから、年齢的な成長部分で外れているのだから。



「ラルフ君、あーんは」

「一人で食べられるよ」

「ラルフ君は疲れているんだから、少しでも休まないと駄目。クロエが食べさせてあげるから、口を開けなさい」

 毎日がこうだ。

 そんな俺の姿を見て、母さんとロビンはニヤニヤ笑いながら賄いを食べている。

 俺は、数日間耐えたが、ままごとゴッコを抜け出したくて、昼飯持参で坑道に潜ることにした。



 坑道に長く潜るにあたって、休憩部屋を作ることにした。

 将来、この坑道に鉱夫達を入れることになった場合、やはり休息する拠点は欲しいだろう。

 更に、トイレの問題もある。

 きちんとトイレを作れば、衛生的にもいいだろう。


 そういう訳で、休息部屋とトイレを土魔法を使って作ってみた。

 トイレは、開墾で余るほど出る雑木や切り株を風魔法でチップにしておがくずトイレを作った。

 休憩部屋とトイレは完全分離したので、臭い対策は大丈夫だ。


 これで昼にままごとをしなくてもいいと思うと気が楽になる。

 食べ物が朝と同じものになるのは仕方ない。

 前世では、独身だったため、いつも同じものばかり食べていたことを考えれば、全くとは言わないまでも我慢できる。


 そういう気楽な日々を数日過ごすと、ロビンとクロエが坑道そりに乗って賄いを届けに来るようになった。

 坑道そりは、バスク坑道を買い取る時に数台ついてきたので、ロビンが開墾管理に使っていることは知っていたが、クロエも乗れるようになっていたことは知らなかった。

 しかも、毎回採掘現場を変えているのに、迷路のような坑道をよく迷わずに到着するものだ。

 おかげで、美味しい賄いを食べることはできるのだが、8歳児のままごとが続くことになったことは非常に残念だった。


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